【実務上の対抗・解決手順】会社側から不当な脅迫や連絡があった場合は、弁護士法人等の適法な代理人による受任通知の送達および本人への直接連絡の停止要請を行うことで、法的リスクを最小限に抑えた円滑な退職手続きが可能となります。
退職代行の利用に対する会社側の主張とその法的誤り
近年、労働者が自ら退職の意思を伝えることが困難な状況において、退職代行サービスを利用するケースが増加しています。これに対し、一部の企業側から「退職代行を使うことは不法行為だ」「無断欠勤であり損害賠償を請求する」といった主張がなされることがあります。
しかし、これらの会社側の主張は、日本の私法秩序の基本原理である「私的自治の原則」および「代理制度」を無視した、法的に全く根拠のない威嚇に過ぎません。本稿では、労働者が代理人を通じて退職の意思表示を行う行為が、なぜ完全に適法であり不法行為を構成しないのか、民法および労働法規の観点から詳細に解説します。
代理人を通じた退職の意思表示の法的根拠
労働契約の解除(退職)は、私法上の契約に関する意思表示です。日本法においては、本人が自ら行うだけでなく、第三者を代理人として選任し、その代理人を通じて意思表示を行うことが認められています。
民法が認める代理制度(民法第99条)
民法第99条は、「代理人がその権限において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる」と規定しています。労働者が退職代行業者や弁護士などの代理人に対し、退職意思表示の伝達に関する代理権を授与した場合、その代理人が会社に対して行った意思表示は、法的に労働者本人が直接行ったものと同一の効力を有します。したがって、「本人から直接聞いていないから無効である」という会社側の主張は、民法上の代理原則に反する誤った解釈です。
雇用契約の解約の自由(民法第627条)
期間の定めのない労働契約を締結している労働者は、民法第627条第1項により、解約の申入れの日から2週間を経過することによって、いつでも労働契約を終了させることができます。退職の意思表示が適法な期間(原則として2週間前、または就業規則に定められた期間)をもってなされた場合、会社の承諾の有無にかかわらず、期間経過によって雇用契約は確実に終了します。会社側が退職を受理しない権利(拒絶権)は法的に存在しません。
「不法行為(民法第709条)」が成立しない明確な理由
会社側が「退職代行の利用は不法行為である」と主張する場合、その根拠として民法第709条を持ち出すことがありますが、これは法的な構成要件を完全に誤認しています。
不法行為の成立要件
不法行為が成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。- 故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
- 加害者に責任能力が存在すること
- 損害が発生したこと
- 権利侵害と発生した損害との間に因果関係が存在すること
労働者が法的に認められた「退職の自由」および「代理人選任権」を行使することは、正当な権利の範囲内です。適法な権利の行使によって生じた結果(労働者の離職による人員不足など)は、会社側が事業運営上当然に想定・管理すべきリスクの範囲内であり、権利の濫用や違法な加害行為にあたる余地はありません。したがって、不法行為に基づく損害賠償請求は法的に成り立ちません。
非弁護士による違法業者との混同に対する法的整理
ただし、実務上注意すべき点として、弁護士資格を有しない一般の民間退職代行業者が、会社との間で「退職日の交渉」「有給消化の交渉」「未払い賃金の請求」といった法的な交渉行為を行うことは、弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の取締り)に抵触する違法行為(非弁活動)となるリスクがあります。この点において、「違法な業者を介入させたこと」自体が不法行為を構成するのではなく、業者側の行為が弁護士法違反に問われる可能性があるということです。そのため、退職に伴う法的な交渉やトラブルの防止を確実にするためには、初めから労働問題に精通した弁護士法人に代理人を依頼することが最も安全かつ確実な法的アプローチとなります。
会社側から不当な主張や連絡があった場合の具体的な実務手順
退職代行の利用に対して会社が反発し、不当な連絡や脅迫めいた言動を行った場合には、冷静かつ法的に正しい手順で対処する必要があります。

