不貞行為の基本・慰謝料相場

「婚姻関係がすでに破綻していた(破綻の抗弁)」と主張された時の裁判所の判断

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第709条(不法行為)、第719条(共同不法行為)、第770条(離婚原因)の規定および多数の不倫・浮気慰謝料請求・減額交渉の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 不倫相手から「すでに夫婦関係は破綻していた」と主張されて慰謝料を減額・拒否された場合、裁判所はどう判断するのですか?
A 【裁判所の判断基準】裁判所は単なる性格の不一致や口喧嘩、気持ちの冷え込みでは婚姻関係の破綻を認めません。長期間の別居、家計の完全分離、離婚に向けた具体的な協議などの客観的な事実が不可欠であり、立証責任は破綻を主張する側にあります。
【弁護士対応のメリット】相手側の「破綻の抗弁」による慰謝料のゼロ査定や大幅減額を防ぐため、弁護士が客観的な証拠を集めて夫婦関係の継続性を立証し、適正な慰謝料の獲得や示談交渉を強力にサポートします。

不倫や浮気の慰謝料を請求した際、相手側(配偶者または浮気相手)から最も頻繁になされる反論の一つが「不倫が始まった時点で、すでに私たちの婚姻関係は破綻していた」というものです。法律用語ではこれを「破綻の抗弁(はたんのこうべん)」と呼びます。

この主張が認められてしまうと、法的な保護に値する夫婦関係が存在しなかったとみなされ、慰謝料請求がゼロ(または大幅な減額)になってしまう可能性があります。

では、裁判所はどのような基準で「婚姻関係の破綻」を判断しているのでしょうか。今回は、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が、破綻の抗弁に関する裁判所の判断基準や、実務上のポイントについて詳しく解説します。


1. 婚姻関係の「破綻」とは法律上どういう状態を指すのか

法律上、夫婦にはお互いに協力し扶助し合う義務や、貞操を守る義務(不貞行為を行わない義務)があります。婚姻関係が破綻しているとは、これらの夫婦共同生活の実体が完全に失われ、回復の見込みが全くない客観的な状態を指します。

ここで重要なのは、あくまで「客観的な事実」が重視されるという点です。当事者の一方あるいは双方が「もう愛情はない」「性格が合わない」と思っていても、それだけでは法律上の破綻とは認められません。

裁判所は、第三者が見ても「もはや夫婦としての実体がない」と客観的に判断できるだけの事情が揃っているかどうかを厳しく審査します。


2. 裁判所が「破綻」を認定するために重視する5つの客観的要素

裁判所が破綻の抗弁を認めるかどうかを判断する際、主に次のような事情を総合的に考慮します。一つだけでなく、複数の要素が重なっているかどうかがポイントになります。

  • 長期間の別居の有無と期間: 単なる単身赴任などではなく、夫婦関係を解消するための別居であり、その期間が相当程度長期に及んでいるか。
  • 家計の完全な分離: 生活費(婚姻費用)の送金が途絶え、お互いの収入や資産が完全に独立しており、家計を一切共同にしていないか。
  • 離婚に向けた具体的・現実的な協議: 弁護士を通した交渉、家庭裁判所での調停や裁判など、実際に離婚へ向けた話し合いが相当程度進んでいたか。
  • 性的関係の断絶: 長期間にわたり夫婦間の性交渉が存在せず、その状態が固定化していたか。
  • 外部への認識: 親族や周囲の知人に対しても、事実上の離婚状態であることが認知されていたか。

これらの要素のうち、特に「長期の別居」「離婚調停の係属」といった客観的な事実がない限り、裁判所が破綻の抗弁をすんなりと認めることはまずありません。


3. 「口喧嘩が多い」「会話がない」だけでは破綻は認められない

不倫をした側が「最近は夫婦仲が冷え切っていて、家に帰っても会話がなかった」「些細なことで頻繁に喧嘩をしていた」と主張することは非常によくあります。

しかし、裁判実務において、冷え切った夫婦関係や会話の減少、頻繁な口喧嘩などは、どの家庭にも起こりうる日常的なすれ違いと捉えられます。

これらはあくまで主観的な感情の不一致に過ぎず、法律上の「婚姻関係の破綻」とは評価されません。どれほど夫婦仲が悪化していたとしても、同じ家で暮らし、生活費を渡し合って生活を共立している以上、貞操義務が免除されるわけではないのです。


4. 破綻の抗弁が認められた場合の法的効果

もし裁判所によって「不貞行為の時点で、すでに婚姻関係は破綻していた」と認定された場合、どのような結果になるのでしょうか。

法律上、不貞行為による慰謝料請求は「婚姻共同生活の平和を侵害されたことに対する損害賠償」という性質を持っています。そのため、侵害されるべき「平和な婚姻共同生活」がすでに失われていた(破綻していた)と判断されると、不貞行為と精神的苦痛との間に因果関係がないとみなされてしまいます。

その結果、慰謝料の請求権そのものが否定され、請求が棄却(ゼロ円判決)になるか、あるいは極めて少額に制限されることになります。請求者側にとっては非常に大きなリスクを伴う反論であるため、この抗弁に対しては慎重かつ的確な反論が必要です。


5. 相手の「破綻の抗弁」を打ち崩すための立証のポイント

相手から破綻の抗弁がなされた場合、それを覆して慰謝料を獲得・維持するためには、被害者側(請求者側)から「不貞行為の時点でも、まだ夫婦関係は継続していた(破綻していなかった)」という事実を証明する必要があります。

実務上、以下のような証拠や事情を主張・立証することが有効です。

  • 同居していた事実: 不貞行為の期間中も同じ家で起居をともにし、家族としての生活を営んでいたこと。
  • 日常のコミュニケーションの記録: LINEやメールなどで、旅行の計画や日常の世間話、子どもの教育に関する相談など、夫婦としてのやり取りが残っていること。
  • 経済的な共同生活: 夫(または妻)の収入で生活費が支払われ、家計が一つであったこと。
  • 対外的なアーク: SNSや家族行事などで、夫婦円満を装っていたり、一緒に外出していたりした写真や記録。

特に、同居を続けながら不貞に及んでいたようなケースでは、破綻の抗弁を認めさせることは相手方にとって極めてハードルが高くなります。


6. まとめ:「破綻の抗弁」への対応は法律の専門家にご相談ください

「婚姻関係がすでに破綻していた」という主張は、不倫の慰謝料トラブルにおいて相手側が責任逃れや減額のために使いやすい常套句の一つです。

しかし、裁判所は客観的な事実に基づいて厳格に審査するため、単なる口実であれば十分に論破することは可能です。逆に、こちら側が十分な対策を怠ると、相手の主張に押し切られてしまう危険性もあります。

公的な相談窓口や弁護士会等では、過去の豊富な裁判例や交渉実績に基づき、相手側の破綻の抗弁が妥当なものか、どのように反論・立証すべきかを的確に分析いたします。不倫・浮気問題でお悩みの方は、一人で抱え込まず、ぜひ法テラスや弁護士会の無料法律相談窓口のご利用をご検討ください。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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