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昭和期のパン工場・製菓工場における大型オーブンとアスベスト問題
高度経済成長期から昭和の終わりにかけて、日本の食文化は大きく変化し、大量生産・大量消費の時代を迎えました。パンやビスケット、スナック菓子などを製造する大手食品メーカーの工場では、効率的に製品を焼き上げるために「大型焼成窯(トンネルオーブンやデッキオーブンなど)」が昼夜を問わず稼働していました。
これらの巨大な熱源機器は、内部の熱を逃がさず、効率的な熱効率を維持するために、優れた耐火性と断熱性を備えた材料で囲まれる必要がありました。その中心的な資材として採用されていたのが、他ならぬ石綿(アスベスト)です。
パン工場や製菓工場での作業というと、小麦粉の粉じんによる健康被害(職業性喘息など)がクローズアップされがちですが、実は高温を扱う製造設備の断熱工事やメンテナンス、そして工場自体の改修・解体工事に携わった労働者にとって、アスベストによる重篤な健康被害のリスクが深刻な問題として潜んでいました。
どのような作業でアスベストにばく露したのか
パン製造工場や製菓工場の大型焼成窯に関連して、アスベストを吸い込んでしまうリスク(ばく露)があった主な状況には、以下のようなものが挙げられます。
- 焼成窯の製造・据付工事: 工場内に巨大なオーブンを設置する際、鉄骨の外側や内部の燃焼室周りに石綿含有断熱材を貼り付けたり、吹き付けたりする作業が行われました。
- 日々の保守・メンテナンス作業: 高温で常時稼働するオーブンは老朽化しやすく、断熱材の補修や交換が頻繁に行われました。劣化した石綿断熱材を剥がしたり、新しく詰め直したりする際、粉じんが周囲に飛散しました。
- 耐火被覆の補修・吹き替え: 窯の周囲の壁や天井に施された耐火被覆が剥がれた際、左官工や断熱工が新たに石綿材料をコテ塗りしたり、吹き付けたりする作業を行いました。
- 工場の老朽化に伴う解体・改修工事: 昭和期に建てられた古い工場ラインの刷新や、プラント全体の解体工事の際、養生を十分に行わずにオーブン周辺の断熱材を粉砕・撤去する作業が行われました。
これらの作業現場では、目に見えないほど微細なアスベスト繊維が空気中に舞い上がり、換気の十分ではない屋内の密閉された空間で、多くの労働者が防塵マスクも十分に着用しないまま吸い込んでしまっていたのです。
対象となる疾患と発症までの長い潜伏期間
アスベストを吸い込んだ場合、その影響がすぐに体に現れるわけではありません。体内に取り込まれたアスベスト繊維は、数十年という長い年月(一般的に10年〜40年以上)を経て、以下のような深刻な健康被害を引き起こします。
- 中皮腫(ちゅうひしゅ): 肺を覆う胸膜や腹部を覆う腹膜などに発生する悪性腫瘍です。アスベストばく露に特有の疾患であり、少量であっても発症することが知られています。
- 石綿肺(いせきめんはい): 肺が線維化してしまう病気で、長期間にわたり大量のアスベストを吸入した人に発症します。進行すると息切れや咳などの症状が現れます。
- 肺がん: アスベストの吸入によって肺組織にがんが発生します。喫煙との相乗効果があることも知られていますが、非喫煙者であっても発症します。
- 良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚(ひまんせいきょうまくひこう): 胸膜が線維化して厚くなり、呼吸困難や胸痛を引き起こす疾患です。
現役時代には何ともなかった方であっても、退職後や高齢期を迎えてから突然これらの疾患を発症し、病院でアスベストが原因と告げられて驚かれるケースが後を絶ちません。
国や企業に対する法的請求(給付金・損害賠償)について
昭和期の工場におけるアスベスト被害については、国や企業の責任が法的に認められています。労働基準監督署での労災認定を受けているかどうかにかかわらず、一定の要件を満たしている場合には、国に対して「建設アスベスト給付金」(※作業内容が建設作業等に該当する場合)や、国に対する国家賠償請求訴訟、さらには当時オーブンを製造・設置していたメーカーや工場を経営していた事業者に対する「損害賠償請求」を行うことができます。
特に、食品製造業やプラント関連の企業において、労働者の安全配慮義務を怠り、十分な防塵対策や健康管理を行っていなかった場合、民事上の損害賠償責任が認められる可能性が高くなります。
請求を行うために重要なポイント
- 作業歴・ばく露歴の立証: どの工場で、いつ頃、どのような大型焼成窯の設置・保守・解体作業に関わっていたかの記録や記憶が重要になります。社内報、給与明細、作業日報、当時の同僚の証言などが有力な証拠となります。
- 医師による診断書の取得: 中皮腫や肺がんなどの確定診断がなされた診断書、およびカルテが必要です。
- 時効への注意: 損害賠償請求権には「損害および加害者を知ったときから原則として3年」という消滅時効が存在するため、病名が判明した後は速やかに弁護士等の専門家に相談することが不可欠です。
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所にご相談ください
昭和期のパン製造工場や製菓工場の大型オーブンにおける石綿断熱作業は、特殊なプラント工事の一環として行われることが多く、通常の建設作業や一般事務作業とは異なる独自の複雑な立証が求められることがあります。
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