相手が「無職になった」と主張して支払いを逃れようとしても、勤務先から支給される退職金受給権を裁判所の強制執行手続きにより差し押さえることで、慰謝料を回収することが可能です。法律上、退職金は原則として支給額の最大4分の1まで差し押さえが認められています。
【弁護士による迅速な財産調査と法的措置】
勤務先が分かっていれば、退職金の支給時期を狙って迅速に債権差押命令を申し立てることで、支払いを免れることを防げます。口頭の約束では逃げられるリスクが高いため、公正証書や判決等の債務名義を早期に取得し、弁護士のサポートのもと確実な財産調査と回収手続きを進めることが重要です。
不倫の慰謝料を請求した際、相手の男性から「もう会社を辞めたから、手取りの給料なんてない」「無職だから払いたくても払えない」と開き直られるトラブルが後を絶ちません。支払いを免れようとする常とう手段ですが、ここで諦める必要は全くありません。
会社を辞めた男性であっても、それまでの勤続年数に応じた退職金が発生している場合が多く、この退職金は慰謝料回収のための強力な差し押さえ対象となります。本記事では、退職金を狙った差し押さえの仕組みや、実際の回収に向けた重要なポイントを弁護士の視点から詳しく解説します。
なぜ「無職になった」と言われても諦めなくてよいのか
不倫の慰謝料を請求された側が「無職になった」「収入がない」と主張する背景には、支払いを引き延ばしたり、そのままうやむやにさせたりしようという意図が隠されていることが少なくありません。
しかし、日本国内で企業に正社員や契約社員として一定期間勤務していたのであれば、退職時にまとまった額の退職金が支給されるケースがほとんどです。給与という毎月の定期収入が途絶えたとしても、退職金という大きな一括の財産が存在すれば、そこから慰謝料を回収できる可能性が十分にあります。
法律上、確定した慰謝料請求権(裁判上の判決や和解調書、公正証書がある状態)を持つ債権者は、相手の持つあらゆる財産を強制執行する権利を有しています。給与の差し押さえが難しくなった局面こそ、退職金にターゲットを切り替える戦略が極めて有効です。
退職金差し押さえの基本ルールと法律上の上限
退職金を差し押さえて慰謝料を回収するためには、いくつかの法的要件とルールを理解しておく必要があります。
- 債務名義の取得が必須: 差押えを行うためには、原則として裁判所の判決や、強制執行認諾文言付きの公正証書など、法的な強制力を持つ「債務名義」が事前に必要となります。
- 差し押さえられる上限額: 法律により、退職金の全額を一度に差し押さえることは認められていません。生活保障の観点から、原則として退職金手取り額の4分の1までが差押えの対象となります(残りの4分の3は相手の生活費として保護されます)。
- 例外的に2分の1まで可能なケース: 慰謝料の額が高額である場合や、婚姻関係の破綻に伴う悪質な不貞行為に対する損害賠償など、裁判所の判断や法律の規定により、受け取る退職金の2分の1まで差し押さえの範囲が広がるケースもあります。
このように、すべての額を一網打尽にできるわけではありませんが、まとまった額の退職金であれば、4分の1であっても数十万円から数百万円に達することがあり、慰謝料の大部分を一度に回収できる強力な手段となります。
退職金を差し押さえるための具体的な手順
実際に相手の退職金から慰謝料を回収するためには、以下のステップを踏んで法的手続きを進めることになります。
- 勤務先情報の特定: 相手がどの会社をいつ退職したのか、あるいは現在も在籍していて間もなく退職する予定なのかを正確に把握する必要があります。勤務先が特定できていなければ、退職金の差押え申し立てを行うことができません。
- 財産開示手続や弁護士会照会の活用: 相手が勤務先を隠している場合や、詳細が分からない場合は、弁護士会を通じた照会制度(22条照会)や、裁判所の「財産開示手続」を利用して、相手の勤務先や退職状況を法的に明らかにさせることができます。
- 裁判所への債権差押命令の申し立て: 勤務先が判明したら、相手の住所地を管轄する地方裁判所に対して「債権差押命令」の申し立てを行います。この申し立てが受理されると、裁判所から相手の元勤務先に対して、退職金を支払わずに差し押さえるよう命令が送達されます。
- 取り立ての実施: 差押命令が相手の元勤務先に届いた後、勤務先から裁判所を通じて、または直接債権者に退職金相当額が支払われます。
退職金狙いの差押えにおける注意点とタイムリミット
退職金を差し押さえて確実に回収するためには、時間的なタイミングが非常に重要です。
- 退職金の支給時期との勝負: 相手が退職してから長期間が経過し、すでに退職金が本人の手に渡って口座から引き出されて使われてしまっている場合、その現金を特定して差し押さえることは極めて困難になります。そのため、退職のタイミングや支給日をいち早く察知し、退職金の「支給前」または「支給直後」に素早く差押命令を第三者債務者(元勤務先)に送達させることが成功の鍵となります。
- 求償金との関係への配慮: 不倫相手の男性(あるいは配偶者)に請求する際、求償金に関する法的な整理も頭に入れておく必要があります。例えば、夫に対してのみ不倫慰謝料を請求する場合、夫が支払った後に妻に対して求償権(自分一人の責任ではないとして分担を求める権利)を主張してくる場合がありますが、相手が退職金を隠そうとする悪質なケースでは、まずは手元の確実な債権回収を最優先に法的手続きを進めるべきです。
まとめ:相手が会社を辞めても泣き寝入りする必要はありません
不倫男が「会社を辞めて手取りが無くなった」と言い張るのは、多くの場合、あなたに請求を諦めさせるための常套句にすぎません。
勤務先から支給される退職金は、法律上の要件を満たし、適切なタイミングで差し押さえの手続きを行えば、強力な回収手段となります。相手の嘘やごまかしに惑わされず、法的な権利を正しく行使して慰謝料をしっかり受け取りましょう。
公的な相談機関や専門窓口では、相手の財産調査から退職金の差し押さえ申し立て、複雑な交渉まで、依頼者様に代わってトータルでサポートいたします。「相手が無職になったと言っているがどうすればいいか分からない」とお悩みの方は、ぜひ一度、法テラスや弁護士会等の公的相談窓口へご相談ください。