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建設現場におけるアスベスト(石綿)被害をめぐり、元請けゼネコンや一次下請け企業に対して損害賠償を求める訴訟が相次いでいます。こうした裁判の中で、被告である企業側がしばしば繰り出す巧妙な反論の一つが「過失相殺(かしつそうさい)」の主張です。
被害に遭われた方やご遺族から、「現場でタバコを吸っていたと言われた」「自分の判断でマスクを外すことがあったが、賠償金が減らされてしまうのか」といったご不安の声を多くいただきます。
結論から申し上げますと、ゼネコン側が主張する「労働者側の過失」は、法的な観点や過去の最高裁判所の判例に照らして、多くの場合その正当性が否定されます。この記事では、元請け訴訟において企業側が主張する過失相殺に対して、弁護士がどのように反論し、適正な賠償金を勝ち取るのかについて詳しく解説します。
アスベスト元請け訴訟における「過失相殺」とは何か
過失相殺とは、損害賠償請求を行う際、被害者側にも損害の発生や拡大に対する落ち度(過失)があった場合に、その度合いに応じて賠償額を減額する制度です。
アスベスト訴訟において、被告である元請け企業や建材メーカーは、多額の賠償責任を免れるため、あるいは支払う金額を少しでも減らすために、次のような主張を行ってきます。
- 作業員が自発的に防塵マスクを着用していなかった
- 休憩中などに喫煙をしており、それが健康被害を悪化させた
- アスベストの危険性を認識しながら、あえて危険な作業に従事した
一見すると「本人にも責任があったのではないか」と感じられるかもしれませんが、アスベスト被害の特殊性や、現場における労働環境の実態を踏まえると、これらの主張は法的根拠を欠くものが大半です。
ゼネコン側の「マスク未着用・喫煙」主張を論破する法的根拠
弁護士は、被告側から出された過失相殺の主張に対し、以下のような多角的な視点から強力な反論を展開します。
1. 防塵マスクの着用義務は「企業側」にある
ゼネコン側は「マスクを配っていたのに、作業員が勝手に外していた」と主張することがあります。しかし、労働安全衛生法および関連する省令において、著しい粉じんを発散する作業場所では、事業主に対して「有効な呼吸用保護具(防塵マスクなど)を備え付け、その使用を義務付けること」が厳格に定められています。
単にマスクを支給しただけでは不十分であり、企業側には以下の義務があります。
- 作業員に正しい着用方法を指導・徹底すること
- 現場でマスクが正しく着用されているかを監視・監督すること
- 現場の粉じん濃度を下げ換気を徹底するなどの環境改善を行うこと
現場において防塵マスクが十分に着用されていなかった実態があるのであれば、それは労働者個人の責任ではなく、安全配慮義務を怠った元請け企業の管理責任(組織的過失)にほかならないと弁護士は主張します。
2. タバコとアスベスト被害の因果関係に対する反論
「喫煙者が肺がんや中皮腫を発症した場合、タバコが原因である」あるいは「喫煙によってアスベストによる発がんリスクが増幅したため、賠償額を減額すべきだ」という主張もよく見られます。
これに対し、医学的・科学的知見に基づき、弁護士は次のように反論します。
- 中皮腫の主な原因はアスベストの吸入であり、喫煙との因果関係は医学的にほぼ否定されていること
- 肺がんの場合であっても、アスベスト曝露と喫煙はそれぞれ独立した発がん要因であり、喫煙の事実をもってアスベストによる被害の責任を軽くすることは不当であること
特に、アスベスト特有の疾患である「悪性中皮腫」や「石綿肺」においては、喫煙歴を理由にした減額は裁判所でも認められにくい傾向にあります。
3. 石綿の危険性に関する「情報の非対称性」
当時、アスベストがどれほど致死性の高い危険な物質であるかについて、労働者が正確な情報を知らされていなかったという点も重要な反論の軸になります。
元請け企業や専門知識を持つ事業主は、アスベストの有害性を知り得る立場(予見可能性)にありながら、作業員に対して十分な警告や安全教育を行っていませんでした。危険性の本質を知らされていなかった労働者が、自己の判断で防塵対策を怠ったとしても、それを理由に責任を問うことは信義則に反します。
過去の裁判例における過失相殺の判断傾向
これまでのアスベスト関連訴訟(建設アスベスト訴訟を含む最高裁判決など)において、裁判所は労働者側の過失相殺について非常に慎重、あるいは否定的である傾向が明確です。
多くの判決において、粉じん作業に従事する労働者の健康を守る義務は一貫して企業側にあると判示されており、労働者側のわずかな不徹底を理由にした大幅な減額は認められていません。
したがって、被告企業側から「あなた(あるいは故人)にも落ち度があった」と言われたとしても、それを真に受けて請求を諦める必要は全くありません。
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