【実務上の対抗・解決手順】有給申請の履歴、就業規則、給与明細、タイムカードなどの客観的証拠を揃えて労働基準監督署へ「申告(労基法第104条)」を行い、違反の是正勧告(指導)を求めます。さらに未払い賃金については民事上の請求手続きを進めます。
会社が有給休暇を欠勤扱いにすることの法的違法性
労働者が法律上の要件を満たして取得した年次有給休暇について、会社が一方的に「欠勤」として処理し、賃金を控除する行為は、労働法上重大な違反となります。ここでは、根拠となる法律条文に基づき、その違法性を明確に解説します。
年次有給休暇の取得権(労働基準法第39条)と時季変更権の限界
労働基準法第39条により、一定の要件を満たした労働者には年次有給休暇が与えられます。労働者は自らが請求する時季に有給休暇を取得する権利(時季指定権)を有しています。
会社側がこの有給休暇の取得を拒否できるのは、労働基準法第39条第5項ただし書に規定する「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当し、時季変更権を適法に行使した場合に限られます。単に「人手不足である」「業務が忙しい」という抽象的な理由や、事後的な申請に対して何ら時季変更権を行使することなく、一方的に欠勤扱いにすることは法的に許されません。
賃金全額払いの原則(労働基準法第24条)違反
労働基準法第24条第1項本文は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています(賃金全額払いの原則)。
年次有給休暇を取得した期間については、通常の賃金(または平均賃金等)を支払わなければならないと労働基準法第39条第9項および労働基準法施行規則第25条に定められています。したがって、適法に取得した有給休暇を会社が独断で欠勤扱いにして給与から差し引く行為は、賃金の一部を一方的に不支給・控除する行為に該当し、労働基準法第24条違反(賃金不払い)となります。
労基署への申告実務と是正勧告の流れ
会社が違法な欠勤扱いを改めない場合、労働基準監督署に対して法的措置を求めることが有効な対抗手段となります。労働基準法第104条に基づく「申告」の具体的な手順と効果を解説します。
1. 客観的証拠の収集と保全
労基署を動かすためには、主観的な主張ではなく客観的な証拠が不可欠です。以下の資料を必ず手元に確保してください。
- 有給休暇の申請履歴: 会社所定の申請書、メール、チャットツールの送信履歴など、時季を指定して申請した事実を示すもの。
- 就業規則(賃金規程): 有給休暇に関する規定や、欠勤控除に関する規定が記載された部分。
- 給与明細および賃金台帳: 有給申請日分が欠勤として控除されている事実を示す証拠。
- タイムカードや勤怠管理システムの画面: 実際の労働日や出退勤記録。
2. 労働基準法第104条に基づく「申告」の実行
労働基準法第104条第1項により、労働者は事業所に法令違反がある場合、その事実を労働基準監督署に申告し、是正措置をとるよう求めることができます。
労基署に赴く際は、収集した証拠を時系列で整理した「申告書(または上申書)」を提出します。労基署が法令違反の事実があると認めれば、会社に対して「是正勧告(または指導)」を発出します。是正勧告は法的強制力を持つものではありませんが、多くの企業は行政処分のリスクを避けるため、未払い賃金の精算や欠勤扱いの撤回に応じます。
是正勧告に従わない場合の民事上の法的措置
労働基準監督署の是正勧告は、あくまで行政指導であり、直接的に会社に対して金銭の支払いを強制する裁判上の執行力はありません。悪質な企業が労基署の指導を無視する場合や、法的解決を迅速に行う必要がある場合は、民事上の法的手続きへ移行する必要があります。
内容証明郵便による未払い賃金請求
弁護士名義または労働者本人名義で、労働基準法違反および不当な欠勤控除に基づく未払い賃金の支払いを求める内容証明郵便を送付します。これにより、消滅時効の完成猶予を図るとともに、法的紛争に発展するリスクを会社に認識させます。
労働審判および民事訴訟の提起
会社が依然として不当な控除を認めない場合、裁判所を利用した法的解決を選択します。
- 労働審判手続(民事訴訟法・労働審判法): 裁判官と労働関係の専門家(労働審判員)が間に入り、3回以内の期日で実効的な解決を図る制度です。違法な欠勤控除による未払い賃金の回収において迅速な解決が期待できます。
- 通常訴訟: 労働基準法違反を原因とする損害賠償請求や、未払い賃金請求の訴えを地方裁判所または簡易裁判所に提起し、判決による強制的な回収を求めます。
適法な有給休暇の取得を会社が「欠勤」にすり替える行為は明白な労働法違反です。泣き寝入りすることなく、客観的証拠に基づいた法的手続きを実行することが重要です。

