【実務上の対抗・解決手順】使用者がパスポートの没収や強制送還を示唆して退職を妨害する場合、弁護士を通じた受任通知の送達や内容証明郵便による退職意思表示の到達立証を行い、法的根拠をもって使用者の接触および労務管理上の介入を遮断します。
外国人労働者における「退職の自由」の法的原則
日本国内で就労する外国人技能実習生および特定技能労働者に対しても、日本人労働者と同様に日本国の労働法規が適用されます。国籍を理由として退職の自由が制限されることは法律上一切ありません。
民法上の退職の自由と期間の定め
期間の定めのない労働契約を締結している場合、民法第627条第1項に基づき、労働者はいつでも解約の申し入れをすることができ、申し入れの日から2週間を経過することによって雇用契約は終了します。- 期間の定めがある労働契約(技能実習計画や特定技能の雇用契約など)であっても、労働基準法第137条により、技能実習開始後または入社後1年を経過した後は、やむを得ない事由がなくても労働者はいつでも退職することが可能となります。
- 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)や公序良俗(民法第90条)の観点からも、労働者の意思に反して強制的に労働を継続させることは法的に無効です。
技能実習法および入管法における保護規定
技能実習生制度および特定技能制度においては、労働者の人権を保護するための特別法が適用されます。- 技能実習法第46条では、実習実施者に対し、技能実習生の労働条件に関して不当な制限を課すことや、人権を侵害する行為を厳に禁じています。
- パスポートや在留カードの保管を口実に身分証を取り上げる行為や、退職を申し出たことに対する「強制帰国」の脅迫は、出入国管理及び難民認定法(入管法)や刑法上の犯罪行為(強要罪や不法逮捕・監禁罪等)に該当する可能性があります。
特定技能労働者の「転職(転籍)」における法的ルール
特定技能の在留資格を有する労働者は、原則として同一の分野内での転職が認められています。退職後のキャリア構築についても法的な保障が存在します。
同一分野内での転職の適法性
特定技能1号・2号の労働者は、習得した技能の水準や試験の合格区分に応じ、受入機関(勤務先)を変更することが認められています。- 使用者が「転職は一切認めない」「他の会社に行くなら違約金を請求する」と主張したとしても、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に違反するため、違約金や損害賠償の合意は無効となります。
- 労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をすることを禁じており、これは外国人労働者に対しても完全に適用されます。
受入機関による妨害行為の法的評価
実務上、退職や転職を申し出た外国人労働者に対し、受入機関が行政への虚偽通報を示唆したり、給与の未払いを行ったりする事例が見受けられますが、これらは重大な法令違反です。- 出入国在留管理庁(出入国在留管理局)および労働基準監督署は、外国人労働者に対する人権侵害や違法な退職妨害に対して厳格な処分を下す方針をとっています。
- 労働者側が法的根拠に基づいた退職手続きを踏むことで、行政上の不利益を受けることなく、適法に離職・転職を果たすことが可能です。
違法な「強制帰国」や退職妨害に対する法的対抗措置
外国人技能実習生や特定技能労働者が自ら退職意思を表明した際に、会社側がこれを拒絶し、物理的あるいは心理的に圧力をかけるケースでは、客観的かつ断固とした法的対抗措置が必要です。
1. 内容証明郵便による退職意思表示の到達立証
口頭での退職申出は「言った・言わない」のトラブルや、会社側による事実の隠蔽・歪曲のリスクを伴います。- 代理人弁護士を通じて、あるいは本人名義で内容証明郵便を使用し、民法上の規定に基づいた退職届・契約解除通知を送付します。
- これにより、法的根拠に基づいた意思表示が確実に相手方に到達した客観的証拠(配達証明)を保全します。
2. 弁護士による受任通知の送達と接触禁止
悪質な受入機関や雇用主は、労働者本人からの連絡を無視したり、直接威圧的な言動を行ったりすることがあります。- 労働問題に精通した弁護士が代理人として受任通知を送達することで、会社側に対し本人への接触を控えて弁護士窓口を通すよう通知し、直接の連絡を実務上強力に牽制します。
- パスポートや所持品の返還請求、未払い賃金の精算、有給休暇の消化、退職証明書の交付など、必要な法的請求をすべて代理人を通じて遂行します。
3. 行政機関・公的窓口との連携
法的手段と並行して、事案の性質に応じて関係行政機関への通報・申告を行います。- 外国人技能実習機構(OTIT)や出入国在留管理局(入管)、労働基準監督署に対し、受入機関による違法行為(人権侵害、強制帰国のおそれ、違約金徴収の試み等)の事実を報告します。
- 法令を遵守しない使用者に対しては、行政指導や改善命令、さらには受入計画の認定取り消しなどのペナルティが科されるため、使用者の不当な圧力を抑止する高い効果を持ちます。

