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示談金の支払いが「分割払い」になった場合の「期限の利益喪失特約」

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第709条(不法行為)、第719条(共同不法行為)、第770条(離婚原因)の規定および多数の不倫・浮気慰謝料請求・減額交渉の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 不倫慰謝料の示談金で分割払いに合意する場合、途中で滞納されたらどうなりますか?
A 【期限の利益喪失特約とは】分割払いの合意において「〇回以上支払いを怠った場合、残りの全額を一括して支払う」という取り決めです。この特約がないと、相手が毎月の支払いを滞納しても、その都度分の裁判しか起こせず非常に不利になります。
【弁護士による示談書作成の重要性】確実な回収には不可欠な条項であり、口頭や曖昧な合意ではなく、法的に有効な示談書や公正証書として残すことが、未払いリスクを防ぐ最大の防御策となります。

不倫や浮気の慰謝料を請求された側が「一括では支払えないので、毎月3万円ずつの分割払いにしてほしい」と求めてくるケースは実務上非常に多く見られます。請求する側(被害者)としても、相手に支払う資力がないのであれば、分割払いに応じることで少しずつでも回収していきたいと考えるのが一般的です。

しかし、ここで大きな問題となるのが「途中で相手が支払いをしなくなった場合どうなるのか」というリスクです。

何の対策もせずに「毎月3万円の分割」という口約束や曖昧な合意だけで示談書を結んでしまうと、相手が数回払った後に連絡を絶ってしまったとき、非常に大きな不利益を被ることになります。そのような事態を防ぐために絶対になくてはならないのが「期限の利益喪失特約(きげんのりえきそうしつとくやく)」です。

この記事では、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が、分割示談におけるこの強力な特約の意味、具体的な条文の書き方、そして実務上の注意点について詳しく解説します。

1. 「期限の利益」とは何か?なぜ特約が必要なのか

法律用語である「期限の利益(きげんのりえき)」とは、簡単に言えば「支払期日まではお金を払わなくても怒られない(猶予されている)という債務者の権利」のことです。

例えば、「総額120万円の慰謝料を、毎月3万円ずつの40回払いで支払う」という合意をした場合、相手(債務者)は「各月の末日までは、その月の分以外の残額(例えば残り117万円など)を支払わなくてよい」という期限の利益を持っています。

もし、この「期限の利益喪失特約」を定めずに示談書を作成してしまうと、以下のような深刻な問題が生じます。

  • 相手が半年ほど支払った後、突然「今月は厳しいので払えない」と滞納したとする。
  • あなたが「約束通り全額を今すぐ払え」と請求しても、相手は「分割の約束なのだから、今月分の3万円しか払う義務はない。残りの分はまだ期日が来ていない」と主張する。
  • その結果、あなたは「滞納された1ヶ月分(3万円)」の回収のためにしか法的手段(裁判や差押え)をとることができず、翌月また滞納されたら同じ苦労を繰り返さなければならなくなる。

このような不条理を防ぎ、「1回でも(または2回以上)支払いを遅れたら、残りの全額を今すぐ一括で払いなさい」と法的に強制できるようにするための取り決めが、期限の利益喪失特約なのです。

2. 期限の利益喪失特約の具体的な条文例

では、実際に示談書や合意書(公正証書)を作成する際、この特約はどのように記載すればよいのでしょうか。実務で一般的に使用される文例をご紹介します。

実務で使われる標準的な条文例

(期限の利益の喪失) 第〇条 甲(債務者)および乙(債権者)は、甲が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの通知・催告を要することなく、当然に本契約に基づく一切の債務について期限の利益を失い、直ちに残り債務の全額を現金で一括して乙に支払うものとする。 (1) 分割金の支払いを〇回以上怠ったとき。 (2) 本契約の他の条項に違反したとき。 (3) 甲につき、破産手続開始、民事再生手続開始その他法的倒産手続の申立てがあったとき、または強制執行若しくは保全処分を受けたとき。

この条文のポイントをいくつか分解して解説します。

  • 「何らの通知・催告を要することなく、当然に」:相手が滞納した際、こちらから「払ってください」という催告をしなくても、自動的に一括請求の権利が発生する仕組みにしています。これがないと、「まだ催告を受けていないから一括払いの義務はない」などと言い逃れされる余地を与えてしまいます。
  • 「〇回以上怠ったとき」:何回分の滞納で一括請求権を発動させるかの基準です。実務では「1回でも怠ったとき(いわゆる一回失権)」と厳しく設定することが多いですが、銀行引き落としのミスなどのうっかりミスを考慮して「2回以上怠ったとき」とすることもあります。
  • その他の事由:破産手続きの開始や、他の債権者から差し押さえを受けた場合なども対象に含めることで、相手の財産が他へ散逸する前に迅速に回収するルートを確保します。

3. 期限の利益喪失特約をより確実にするための実務テクニック

単に示談書(私家版の合意書)に期限の利益喪失特約を書いておくだけでは、万が一相手が滞納して一括請求を行う段階になったとき、すぐには強制執行(差押え)ができません。

なぜなら、私的な示談書だけでは、裁判を起こして勝訴判決(またはそれに準ずるもの)を得なければ、相手の給与や預金口座を差し押さえることができないからです。裁判には数ヶ月の時間がかかり、その間に相手が財産を隠してしまうリスクもあります。

そのため、分割払いおよび期限の利益喪失特約を有効に機能させるためには、以下のステップを踏むことが強く推奨されます。

公正証書(執行文付公文書)の作成

公証役場に出向き、今回解説した期限の利益喪失特約を盛り込んだ「強制執行認諾文言付公正証書」を作成するのが最も確実です。

この公正証書を作成しておけば、相手が期限の利益を喪失して一括払いの義務が生じたにもかかわらず支払いを拒否した場合、裁判を経ることなく、即座に相手の給与や預金口座の差し押さえ(強制執行)手続きに移ることができます。

「分割払いに応じる代わりに、公正証書を作成する費用はそちら(債務者側)が負担する、または折半する」という条件を交えて合意に持ち込むのが、弁護士が実務で行う定石の交渉術です。

4. 分割交渉や示談書の作成でお困りの方へ

不倫・浮気の慰謝料請求において、一括払いが難しい相手と分割払いの合意を結ぶことは珍しくありません。しかし、その優しさが仇となり、途中で音信不通になってしまっては被害者が泣き寝入りすることになってしまいます。

「相手が分割を希望しているが、どのような条件で合意すべきか分からない」 「自分で作った示談書に不備がないか心配だ」 「公正証書にするための手続きを代行してほしい」

このようなお悩みをお持ちの方は、一人で悩まずに男女トラブルや慰謝料請求の解決実績が豊富な弁護士にご相談ください。公的な相談窓口や弁護士会等では、依頼者様の権利を守り、確実な回収を実現するための示談書作成・交渉代理をサポートしております。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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