属性・シチュエーション別解決

既婚男が「自分は個人事業主で無給だ」と主張した場合の売掛金差押え

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第709条(不法行為)、第719条(共同不法行為)、第770条(離婚原因)の規定および多数の不倫・浮気慰謝料請求・減額交渉の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 個人事業主の不倫相手から「無給だから慰謝料は払えない」と言われました。給与がない相手からでも売掛金を差し押さえて回収できますか?
A 【法的根拠と結論】個人事業主の夫が「無給」と主張しても、取引先に対する売掛金や事業用口座は強制執行(債権差押命令)の対象となり、未払い慰謝料の直接回収が可能です。給与所得と異なり全額差押えの対象となるケースも多く、取引先の特定が鍵となります。
【弁護士による解決サポート】相手が支払いを免れるために虚偽の主張をしている場合でも、弁護士が法的手続を通じて取引先や売掛金を突き止め、確実な差押えや財産開示手続をスピーディーに実行することで、慰謝料回収の成功率を飛躍的に高めることができます。

不倫の慰謝料を請求した際、相手の男性が会社員ではなく「自分は個人事業主だから収入がない」「役員報酬を出していないので無給だ」と主張して支払いを拒むケースが後を絶ちません。

しかし、これは多くの場合、支払いを逃れるための口実や詭弁にすぎません。個人事業主であれば、事業の売上や取引先との間に発生する「売掛金」が存在するはずです。

本記事では、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が、個人事業主の既婚男性が「無給」を主張した際に、どのように事業用売掛金や取引先口座を特定し、裁判所を通じて強制執行(差押え)を行えばよいのか、その実務的な手法を詳しく解説します。

個人事業主の「無給主張」のからくりと法的実態

会社員であれば給与明細から差し押さえることができますが、個人事業主の場合は自分で自分の給与(役員報酬など)を設定できるため、「自分の口座にはお金を入れていない」「自分への給与はゼロ(無給)だ」と主張することが可能です。

しかし、法律上、個人の財布(プライベートの口座)に給与として入っていないことと、事業に収入がないことは全く別問題です。

個人事業主の事業所得は、売上から経費を引いたすべての利益がその個人の収入となります。したがって、夫が個人的に「無給」だと言張ったとしても、事業そのものが継続しており、取引先から代金(売掛金)が入金されているのであれば、その売上や売掛金こそが強制執行のターゲットになります。

売掛金差押えとは何か? 給与差押えとの違い

裁判所を通じて財産を差し押さえる手続きを「債権執行」と呼びます。

給与を差し押さえる場合、生活保障の観点から原則として手取り額の4分の1(高額な場合は3分の1)までしか差し押さえることができません。

これに対し、事業用の売掛金債権には、給与のような厳格な差押禁止の制限が原則として適用されません(※生活必需分などを除く)。 つまり、取引先に対する売掛金さえ特定できれば、その債権全額に対して差押えをかけることが法律上可能となります。

個人事業主が「無給」と主張する場合、給与差押えよりも、むしろ取引先に対する売掛金を狙う方が圧倒的に確実で効果的な回収手段となります。

売掛金差押えを成功させるための3ステップ

個人事業主の売掛金を差し押さえるためには、いくつかの明確なステップを踏む必要があります。夫が自分から取引先を教えてくれることはまずありませんので、弁護士の調査能力や法的手続を活用することが不可欠です。

ステップ1:債務名義の取得

強制執行を行うためには、大前提として「債務名義(さいむめいぎ)」と呼ばれる公的なお墨付きが必要です。

具体的には、以下のいずれかの方法で法的根拠を固める必要があります。

  • 慰謝料請求訴訟を提起し、勝訴判決を得る
  • 裁判上の和解を成立させる
  • 法的効力のある公正証書(執行認諾文言付き)を作成する
「言った・言わない」の口頭の約束では、裁判所は動いてくれません。まずは確実な法的書類を手に入れることが第一歩です。

ステップ2:取引先と売掛金の特定

売掛金を差し押さえるためには、差押えの対象となる「第三債務者(夫の取引先)」と「債権の内容(売掛金)」を正確に特定して申し立てる必要があります。

「どこかの会社から仕事を受注しているはず」という曖昧な情報では、裁判所は差押命令を出してくれません。特定のための主な手法は以下の通りです。

  • 過去の通帳やクレジットカードの履歴調査:プライベートの口座や事業用口座の出入金履歴から、定期的に振り込んできている会社名や、仕入れ・経費の支払い先を割り出します。
  • 確定申告書や請求書の探索:証拠保全や訴訟手続の中で、相手の売上台帳や過去の請求書、確定申告書の提出を迫ることで取引先を特定します。
  • 財産開示手続の利用:裁判所を通じて、債務者本人に出頭を求め、財産状況(取引先や売掛金の有無を含む)について陳述させる法的手続を利用します。

ステップ3:裁判所への債権差押命令の申し立て

取引先(第三債務者)と売掛金が特定できたら、夫の住所地を管轄する地方裁判所に対して「債権差押命令の申立て」を行います。

裁判所が申し立てを認めると、夫の取引先に対して「今後、あの男に売掛金を支払ってはいけません。あなた(取引先)が支払うべきお金は、直接、被害者である妻(債権者)に支払いなさい」という内容の差押命令書が送達されます。

売掛金を差し押さえられた夫と取引先の反応

売掛金が差し押さえられると、夫側には非常に大きな心理的プレッシャーと実務上のダメージが生じます。

まず、取引先に不倫や慰謝料未払い・金銭トラブルの事実が知られることになります。取引先からすれば、「うちの取引先が裁判所から差押えを受けている」「信用問題に関わるかもしれない」と警戒するため、夫はビジネス上の大きな信用を失うリスクに直面します。

多くの既婚男性は、取引先に事情が知られることを極度に嫌がるため、売掛金差押えの手続きが着工した段階、あるいは裁判所から通知が届いた段階で、慌てて一括払いの相談や示談の申し入れをしてくるケースが少なくありません。

「無給」と逃げる夫に泣き寝入りしないために

既婚男性が「自分は個人事業主で無給だから払えない」と主張するのは、相手が泣き寝入りするのを期待した常套句にすぎません。

法律は、正当な慰謝料請求権を持つ被害者の味方です。会社員とは異なるアプローチが必要になりますが、事業用口座の追跡や取引先に対する売掛金差押えという強力な手段を使えば、相手の経済的基盤から直接慰謝料を回収することは十分に可能です。

公的な相談窓口や弁護士会等では、財産隠しや「無給」を装う悪質なケースに対しても、数多くの強制執行実績とノウハウを有しております。相手の資産や取引先が不明でお困りの方は、ぜひ一度法テラスや弁護士会等の公的相談窓口へご相談ください。確実な証拠収集から強制執行の完了まで、あなたの権利実現を強力にサポートいたします。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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