被災者が遺言で「第三者」に給付金を遺贈しようとした場合の優先権

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、建設アスベスト給付金法、泉南アスベスト国賠訴訟判例、労災保険・石綿救済法および厚生労働省の最新認定基準に基づき、法律実務の視点からわかりやすく解説しています。

Q アスベストの給付金や賠償金を被災者が遺言で第三者に遺贈することはできますか?遺族の受給権との優先順位を教えてください。
A 【結論】アスベスト給付金や国に対する損害賠償請求権は、法律上「遺族固有の権利」とされているため、被災者が遺言で法定相続人以外の第三者に遺贈しようとしても、その遺言の効力は及びません。法律で定められた対象遺族が優先して受給することができます。
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アスベスト(石綿)の健康被害を受けられた方、また、惜しくもご家族を亡くされたご遺族の方にとって、国からの給付金や損害賠償金の受給は、今後の生活を支える極めて重要な手続きです。

しかし、実務の現場では、被災者ご本人が遺言書を残しており、その中で「お世話になった友人や内縁の配偶者などの第三者に、将来受け取る給付金を遺したい」と記載していたというケースに直面することがあります。このような場合、遺言による遺贈と、法律上の遺族による受給権はどちらが優先されるのでしょうか。

本記事では、建設アスベスト給付金および国家賠償請求における受給権の法的性質を紐解きながら、遺言と遺族の優先権について詳しく解説します。

アスベスト被害に対する給付金の法的性質とは

アスベスト訴訟の和解や、特定不活性建築材料等による健康被害の救済等に関する法律(建設アスベスト給付金法)に基づく給付金は、被害を受けたご本人(被災者)が持つ損害賠償請求権、あるいは法律上支給が認められた固有の給付金です。

被災者ご本人が生存中にこれらの請求権を行使し、金銭を受け取っていた場合、その金銭は通常の財産(相続財産)となります。したがって、ご本人が遺言書を作成していれば、その預貯金や現金などの財産は遺言の対象とすることが可能です。

しかし問題となるのは、被災者ご本人が給付金の申請手続きを行わないまま、あるいは請求手続きの途中で亡くなられた場合です。

遺族による受給権は「相続」ではなく「固有の権利」

建設アスベスト給付金や国に対する損害賠償請求において、被災者が亡くなった後にご遺族が請求を行う場合、法律はその権利を「遺族固有の権利」として保護しています。

最高裁判所の判例や法律の趣旨においても、アスベスト被害による損害賠償請求権は、被害者本人の死亡によって消滅するものではなく、法律が指定する一定範囲の遺族に対して、独自の請求権を発生させると解釈されています。

つまり、ご遺族が受け取る給付金は、被災者から「相続」した財産ではありません。ご遺族自身が法律上の要件を満たしているからこそ、直接国に対して請求できる独自の権利なのです。

遺言による「遺贈」が優先されない理由

民法上、遺言者は遺言によって自分の財産を自由に処分(遺贈)することができます。しかし、このルールが適用されるのは、あくまで「遺言者自身の財産」についてです。

前述の通り、アスベスト給付金の請求権(および未請求の損害賠償金)は、法律によって「遺族のもの」と定められた固有の権利です。被災者が生前にどれほど強い意思を持っていたとしても、自分のものではない権利(将来発生する遺族の固有の権利)を、遺言によって第三者に譲り渡す(遺贈する)ことは法律上できません。

したがって、以下のような法的整理となります。

  • 被災者が遺言で「第三者に給付金を遺贈する」と書いても、その遺言部分は法的な効力を持たない
  • 給付金や賠償金は、法律で定められた順位に従い、正当な遺族(配偶者、子ども、父母など)が受給権を持つ
  • 第三者が遺言を根拠に給付金を請求することは認められない

このように、被災者本人の意思(遺言)よりも、法律が保護する遺族の生活保障という趣旨が優先されることになります。

内縁の配偶者や事実婚に関する注意点

ここで実務上、非常に重要となるのが「遺族」の範囲に関する定義です。

法律上の遺族には、配偶者(事実婚や内縁関係を含む場合もありますが、要件が厳格です)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹などが一定の順位に従って含まれます。

もし被災者が「法律上の婚姻関係はないが、長年連れ添った内縁の妻に給付金を残したい」という思いから遺言書を書いた場合であっても、法律上の要件を満たす他の法定相続人(疎遠になっていた実の子どもなど)が存在する場合、その子どもが優先されるケースがあります。

内縁の配偶者が給付金を受給するためには、単に遺言書があるということだけではなく、労働者災害補償保険法における遺族補償給付の受給権者と同等の生計維持関係にあったことなどを証明していく必要があります。単なる「第三者への遺贈」としての遺言書では、内縁関係者の権利を守りきれないリスクがあるため注意が必要です。

複雑な相続や遺言に関するトラブルを防ぐために

アスベスト被害における給付金請求や損害賠償請求は、通常の相続手続きとは異なる特殊な法律知識が求められます。

「被災者が残した遺言書が見つかったが、内容に納得がいかない」 「遺言書に書かれた第三者と、法律上の遺族の間でトラブルになりそう」 「そもそも誰が正式な請求権者になるのか判断がつかない」

このような状況でお困りの場合は、自己判断で手続きを進めるのではなく、アスベスト被害の救済に精通した弁護士にご相談ください。

夕陽ヶ丘法律事務所では、被災者ご本人からのご相談はもちろんのこと、残されたご遺族の皆様が正当な給付金を受け取れるよう、法的観点からきめ細やかにサポートしております。初回のご相談は無料となっておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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