【法的手続のメリット】法律の原則である被告住所地での裁判を回避し、遠方への出廷や弁護士の出張費用などの経済的・精神的負担を大幅に軽減することで、相手に心理的プレッシャーを与えつつスムーズな権利実現が可能になります。
不倫や浮気のトラブルが発覚し、慰謝料の支払いや今後の接触禁止について話し合いがまとまったとき、非常に重要な役割を果たするのが「示談書(合意書)」です。
多くの当事者は、「お金を支払ってもらうこと」や「二度と会わないと約束させること」だけに意識が向きがちですが、本当に怖いのは「約束が破られたとき」の現実です。
もし相手が慰謝料を分割払いの途中で支払わなくなったり、再び配偶者と連絡を取ったりしたとき、あなたはどうやって権利を守りますか?
約束を破られた場合、最終的には裁判所に訴訟を提起して強制執行を目指すことになりますが、その際に「どこで裁判をするか」という問題が大きな負担として牙を剥きます。
今回は、示談書に必ず盛り込むべき「裁判管轄の合意」について、被害者側が主導権を握り、圧倒的に有利に戦うための実務知識を夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が徹底解説します。
なぜ「裁判管轄」が不倫の示談書で重要なのか
通常、日本の民事訴訟では、法律上の原則として「被告の住所地を管轄する裁判所」で裁判を起こさなければならないというルール(被告の普通裁判籍の所在地)があります。
これを不倫問題に当てはめて考えてみましょう。
あなたが東京に住んでいて、相手(不倫相手や配偶者)が北海道や九州、あるいは遠方の地方都市に住んでいるケースを想定してください。
相手が示談書に違反して慰謝料を支払わないため、いざ裁判を起こそうとしたとき、原則通りにいけば「相手の住む遠方の裁判所」まで出向かなければならなくなります。
遠方の裁判所が指定されることのリスク
- 裁判の期日ごとに遠方への移動交通費や宿泊費がかさむ
- 平日に仕事を休み、何時間もかけて裁判所へ出廷する精神的・肉体的負担が大きすぎる
- 遠方の弁護士を探して依頼し直すか、地元の弁護士に「日当」を支払って遠方まで同行してもらわなければならない
- あまりの負担の大きさに、被害者側が途中で諦めてしまい(泣き寝入り)、不払い放置を許してしまう
このように、原則のルールにそのまま従ってしまうと、「被害を受けた側が、金銭的にも時間的にもさらに二重のダメージを受ける」という非常に不条理な事態が生じます。
「合意管轄」を利用して被害者側の地元を守る
この不条理を防ぐために法律上認められているのが、当事者間の契約(示談書)によって裁判をする裁判所をあらかじめ決めておく「合意管轄(ごういかんかつ)」という制度です。
民事訴訟法上、当事者は書面による合意によって、特定の裁判所を管轄裁判所とすることができます。
これを利用し、示談書の中に「本件に関する紛争については、原告(被害者)の住所地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」という条項を盛り込むのです。
「専属的」と「付加的」の違いに注意
ここで実務上非常に重要なポイントがあります。それは、単なる「管轄の合意」ではなく、必ず「専属的合意管轄(せんぞくてきごういかんかつ)」として定めなければ意味がないという点です。
単なる管轄の合意(付加的合意管轄)の場合、法律上の原則である相手(被告)の住所地を管轄する裁判所も管轄権を持ったままとなり、相手側が先にそちらの裁判所で別の手続きを起こすなどの先手を取られるリスクが残ってしまいます。
「専属的」と明記することで、「他の裁判所では絶対に裁判ができない(被害者側の指定する裁判所でしか争えない)」という強い法的拘束力を持たせることができます。
示談書にそのまま使える実際の条項文例
実務の現場で実際に使用されている、被害者側を徹底的に守るための裁判管轄条項の文例をご紹介します。
第〇条(合意管轄)
甲(被害者)および乙(加害者)は、本契約に関して万が一紛争が生じた場合、訴額に応じて、甲の住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
この条項をあらかじめ示談書に組み込んでおくことで、万が一の未払い発生時にも、あなたが住んでいる身近な地元の裁判所を利用して、スムーズに法的督促や差押えに向けた法的手続きを進めることが可能になります。
加害者側から「不公平だ」と反対されたときの対処法
示談書の交渉を進めるなかで、加害者側やその代理人弁護士から、この「被害者側の裁判所を指定する管轄条項」に対して難色を示されるケースが稀にあります。
「自分の地元の裁判所じゃないのは不公平だ」「こちらの負担が大きすぎる」といった理由で変更を求めてくることがありますが、ここで安易に妥協してはいけません。
なぜ被害者側の要求を貫くべきなのか
- 不倫という不法行為によって精神的・肉体的苦痛を与えたのは「加害者側」である
- 約束をきちんと守り、慰謝料を全額支払い、接触禁止を守っていれば、裁判管轄がどこであっても加害者側に実害や不都合は一切生じない
- 「裁判を起こされないように約束を守る」ための誓約書・示談書である以上、ルールを破った側の便宜を図る必要はない
実務上、誠実に支払う意思がある加害者であれば、この条項を理由に示談交渉が破談になることはほとんどありません。もしこれに過剰に反発してくる場合、最初から「約束を守る気がない」「踏み倒す気でいる」リスクを疑うべきサインでもあります。
公正証書を作成する場合の裁判管轄の扱い
示談書を私文書ではなく、公証役場で「執行力付与協定付きの公正証書」として作成する場合も、裁判管轄の合意は極めて重要です。
公正証書を作成しておけば、万が一慰謝料の未払いが発生した際に、わざわざ裁判を起こして判決を取らなくても、直ちに給与や預貯金口座の「強制執行(差押え)」を申し立てることができます。
「では、裁判をしないなら裁判管轄の合意は意味がないのでは?」と思われるかもしれませんが、それは誤りです。
公正証書に記載された慰謝料の支払義務に対して、加害者側が「時効が完成している」「減免の合意があった」「そもそも脅されて署名した」などの理由で「請求異議の訴え」を起こしてくる場合があります。
また、接触禁止条項の違反をめぐって損害賠償請求訴訟を新たに提起するケースもあり得ます。そのため、公正証書を作成する場合であっても、将来のあらゆる紛争に備えて被害者側の裁判所を指定する合意を入れておくことが、実務上の鉄則となります。
示談書の条項作成は専門の弁護士へお任せください
不倫・浮気の慰謝料請求において、示談書はあなたの未来の平穏と権利を守るための「最大の武器」です。
ネット上で見つけたテンプレートをそのまま流用したり、相手の言いなりで不利な内容のままサインしてしまったりすると、いざというときに一切法的効力が発揮できず、取り返しのつかない後悔につながる恐れがあります。
特に「裁判管轄」や「遅延損害金」「ペナルティ条項」「秘密保持条項」などは、法的な専門知識を持って正確に盛り込まなければ、被害者側が圧倒的に不利な状況に置かれてしまいます。
公的な相談窓口や弁護士会等では、数多くの不倫・浮気慰謝料請求、示談書作成、公正証書化のサポート実績を持つ弁護士が、あなたの状況に合わせた最適な示談書作成・交渉代理を行っております。
「遠方の相手とトラブルになりそう」「確実に慰謝料を回収するための隙のない示談書を作りたい」とお悩みの方は、ぜひ法テラスや弁護士会の無料法律相談窓口のご利用をご検討ください。あなたの権利と平穏な日常を取り戻すため、私たちが全力でサポートいたします。