年5日の年次有給休暇取得義務(労基法第39条第7項)と退職者に対する適用関係

公開日: 2026-10-15

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、労働基準法、民法(第627条・628条等)、労働契約法および最高裁判例法理に基づき、労働者の退職の自由と権利保護の観点から中立的・客観的に法的三段論法を用いて解説しています。

Q退職予定者に対しても、会社は「年5日の有給休暇取得義務」を必ず履行しなければならないのですか?
A【結論と法的根拠】労働基準法第39条第7項により、使用者は年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日を取得させる義務を負います。ただし、退職日までの残余期間や取得済みの日数によっては、日割り計算による義務の免除・比例適用が生じるため、一律に未消化分の5日分を会社が強制付与しなければならないわけではありません。
【実務上の対抗・解決手順】退職時点での付与日数および消化日数を正確に算定し、就業規則に基づく時季指定権の行使や、退職前消化の法的可否を客観的に確認します。労働者側は退職届の提出前に計画的消化を求め、会社側は法違反(30万円以下の罰金)を回避するための正確な労務管理が必要となります。

年5日の年次有給休暇取得義務の基本法的枠組み

労働基準法第39条第7項および同法施行規則に基づき、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての労働者(管理監督者や有期雇用労働者を含む)に対し、年次有給休暇を付与した日から1年以内に、そのうちの5日について実際に取得させなければならない義務を負います。

この規定は、日本の労働市場における有給休暇の低い取得率を改善し、健康で文化的な生活を保障することを目的として2019年4月に施行されました。違反した場合には、労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があり、使用者にとって厳格な法的責任を伴う制度です。

義務対象者の要件

  • 使用者から10日以上の年次有給休暇を付与されていること(正社員、パート、アルバイトを問わず要件を満たせば対象となります)。
  • 出勤率が全労働日の8割以上であること。

使用者の講ずべき措置

使用者は、労働者ごとに「基準日(年次有給休暇が付与される日)」から1年以内の期間について、時季を指定して有給休暇を取得させなければなりません。ただし、労働者が自発的に5日以上の有給休暇を取得している場合は、使用者が時季を指定して取得させる必要はありません。

年度途中で退職する場合の適用関係と免除要件

退職を予定している労働者が存在する場合、この「年5日取得義務」がどのように適用されるのかは、実務上極めて重要な論点となります。結論として、退職日までの期間や、退職日までの残余日数、すでに取得した日数によっては、使用者の5日取得義務が免除されるケースが存在します。

厚生労働省のガイドライン等において、以下のような期間計算のルールが示されています。

退職までの期間が1年未満となる場合

退職日があらかじめ決まっており、基準日から退職日までの期間が1年未満である場合、その期間に応じて取得義務の日数が月割計算されるわけではありません。基本原則として、基準日から退職日までの期間全体を通じて5日を取得させる必要があります。

ただし、以下の特殊なケースでは義務の対象外または免除となります。

  • 退職日までに付与日数が10日未満となる場合:例えば、入社半年後に10日付与されたものの、その後の期間設定や退職時期との関係で、法的な基準日を迎える前に退職する場合などは対象外となります。
  • 退職日までの期間が短く、物理的に取得が不可能な場合:例えば、退職日までの残余期間が極端に短く(例:残り1週間など)、労働者が時季指定を求めても事業の正常な運営を妨げる場合や、そもそも取得日数分の残日数が存在しない場合です。

すでに5日以上を取得して退職する場合

退職予定者が、基準日から退職日までの間にすでに自発的または会社の時季指定により5日以上の有給休暇を取得している場合、使用者の義務はすでに果たされているため、追加の措置は不要となります。

退職時に未消化分がある場合の法的取り扱い

退職者が「年5日取得できていない」ことを理由に、退職日以降に会社に対して金銭的な補償(買い取り等)を法的に請求することは原則としてできません。労働基準法の年次有給休暇は「休息の付与」を目的としているためであり、法律上の買い取り義務は原則として退職時の未消化日数一般には発生しないと解されています(※労働契約法や就業規則に特別の定めがある場合を除きます)。

一方で、使用者が「年5日取得義務」を果たせなかった場合、それが労働者側の個人的な理由(退職直前での自己都合による連日欠勤や、会社からの時季指定を拒否し続けた場合など)によるものであるときは、会社側が直ちに労働基準法違反に問われることはないとされています。行政通達等においても、使用者が時季指定を行うための努力を尽くしたにもかかわらず、労働者の責めに帰すべき事由によって5日取得できなかった場合は、使用者の責任は免責される余地があります。

退職実務における適法な労務管理とトラブル防止策

労働者が退職する際、未消化の有給休暇と年5日取得義務を巡るトラブルは後を絶ちません。法的に正確な手続きを踏むためには、労使双方が以下の点を確認し、客観的な記録を保持することが不可欠です。

1. 労働者側の留意点

退職を申し出る際、労働者は自らの有給休暇の残日数と、これまでの取得日数を正確に把握する必要があります。年5日取得義務があるからといって、退職日に向けて一方的に5日分の「買い取り」を要求することは法的な根拠が乏しい点に注意してください。 確実に行使したい場合は、就業規則に定める退職申し出期間を守った上で、退職日までの期間内に計画的な消化(時季指定)を会社に申し出る、または話し合いを行うことが実務上の定石です。

2. 使用者側の留意点

使用者は、退職予定者が在籍する期間においても、労働基準法施行規則第24条の7に基づく「年次有給休暇管理簿」の作成・3年間の保存義務を負います。 退職が決まった労働者に対しては、残余の取得義務日数を確認し、必要に応じて時季指定を行うなど、法違反を回避するための客観的な証拠を残すことが求められます。労働者が自身の意思で取得を拒否し退職したようなケースでは、その経緯(時季指定の打診や、労働者からの拒否の意思表示など)を書面やメール等の電磁的記録として残しておくことが、万一の労働基準監督署からの調査に対する有効な防御策となります。

\ 写真で送るだけ・24時間受付中 /【日本全国対応・ご来所不要】
LINE・お電話で手続完結

初回相談30分無料
(※事案により異なる場合があります)
ご相談だけで終了しても費用は一切かかりません

LINEで無料相談(24時間受付)※写真で送るだけ・24時間受付・秘密厳守
弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

LINE相談
無料相談