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自治体の下水処理施設とアスベスト被害の知られざる関係
日本全国の市町村などの自治体が管理する下水処理場では、日量膨大に発生する下水汚泥を減量化・無害化するため、汚泥焼却炉や熱回収設備(発電や温水利用を行うシステム)が稼働しています。これらの施設は1970年代から1990年代にかけての高度経済成長期から環境整備の一環として数多く建設・更新されてきました。
高温・高圧を扱うプラント施設である下水汚泥焼却炉や熱回収設備の内部、および周辺配管には、極めて高い耐熱性と断熱性が求められます。そのため、当時はアスベスト(石綿)含有断熱材や耐火被覆材、ガスケット、パッキンなどが大量に使用されていました。閉鎖的な空間で行われるプラントの建設工事や定期的なメンテナンス、解体工事において、多くの労働者が知らず知らずのうちにアスベスト粉じんを吸い込んでいた実態があります。
下水汚泥焼却炉・熱回収設備工事での具体的なアスベスト曝露作業
下水処理場の汚泥焼却・熱回収設備建設に関わった職人や作業員の方々は、さまざまな工程でアスベストに曝露する危険と隣り合わせでした。以下のような作業に従事していた方は、健康被害のリスクが高かったと言えます。
- 焼却炉本体およびボイラーの耐火・断熱施工: 炉壁や燃焼室の内部に吹き付けられたアスベストや、耐火レンガの目地材として使用された石綿モルタルの施工・削り落とし作業。
- 蒸気配管・熱交換器の保温材巻き付け: 焼却熱を回収してエネルギーに変換する熱回収設備の配管やフランジ部分に、ひも状・シート状の石綿保温材を巻き付ける作業や、経年劣化した保温材の補修作業。
- 排気煙突およびダクトの内張り工事: 高温の排ガスを通す煙突や排風ダクトの内部、接続部へのシール材や断熱材の取り付け・解体作業。
- 各種バルブのパッキン・ガスケット交換: 高温高圧の流体を制御するバルブ類に使用されていた石綿含有パッキンの切断や嵌め込み、古いものの剥がし作業。
これらの作業では、のこぎりでの切断やグラインダーによる研削、あるいは吹き付け材の剥離の際に、目に見えないほど微細なアスベスト粉じんが周囲の空気に飛散しました。プラント内部や地下ピットといった換気が悪い場所での作業が多かったことも、曝露量を増大させた大きな要因となっています。
発症するおそれのある主な健康被害
アスベストの最大の特徴は、その潜伏期間の長さにあります。粉じんを吸い込んでから10年から40年、あるいは50年以上という長い年月を経て、以下のような深刻な健康被害を発症することがあります。
- 中皮腫(ちゅうひしゅ): 肺を覆う胸膜や腹部を覆う腹膜などに発生する悪性の腫瘍です。アスベスト曝露が原因の大部分を占め、発症すると進行が早いことが特徴です。
- 肺がん: アスベストを吸入した肺の組織が線維化を起こし、そこにがん細胞が発生します。喫煙歴の有無にかかわらず発症するのがアスベスト肺がんの特徴です。
- 石綿肺(アスベスト肺): 吸い込んだアスベスト繊維が肺の中で炎症や線維化を引き起こし、呼吸困難などの症状をもたらす職業病です。
- 良性胸水・胸膜肥厚斑: 胸膜に水がたまったり、胸膜の一部が硬化して厚くなったりする病気で、これ自体が生死に関わらなくても、将来的な肺がんリスクの指標となります。
もし、過去に下水処理場やごみ焼却場などのプラント建設に従事し、現在これらの病気と診断された場合、それは単なる自然発生的な病気ではなく、過去の業務に起因する法的救済の対象である可能性が極めて高いと言えます。
国からの給付金および事業者への損害賠償請求
国や建築資材メーカーの責任を認め、被害者を迅速に救済するため、現在では法的な仕組みが整えられています。条件を満たすことで、国からの給付金や、当時の元請け企業等に対する損害賠償を請求することが可能です。
- 国の建設アスベスト給付金(国家賠償請求): 昭和55年から平成16年の間に、屋内などで一定の防じんマスク着用義務のある作業に従事し、健康被害を受けた方が対象です。下水処理場のプラント建設工事も「建設作業」に該当するケースが多くあります。
- 事業主・元請け企業に対する損害賠償請求: 労働安全衛生法上の義務に違反し、適切な防じん対策や安全教育を行わなかった元請け企業等に対して、民法上の不法行為責任を問い、慰謝料や逸失利益を請求することができます。
これらの請求を行うためには、当時の就労実態を証明する資料や、医療機関による診断書など、緻密な証拠集めが不可欠となります。特にプラント建設工事は、ゼネコン、プラントメーカー、一次下請け、二次下請けと重層的な構造になっていることが多く、どの会社に対して責任を追求すべきかの専門的な見極めが重要になります。
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