試用期間中の解雇予告手当(入社14日以内の即時解雇除外・労基法第21条)と労働者側からの退職

公開日: 2026-10-15

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、労働基準法、民法(第627条・628条等)、労働契約法および最高裁判例法理に基づき、労働者の退職の自由と権利保護の観点から中立的・客観的に法的三段論法を用いて解説しています。

Q試用期間中(入社14日以内)であれば、会社は予告なしに即時解雇でき、逆に労働者も即日退職できるというのは本当ですか?
A【結論と法的根拠】会社側の解雇については労働基準法第21条第4号により入社14日以内であれば解雇予告手当(同法第20条)の支払いが除外されますが、これは「解雇の自由」を意味せず、客観的に合理的な理由と社会的相当性(労働契約法第16条)が必要です。一方、労働者側からの退職は同条の適用を受けず、民法第627条原則どおり2週間の予告期間が必要となります(ただし期間の定めのない契約の場合)。
【実務上の対抗・解決手順】労働者が即時退職を希望する場合、民法第627条に基づく退職届を内容証明郵便等で送達し、2週間の経過をもって適法に雇用関係を終了させます。実務上は、有給休暇の消化や欠勤扱いに関する合意、あるいは弁護士による受任通知の送達によって会社との直接接触を遮断し、円滑な退職を実現します。

試用期間における「解雇」と「退職」の法的性質の差異

労働契約の締結後、適性を見極めるために設けられる「試用期間」においては、会社側からの「解雇」と労働者側からの「退職」の法的な仕組みが混同されやすい傾向にあります。法務実務において最も重要な前提は、使用者側の解雇制限の特例と、労働者側の退職権の行使は、それぞれ異なる法律(労働基準法および民法)によって全く別のロジックで規律されているという点です。

会社側は試用期間中であれば自由に解雇できると誤認しているケースが多く、また労働者側も14日以内であればいつでもペナルティなしで即日退職できると誤解しているケースが見受けられます。本稿では、労働基準法第21条および民法第627条の条文解釈に基づき、双方の権利義務関係を客観的に整理します。

労働基準法第21条に基づく「解雇予告手当」の除外規定

使用者(会社)が労働者を解雇する場合、原則として労働基準法第20条に基づき、30日前の予告を行うか、または30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。しかし、同法第21条により、一定の例外が定められています。

  • 同条第4号では、「試用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く)」については、解雇予告手当の支払義務が除外されています。
  • すなわち、入社後14日以内に解雇を通知する場合、会社は30日前の予告も解雇予告手当の支払いも行うことなく、即時に解雇することが法的に認められています。

しかし、この規定は「予告手当の支払いを免除する」という金銭的・手続的な特例に過ぎず、解雇そのものが自由にできることを意味するものではありません。労働契約法第16条(解雇権濫用の法理)は試用期間中の解雇においても当然に適用されます。

試用期間中の解雇における「客観的合理性」の要件

最高裁判所の判例(三菱樹脂事件など)において、試用期間中の解雇権留保の趣旨は「通常の労働者よりも広い範囲での解雇が認められる」と解されているものの、無制限に解雇が許容されるわけではありません。

  • 解雇を行うためには、採用時の調査では判明しなかった事実により、その後における事情に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会的に相当と認められる必要があります。
  • したがって、入社14日以内の解雇であっても、客観的合理性を欠く場合は「解雇権の濫用」として無効となります。労働者は解雇無効の地位確認請求および賃金請求を行う法的根拠を有します。

労働者側からの退職申入れにおける法的ルールと誤解

一方で、労働者側から会社に対して雇用契約の終了(退職)を申し入れる場合、前述の労働基準法第21条(解雇の予告除外)は一切適用されません。なぜなら、同条はあくまで「使用者による解雇」を対象とした規定であり、労働者の退職自由を制限・拡張するものではないからです。

期間の定めのない労働契約における退職(民法第627条)

正社員などの期間の定めのない労働契約を締結している労働者が退職する場合、民法第627条第1項が適用されます。

  • 労働者は、解約の申し入れ(退職届の提出)から2週間を経過することによって、雇用契約を終了させることができます。
  • 試用期間中であっても、期間の定めのない労働契約であれば、この原則は変わりません。したがって、「入社14日以内だから、労働者側も即日(その日のうちに)退職できる」という法的主張は、法的な根拠を欠くことになります。

ただし、就業規則に「退職の際は1か月前までに申し出ること」といった規定が存在する場合であっても、民法第627条が優先されるため、法的には2週間の経過をもって退職の効力が生じます(※ただし、実務上の引き継ぎや損害賠償リスクを最小限にするための労務管理上の配慮は別途考慮されるべきです)。

即日退職が合法となる例外的なケース

労働者が入社直後や試用期間中に即日退職を実現するためには、民法上の2週間ルールを回避する特定の法的根拠が必要です。

  • 労働基準法第15条第2項に基づく即時解除:明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます。
  • 合意解約(契約自由の原則・合意解除):会社側が即時退職に同意した場合、2週間の期間経過を待たずに即日での退職が有効に成立します。
  • 心身の健康障害(安全配慮義務違反等):過酷な労働環境等により就業継続が著しく困難な場合、医師の診断書等を添えて即時退職の意思表示を行う実務対応がとられることがあります。

トラブル防止のための実務上の解決手順

試用期間中における退職・解雇を巡る紛争(「明日から来なくていい」と言われた、「即日辞めたいのに会社が拒否する」など)を防ぎ、法的に適正な解決を図るためには、以下の手順を厳格に踏む必要があります。

1. 意思表示の証拠化(内容証明郵便の活用)

労働者が退職の意思を伝える際、口頭のみでは「言った・言わない」の紛争に発展します。

  • 民法第627条に基づく退職届を内容証明郵便(配達証明付き)により会社宛に送達することで、法的な解約申入れの日付と到達事実を客観的に立証できるようにします。
  • これにより、送達日から起算して14日経過後に雇用契約が確実に終了したことを法的に確定させます。

2. 会社との直接接触の遮断と代理人交渉

即日退職や解雇の効力を巡って会社側が激しく反発し、損害賠償をちらつかせるなどの威圧的な対応に出るケースが散見されます。

  • 労働基準法や民法の規定を無視した違法な引き止めや損害賠償請求に対し、労働者個人が直接対応することは精神的負担が大きいだけでなく、不利な発言を引き出されるリスクがあります。
  • 弁護士による受任通知(代理人通知)を会社に送達することで、会社から労働者本人への直接連絡を実務上強く牽制・抑止し、退職手続き、有給休暇の消化、給与の精算などの実務を法的根拠に基づいて迅速に処理することが可能です。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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