【手続きと注意点】実際に退職した後に支給された退職金や口座を狙う方法のほか、在職中に将来受け取る退職金を事前に差し押さえる方法があります。ただし、在職中の事前差押えは会社側の事務負担や自己都合退職のリスクが伴うため、確実に慰謝料を回収するためには弁護士に依頼し、財産調査や適切なタイミングでの強制執行手続きを進めることが有効です。
不倫相手の退職金差押えが認められる法的根拠
不倫(不貞行為)の慰謝料を請求し、最終的に支払ってもらえない場合、相手の財産を差し押さえる強制執行の手続きを行います。一般的には銀行口座や給与が差押えの対象となりますが、退職金受給権も立派な差押え対象財産の一つです。
民事執行法上、将来支払われる退職金についても、一定の要件を満たしている場合には差押命令を申し立てることができます。不倫相手が正社員や契約社員などで、将来的に確実に退職金を受け取る見込みがある場合(または既に退職金が支給されることが決まっている場合)、これを原資として慰謝料を回収することが認められています。
退職金差押えの最大のポイントは「時期」
退職金を差し押さえる上で最も重要となるのが、「いつ差し押さえるか」というタイミングです。実務上、退職金の差押えには大きく分けて2つのアプローチが存在します。
- 実際に退職した後に差し押さえる方法:すでに会社を辞めて退職金が確定・支給される段階、または支給された直後の口座を狙う方法です。
- 将来受け取る退職金を事前に差し押さえる方法:まだ在職中であるものの、将来的に発生する退職金債権をあらかじめ差し押さえておく方法です。
- 注意点:在職中の事前差し押さえの場合、会社側の事務負担が大きくなることや、実際に退職するまでの間に相手が自己都合で退職してしまうリスクなどを考慮する必要があります。
退職金を差し押さえるための具体的な手順
不倫相手の退職金を差し押さえるためには、話し合いや任意の督促だけでは実現できません。厳格な法的ステップを踏む必要があります。
1. 債務名義の取得が必須
まず大前提として、相手に対して「これだけの慰謝料を支払いなさい」という公的なお墨付き(債務名義)が必要です。具体的には以下のいずれかを取得している必要があります。
- 裁判所での判決(勝訴判決)
- 和解調書、調停調書
- 強制執行認諾文言付きの公正証書
慰謝料の金額について合意ができていない場合や、相手が支払いに応じない場合は、弁護士を通じて裁判を起こすか、慰謝料請求の調停・訴訟を行う必要があります。
2. 裁判所への差押命令の申し立て
債務名義を取得した後は、不倫相手の住所地(または勤務先の所在地)を管轄する地方裁判所に対して、「債権差押命令」の申し立てを行います。この際、相手の勤務先企業が正確に特定されている必要があります(会社名、正確な所在地、代表者名など)。
3. 勤務先(第三債務者)からの回収
裁判所が差押命令を発令すると、その命令書が不倫相手の勤務先(法律用語で「第三債務者」と呼びます)に送達されます。勤務先は、本来であれば退職者本人に支払うべき退職金のうち、差押えられた金額分を、直接あなた(債権者)に支払う義務が生じます。
知っておくべき「差押えの制限」と注意点
退職金の差押えには、法律上の重要な制限や実務上のハードルが存在します。確実に回収を進めるためにも、以下のポイントを必ず把握しておきましょう。
差し押さえられるのは「4分の1」まで
生活保護の精神や、退職後の生活を著しく困窮させないための配慮として、法律(民事執行法および民事施行規則)により差押えが制限されています。
通常の給与や退職金の場合、支給額の4分の3に相当する部分は差押えが禁止されています。つまり、あなたが強制執行によって差し押さえることができるのは、原則として退職金総額の4分の1までとなります。
例として、退職金が400万円支給される場合であれば、最大で100万円までを慰謝料の回収に充てることができます。残りの300万円は相手の手元に残ることになります。
すでに退職しており、口座に入金された場合の例外
相手がすでに会社を退職し、退職金が本人の銀行口座に振り込まれていた場合、性質は「退職金債権」から「通常の預貯金債権」へと変化します。
この場合、預貯金に対する差押え手続きを行うことになりますが、現金化された後の預貯金であっても、裁判所の運用や差押えの範囲についての解釈が関わってきます。ただし、口座内にある資金全体に対して差押えが及ぶため、タイミングによっては退職金そのものをピンポイントで差し押さえるよりも確実性が増すケースもあります。
相手が「会社を辞めてしまう」リスク
在職中に将来の退職金を差し押さえようとした場合、会社に対して裁判所から通知が届きます。これにより、不倫相手は「自分の不倫が勤務先に知られてしまった」と気づくことになります。
その結果、会社に居づらくなり、慌てて自己都合退職してしまうケースが少なくありません。会社を辞めてしまえば、当然ながら見込んでいた時期に退職金が支給されなくなったり、退職金の額自体が大幅に減額されたりするリスクがあります。そのため、退職金の差押えを検討する際は、相手の勤務状況や処分の見込みを慎重に見極める必要があります。
退謝金を含めた財産差押えを成功させるためのアドバイス
不倫相手に対する慰謝料請求において、相手が素直に支払いに応じない場合、財産の調査や強制執行は時間との勝負になります。
相手が勤務している会社名や、預貯金口座のある金融機関が分からない場合、弁護士会照会や、近年の法改正で導入された「財産開示手続」「第三者からの情報提供手続」を活用することで、相手の勤務先や資産情報を特定できる可能性があります。
退職金の差押えは、書類の作成や裁判所とのやり取りなど、専門的な法律知識と実務経験が求められる複雑な手続きです。「不倫相手が慰謝料を踏み倒そうとしている」「確実に退職金から回収したい」とお考えの方は、泣き寝入りする前に、男女トラブルや強制執行に強い法テラスや弁護士会等の公的相談窓口へご相談ください。豊富な実績を持つ弁護士が、あなたの大切な権利を守るための最適なサポートを提供いたします。