労働基準法第137条(契約初年度経過後の退職の自由)の適用要件と期間短縮

公開日: 2026-10-15

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、労働基準法、民法(第627条・628条等)、労働契約法および最高裁判例法理に基づき、労働者の退職の自由と権利保護の観点から中立的・客観的に法的三段論法を用いて解説しています。

Q契約社員として有期雇用契約で働いていますが、初年度が経過すればいつでも自由に退職できるというのは本当ですか?
A【結論と法的根拠】本当です。労働基準法第137条により、労働者は労働基準法第14条第1項の規定による期間(原則として1年)を超える有期労働契約を締結した場合、その期間の初日から1年を経過した日以後においては、やむを得ない事由がなくても、使用者に対して申し出ることにより、いつでも退職することができます。民法第627条の原則や通常の契約期間の縛りよりも優先して適用される法定の権利です。
【実務上の対抗・解決手順】1年経過後に退職を申し出る際は、口頭ではなく退職届や「退職申出書」を提出し、到達の事実を明確に記録します。また、使用者から違約金や損害賠償を請求される不当なトラブルが生じた場合には、労働基準監督署への相談や、退職代行・弁護士を通じた法的な受任通知の送達により、円滑かつ適法に退職手続きを完結させます。

労働基準法第137条の趣旨と法的性質

有期労働契約を締結する労働者は、原則として契約期間中の自由な退職が制限されています。民法第627条では期間の定めのない雇用の解約申入れについて定めていますが、期間の定めのある契約においては、契約期間の満了まで労務を提供することが合意されているため、民法第628条により「やむを得ない事由」がなければ契約期間中の解除は認められないのが原則です。

しかし、長期間の有期労働契約において労働者を長期間拘束することは、職業選択の自由(憲法第22条)の観点や、実質的な強制労働(労働基準法第5条)の禁止の観点から問題があります。そのため、労働基準法附則第137条は、「期間の定めのある労働契約(労働基準法第十四条第一項各号に規定する労働契約を除く。)を締結した労働者は、同条同項の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。」と規定しています。 この条文の適用を受けるためには、契約期間が労働基準法第14条第1項各号に定める「3年(一部の例外では5年)」などの上限の範囲内でありつつ、同項本文の「原則として1年」を超える期間の契約であることが前提となります。すなわち、2年や3年の有期雇用契約を締結した場合が、本条の直接的な適用対象となります。

適用要件と「1年を経過した日」の正確な起算点

労働基準法第137条の適用を受け、期間の途中であっても自由に退職するためには、いくつかの厳格な要件を満たしている必要があります。

1. 対象となる有期労働契約の期間

本条が適用されるのは、労働基準法第14条第1項の原則である「1年」を超える有期労働契約です。例えば、初めから「3年契約」や「2年契約」として雇用契約を締結したケースがこれに該当します。 一方で、当初から「6ヶ月契約」や「1年契約」として締結され、その後更新を重ねたようなケースについては、後述する解釈が問題となります。

2. 「初日から1年を経過した日以後」の解釈

起算点は、当該有期労働契約を締結し、実際に労務提供を開始した「初日」です。その初日から起算して満1年を経過した日(すなわち契約2年目に入った日)以後であれば、契約期間の満了日前であっても、労働者はいつでも退職の意思表示を行うことができます。

3. 更新された契約における適用範囲

実務上問題となりやすいのが、「1年契約を更新し、通算して1年を超えて勤務している場合」の取り扱いです。 行政通達(基発第0314第3号等)および労働基準法の趣旨に照らし、当初は1年の契約であっても、更新によって契約期間の通算が1年を超える場合や、契約締結時に複数回の更新が予定されていたようなケースにおいては、実質的に労働基準法第137条の趣旨が類推適用される、あるいは期間設定の態様によって判断される場合があります。ただし、明確に条文の適用を受けるためには、「1年を超える期間の定めのある労働契約」として締結されていることが確実な要件となります。

退職の申し出の方法と法的な効果

労働基準法第137条に基づいて退職の意思表示を行う場合、その法的効果や実務上の手続きについて正確に理解しておく必要があります。

1. 「やむを得ない事由」が不要である点

通常の民法第628条であれば、契約期間中の解除には天災や重大な傷病などの「やむを得ない事由」が必要となりますが、本条に基づく退職であれば、個人的な理由(転職、他社への就職、一身上の都合など)であっても何ら問題なく退職の申し出が可能です。使用者はこれを拒絶する法的根拠を有しません。

2. 民法第627条との関係(退職効力発生までの期間)

労働基準法第137条は「いつでも退職することができる」と定めていますが、意思表示をしてから直ちに(即日)契約が終了するのか、あるいは民法第627条第1項の規定(期間の定めのない雇用における2週間の予告期間)が適用されるのかについては実務上留意が必要です。 通説および行政解釈において、労働基準法第137条に基づく退職の申し出であっても、意思表示から実際に雇用契約が終了するまでの期間については、法的な安定性を考慮し、民法の一般原則(あるいは就業規則の定め)に準じて「申し出の日から2週間を経過した日」に退職の効果が生じると解釈されるのが一般的です。したがって、退職希望日の少なくとも2週間前には、使用者に対して書面をもって退職の意思を明確に通知することが安全です。

使用者とのトラブル防止と実務上の解決手順

有期雇用契約の期間途中に退職を申し出る場合、使用者側が「契約違反だ」「損害賠償を請求する」などと主張してトラブルに発展するケースが見受けられます。しかし、労働基準法第137条の要件を満たした退職は完全な適法行為であり、使用者がこれを理由に損害賠償を請求することは法律上認められません。

1. 書面(内容証明郵便等)による意思表示の証拠化

口頭での退職申し出は、「聞いていない」「一方的な放棄だ」といった言った言わないの紛争の原因になります。退職届や退職申出書を作成し、「労働基準法第137条に基づく退職の申し出であること」を明記した上で、手渡しあるいは記録に残る郵送方法(内容証明郵便など)を用いて使用者に到達させることが不可欠です。

2. 業務引き継ぎと貸与品の返還

法律上は申し出から2週間で退職が可能となりますが、円満かつトラブルのない解決を図るためには、業務の引き継ぎリストの作成や、健康保険証・社員証・制服などの会社貸与品の速やかな返還を行うことが実務上推奨されます。

3. 不当な引き止めや損害賠償請求への対抗

使用者が違法な引き止めを行い、退職届を受理しない場合であっても、労働者の退職の意思表示が会社に到達した時点で、民法および労働基準法上の効果が発生します。会社側が給与の未払いや損害賠償の威嚇を行ってきた場合には、労働基準監督署への申告や、弁護士・適法な退職代行機関を通じた受任通知の送達により、法的根拠に基づいた毅然とした対応を行うことが最も確実な解決手順となります。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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