【弁護士による回収のポイント】退職日は会社ごとの規定で決まるため、相手が会社を辞める前に迅速に給与や退職金の差し押さえ手続きを講じる必要があります。預貯金口座や勤務先の特定、裁判所への強制執行申し立てをスムーズに進めるため、早急に弁護士へご相談ください。
不倫相手に慰謝料を請求した際、相手が「もう会社を辞めるから払えない」「退職金もどうなるか分からない」などと言って支払いを免れようとするケースは少なくありません。しかし、相手が会社を辞めるというタイミングは、実は確実に慰謝料を回収するための重要なチャンスでもあります。
会社から支給される退職金は高額になることが多く、適切に差し押さえの手続きを行えば、請求した慰謝料の全額または大半を回収できる可能性が高まります。本記事では、不倫相手が退職する際の退職金差し押さえの仕組みや、弁護士が実践する具体的な回収手順について詳しく解説します。
不倫相手の退職金は差し押さえの対象になるのか
結論から申し上げますと、不倫相手が会社を退職する際に受け取る退職金は、裁判所の手続きを通じて差し押さえることが可能です。
民事執行法において、給与や賞与、そして退職金などの定期的な金銭債権(あるいはそれに準ずるもの)は、差し押さえの対象と定められています。不倫慰謝料の請求権は、法律上「不法行為に基づく損害賠償請求権」に分類されますが、相手の財産(この場合は退職金)に対して強制執行をかけることで、優先的に回収を図ることができます。
「相手が自己都合で辞めるから会社はお金を払わないのではないか」「個人のプライバシーだから差し押さえできないのではないか」と誤解される方がいらっしゃいますが、会社と退職者の間には退職金支払請求権という立派な金銭債権が存在するため、法的な要件を満たしていれば差し押さえが可能です。
差し押さえができる金額の制限(上限額)
退職金を差し押さえるにあたって注意しなければならないのが、法律で定められた差し押さえ禁止範囲(上限額の制限)です。生活の保護や労働者の生活安定という観点から、全額を無条件に差し押さえることは認められていません。
一般的な給与の差し押さえと同様に、退職金についても法律によって保護される部分があります。
- 退職金の支給額が一定額を超える場合、その4分の3に相当する部分は差し押さえが禁止されています。
- したがって、債権者が差し押さえることができるのは、退職金総額の最大4分の1(25%)までとなります。
- ただし、養育費や婚姻費用などの特殊な債権を除き、不倫慰謝料の場合は原則としてこの「4分の1ルール」が適用されます。
例えば、不倫相手が400万円の退職金を受け取る場合、差し押さえが可能な上限額はその4分の1である100万円となります。請求する慰謝料の総額が150万円であれば、退職金の差し押さえによって100万円を回収し、残りの50万円については別の財産(預貯金や給与など)を差し押さえるか、任意での支払いを求めていくことになります。
退職金を差し押さえるための具体的な条件と手順
退職金を差し押さえるためには、ただ「会社にお金を払ってください」と言いに行くだけでは通用しません。法的な強制力を伴う手続きを踏む必要があります。
1. 名義と根拠となる債務名義の取得
差し押さえを行うためには、まず手元に「債務名義(さいむめいぎ)」と呼ばれる公的な文書がなければなりません。具体的には以下のいずれかが必要です。
- 裁判所での判決書や和解調書
- 強制執行認諾文言付きの公正証書
- 支払督促(異議申し立てがなかった場合)
口頭の約束や、個人的に交わした示談書(公正証書になっていないもの)だけでは、裁判所に強制執行を申し立てることはできません。そのため、まだ裁判上の決着や公正証書を作成していない段階であれば、まずは弁護士を通じて法的な書面を整えることが先決です。
2. 勤務先の正確な情報の特定
退職金を差し押さえるためには、不倫相手が勤務している(あるいはしていた)会社の正式名称、所在地、代表者名を正確に把握していなければなりません。
個人経営の会社や、グループ会社が入り組んでいるような場合、正確な会社名を特定できていないと裁判所での申し立てが受理されない、あるいは別の会社に差し押さえ通知を送ってしまうといったトラブルにつながります。不倫相手がどのような会社に勤めているのか、社会保険証のコピーや雇用契約書、源泉徴収票などの証拠をあらかじめ確保しておくことが極めて重要です。
3. 裁判所への「債権圧科学定」の申し立て
債務名義と勤務先の情報が揃ったら、不倫相手の住所地(または会社の所在地)を管轄する地方裁判所に対して、「債権差押命令」の申し立てを行います。
裁判所が申し立てを認めると、裁判所から不倫相手の勤務先(第三債務者)に対して「退職金を本人に支払ってはならない」「差し押さえた金額をこちらの指定口座に支払いなさい」という内容の差押命令書が送達されます。
会社を辞めるタイミングにおける実務上の注意点
不倫相手が「退職する」と言っている場合、時間との戦いになります。実務上、非常に注意すべきポイントがいくつかあります。
- 退職金の支払日を正確につかむ: 退職金がすでに本人に支払われて口座に入ってしまった後では、その口座から別の用途に使われてしまうリスクが高まります。会社が退職金をいつ精算し、いつ口座に振り込むのかというスケジュールを正確に把握することが重要です。
- 退職日直前のスピード対応: 退職日の直前、あるいは退職金が支給される直前のタイミングに合わせて裁判所に申し立てを行い、迅速に会社へ差押命令書を送達させる必要があります。
- 弁護士による迅速な代理交渉: 個人で裁判所の複雑な手続きを退職のタイミングに合わせて行うのは非常に困難です。弁護士に依頼することで、迅速な書類作成と裁判所・会社との折衝をスムーズに行うことができます。
もし退職金がすでに本人に支給されてしまっていたとしても、絶望する必要はありません。支給された後の預貯金口座に対して改めて「預貯金債権の差し押さえ」を行うなど、別の強制執行手段に切り替えて回収を継続することが可能です。
慰謝料回収を確実にするために弁護士にご相談ください
不倫相手が「会社を辞める」「退職金をもらう」と言い出したとき、それは責任逃れの常套句である場合もあれば、本当に生活や仕事が変わるターニングポイントである場合もあります。いずれにせよ、泣き寝入りする必要は一切ありません。
法律の規定に基づき、退職金受給権を正確に差し押さえることができれば、確実な慰謝料回収への道が開けます。しかし、勤務先とのやり取りや裁判所への申し立ては専門的な知識と迅速なフットワークが要求されます。
公的な相談窓口や弁護士会等では、不倫・浮気トラブルにおける慰謝料請求から、相手の財産調査、退職金の差し押さえを含む強制執行手続きまで、依頼者様の権利を最大限守るためのサポートを行っております。「相手が退職をほのめかしている」「財産を隠されそうで不安」という方は、手遅れになる前に、当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。