減額防衛・無過失主張(被請求側)

相手の配偶者との交渉で「不貞責任なし(支払いゼロ)の合意書」を交わす

大阪弁護士会所属 弁護士 井上正人 監修

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、民法第709条(不法行為)、第719条(共同不法行為)、第770条(離婚原因)の規定および多数の不倫・浮気慰謝料請求・減額交渉の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 不倫の慰謝料請求で相手と「支払いゼロ」で合意した場合、口頭の約束やメッセージのやり取りだけで済ませても大丈夫ですか?
A 【支払いゼロの合意でも口頭やSNSだけで済ませるのは危険です】不貞の事実がない場合や時効成立により慰謝料が発生しないときでも、口頭やSNSのメッセージだけの約束では、後日相手が「脅された」「納得していなかった」と主張を変えて再請求や蒸し返しを行うリスクが残ります。平穏な日常を取り戻すためには、将来の請求権を放棄させる「支払いゼロの合意書(示談書)」を必ず書面で交わす必要があります。
【弁護士による法的な合意書作成と示談防衛のメリット】合意書には、双方が合意した時点において一切の債権債務が存在しないことを確認する「清算条項」を必ず盛り込む必要があります。個人間の交渉では相手が不備のある書面を作成して不利な条件を飲まされる恐れもあるため、弁護士を代理人に立てるか法的チェックを受けることで、後々のトラブルを完全に遮断し安全かつ確実な解決を実現できます。

不倫や浮気の事実がないにもかかわらず、あるいは相手の配偶者から理不尽な高額請求を受けた際、交渉の末に「慰謝料の支払いは一切発生しない(ゼロ)」という着地点を見出すことがあります。しかし、ここで口頭での約束や、単なるメッセージのやり取りだけで話を終わらせてしまうのは非常に危険です。

本当に問題が解決したといえるためには、双方が合意内容を書面に落とし込む必要があります。それが「不貞責任なし(支払いゼロ)の合意書」です。

この記事では、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士が、支払いゼロの合意書を締結する法的な意味、盛り込むべき必須条項、そして交渉を有利に進めて安全に解決するための実務的なポイントを詳しく解説します。

なぜ「支払いゼロの合意書」を交わす必要があるのか

相手の配偶者との感情的な話し合いの末、「今回はもういいです」「お互い終わりにしましょう」と相手が折れてくれたとしても、書面を残さなければ後々大きなトラブルに発展するケースが後を絶ちません。

口頭やSNSのやり取りだけでは不十分な理由

人間関係の感情的なもつれから発せられた「今回は許す」という言葉や、SNSのチャットツールでの一時的なやり取りは、法的な証明力において非常に脆弱です。

時間が経過してから、相手が「あのときは冷静さを欠いていた」「本当は納得していなかった」「脅されて書かされた」などと主張を変えて、改めて高額な慰謝料請求を裁判所を通じて起こしてくる可能性がゼロではありません。また、弁護士を突然代理人として立てて請求を再開してくるケースもあります。

「清算条項」による法的安定性の確保

法的に有効な合意書を交わす最大の目的は、「清算条項(精算条項)」と呼ばれる条文を確実に組み込むことにあります。

清算条項とは、「本合意に定めるもののほか、甲および乙の間には、何らの債権債務が存在しないことを確認する」といった趣旨の条文です。この一文があることにより、今後、双方がこの件に関して追加で金銭の請求や法的措置をとることができなくなります。つまり、完全かつ最終的な解決(法的安定性)が手に入ります。

「支払いゼロの合意書」に盛り込むべき基本項目

不貞責任が存在しないことや、金銭の授受を行わないことを確認する合意書には、以下の項目を網羅しておく必要があります。不備があると、意図しない解釈を生む原因となるため注意が必要です。

  • 当事者の特定: 請求者(配偶者)と被請求者(あなた)の氏名、住所、連絡先を正確に記載します。
  • 事実関係の確認: 今回の紛争の対象となった事案について特定し、双方の間において法的な不貞関係(慰謝料発生原因)が存在しないこと、または請求権が消滅していることを明確にします。
  • 支払い義務の不存在(ゼロの確認): 被請求者は請求者に対し、本件に関する慰謝料その他の金銭的支払いを一切行わないこと、および互いに金銭の債権債務がないことを相互に確認します。
  • 清算条項(追加請求の禁止): 本合意書に定める事項のほか、何らの債権債務が存在しないことを確認し、今後、名目いかんを問い追加の請求を行わない旨を明記します。
  • 守秘義務: 本件紛争の内容や解決の条件について、正当な理由なく第三者に口外しないことを取り決めます。
  • 接触禁止(必要な場合): お互いに今後一切の接触を持たない旨を付記することもあります。

支払いゼロで合意に至る典型的なケース

どのような状況であれば、相手の配偶者と「支払いゼロの合意書」を交わすことが現実的かつ法的に正当化されるのでしょうか。主なケースをいくつか紹介します。

1. 不貞行為の事実が全く存在しない場合

単なる同僚、知人、あるいはビジネス上の関係であるにもかかわらず、相手の配偶者が誤解や嫉妬から不倫・浮気と決めつけて慰謝料を請求してくるケースです。客観的な証拠(肉体関係を推認させるもの)が一切ない場合、裁判になっても請求が認められる余地はありません。したがって、徹底的に無実を主張し、支払いゼロでの合意書締結を求めます。

2. 慰謝料請求権の消滅時効が完成している場合

不貞行為を知った日から3年、あるいは不貞行為の開始から20年が経過している場合、法的な消滅時効が完成しています。相手が時効の存在を知らなかったとしても、こちらから「消滅時効を援用する」旨を主張すれば、法的責任は消滅します。この場合も、金銭を支払う必要は一切ありません。

3. すでに主たる当事者(配偶者または元パートナー)から全額回収されている場合

不倫は共同不法行為にあたるため、例えば不倫相手の配偶者が、すでにあなたのパートナー(不倫をした側の当事者)から慰謝料の全額を受け取っている場合、あなたに対して二重に請求することは原則として許されません(満額弁済による債権の消滅)。このような法的主張が成り立つ場合も、支払いゼロの着地を目指します。

合意書締結の際に注意すべきリスクと落とし穴

「お金を払わない」という点で話がまとまったとしても、合意書の文面や交渉のプロセスにおいて注意を怠ると、予期せぬトラブルに巻き込まれるおそれがあります。

相手が作成した文面の安易な署名・捺印

相手の配偶者が個人で作成してきた合意書や誓約書には、巧妙な罠が仕掛けられていることがあります。 例えば、「不貞行為の事実を全面的に認める」という文言が残されたままになっていたり、将来の接触禁止条項に違反した際の法外な違約金が設定されていたりするケースです。

たとえ慰謝料の支払いがゼロであっても、「不貞の事実を認めたこと」や「過度な義務を負わされたこと」が後々不利に働く可能性があるため、相手の提示した書面にそのまま署名・捺印するのは非常に危険です。

第三者への口外禁止条項の重要性

不倫トラブルにおいては、職場や実家、友人関係などにこの件が知れ渡ることを最も恐れる方が少なくありません。支払いゼロで解決する合意書を結ぶ際は、双方が「本件について第三者に一切口外しない」という守秘義務を厳守する条項を必ず盛り込み、風評被害や社会的信用失墜を防ぐ配慮が必要です。

弁護士を代理人に立てるメリット

相手の配偶者と直接交渉し、「支払いゼロ」の合意を取り付けることは、精神的にも法律的知識の面でも大きな負担を伴います。ご自身一人で交渉を試みた場合、相手の威圧的な態度に押されて不本意な条件で妥協してしまったり、逆に感情的になって交渉が決裂したりするリスクがあります。

法テラスや弁護士会等の公的窓口にご相談いただければ、以下のようなサポートが可能となります。

  • 客観的な法的評価の実施: 提示された証拠や事実関係を精査し、本当に支払い義務がないのか、あるいは減額防衛が妥当なのかを正確に診断します。
  • 代理交渉による精神的負担の軽減: 弁護士が代理人として相手の配偶者(または相手方の代理人弁護士)と直接交渉するため、ご自身が直接連絡を取る必要がなくなります。
  • 法的に完璧な合意書の作成: 清算条項や守秘義務など、将来の禍根を残さないための隙のない合意書文面を専門的知見に基づいて作成・チェックします。

「自分に責任はないはずなのに、連日執拗な請求を受けて困っている」「相手との交渉を安全に、二度と連絡が来ない形で終わらせたい」とお悩みの方は、泣き寝入りしたり一人で抱え込んだりせず、どうぞ公的な相談機関の弁護士までご相談ください。法律の専門家が、あなたの平穏な日常を取り戻すためのサポートをいたします。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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