【弁護士に依頼するメリット】勤務先の特定や複雑な裁判所の手続きをご自身で行うのは精神的・時間的負担が大きくなります。弁護士に依頼することで、財産調査から差押えの申し立て、会社との連絡調整まで迅速かつ確実に行い、慰謝料の回収率を最大限に高めることができます。
不倫や浮気の慰謝料を請求し、裁判で勝訴したり公正証書を作成したりしたにもかかわらず、相手が任意に支払わないケースは少なくありません。このような状況で最終的な回収手段となるのが、相手の給与や退職金に対する強制執行(差押え)です。
しかし、給与差押えはどのような手順で行うのか、会社にバレてしまうのか、どのような書類が必要なのか、不安を感じる方も多いでしょう。ここでは、加害者の給与・退職金を差し押さえる際の実務手順と必要書類について、弁護士の視点から詳しく解説します。
給与・退職金差押えの前提条件と「債務名義」
給与や退職金を強制的に差し押さえるためには、まず法的な根拠となる債務名義(さいむめいぎ)を取得している必要があります。債務名義がない状態では、いくら相手に支払い義務があっても、裁判所を通じて財産を差し押さえることはできません。
慰謝料請求における主な債務名義には、以下のものがあります。
- 確定判決書:裁判を起こし、勝訴判決が確定したもの。
- 和解調書・調停調書:裁判所での和解や調停で、慰謝料の支払いに合意した内容が記載されたもの。
- 公正証書(強制執行認諾文言付き):公証役場で作成し、慰謝料を支払わない場合は直ちに強制執行に服する旨が記載されたもの。
これらの中で、公正証書は裁判を起こさずに比較的早期に取得できるため、示談の際には必ず「強制執行認諾文言」を付帯させることが極めて重要です。
勤務先(第三債務者)の正確な特定が不可欠
給与差押えを申し立てる際の実務上の大きなハードルが、差押え先(第三債務者)となる勤務先の正確な特定です。
裁判所に「債権差押命令申立書」を提出する際、勤務先の「正式な商号(会社名)」、「代表者の役職・氏名」、「正確な本店所在地」を記載しなければなりません。日常会話で使われている略称や、旧社名、間違った住所を記載してしまうと、申立が受理されなかったり、差押命令が無効になったりします。
勤務先を特定するための実務的なアプローチ
相手が転職していたり、勤務先を隠していたりする場合、以下の方法で特定を試みます。
- これまでのやり取りの記録:過去のメール、LINE、給与明細、源泉徴収票、名刺などの手元資料を確認する。
- 財産開示手続の利用:裁判所を通じて、債務者本人に現在の勤務先や財産状況を開示させる法的手続を利用する(令和2年の民事執行法改正により実効性が向上しました)。
- 第三者からの情報取得手続:日本年金機構や市区町村、金融機関などに対し、相手の勤務先情報に関する照会を行う法的手続を活用する。
特に弁護士に依頼している場合は、「弁護士法第23条の2に基づく照会(会照会)」を利用して、関係機関からスムーズに勤務先情報を割り出すことが可能です。
給与差押えの手続と「いくら回収できるか」のルール
勤務先が特定できたら、管轄の地方裁判所に対して債権差押命令の申立を行います。申立が認められると、裁判所から勤務先(第三債務者)および加害者本人(債務者)に対して債権差押命令が送達されます。
この命令が勤務先に届くと、勤務先は加害者に対して給与を支払うことが禁止され、差し押さえられた金額分を直接、被害者(債権者)に支払わなければならなくなります。
給与差押えの金額的制限
生活権の保障や労働者の保護の観点から、給与の全額を差し押さえることは法律で原則として禁止されています。差押えが可能な上限は以下の通りです。
- 手取り給与が44万円以下の場合:原則として、手取り額(税金や社会保険料を控除した額)の4分の1までが差押えの対象となります。
- 手取り給与が44万円を超える場合:手取り額から33万円を控除した残額全額を差し押さえることができます。
このように、給与差押えは毎月継続的に取り立てを行うことになりますが、相手の手取り額の4分の1ずつしか回収できないため、高額な慰謝料全額を回収し終えるまでには数ヶ月〜数年の期間を要するケースがあります。
退職金の差押えにおける実務上の注意点
給与だけでなく、退職金をターゲットにして慰謝料を回収することも可能です。退職金は一括でまとまった金額が支払われるため、成功すれば一気に全額に近い回収ができるメリットがあります。
しかし、退職金の差押えには特有の実務的注意点が存在します。
- 将来の退職金の事前差押えは原則困難:現在まだ在職中で、何年後に退職するか分からない時点での将来の退職金債権の差押えは、原則として認められないケースが多いです。
- 差押え可能な割合:退職金についても生活保障の観点から、原則として4分の3に相当する部分は差押禁止とされており、差し押さえられるのは退職金全体の4分の1までです。
- 退職時期の正確な把握:実際に退職するタイミングや、退職金支給の正確な時期を把握しておかなければ、適切なタイミングで差押命令を申し立てることができません。
退職金差押えを検討する際は、相手の退職予定時期や会社の退職金規程などを綿密にリサーチした上で、ピンポイントで申し立てを行う実務的戦略が求められます。
差押え手続きを弁護士に依頼するメリット
給与や退職金の差押えは、書類作成や裁判所とのやり取りなど、専門的な知識と時間が必要になります。特に、相手の勤務先の特定や、正確な財産特定、複雑な申立書類の作成を一般の方だけで完遂するのは容易ではありません。
公的な相談窓口や弁護士会等では、慰謝料請求の示談交渉から、公正証書の作成サポート、さらには判決後の強制執行・給与差押えに至るまで、トータルでサポートを行っております。
「相手が支払いに応じない」「勤務先が分からないけれど給与を差し押さえたい」とお悩みの方は、泣き寝入りする前に、ぜひ一度法テラスや弁護士会などの公的な法律相談をご活用ください。専門の弁護士が確実な回収に向けた最適な法的手段をご提案いたします。