【実務上の対抗・解決手順】発言の録音や証拠保全を行った上で、弁護士名義による警告書(内容証明郵便)を発送し、会社側からの直接連絡を強く牽制・抑止し、弁護士を窓口に指定する措置をとることが最も確実な法的防衛策となります。
会社による転職先への嫌がらせ予告の法的性質
退職を申し出た労働者に対して、使用者が「次の転職先に連絡して評判を落としてやる」「内定を辞退せざるを得ないように仕向ける」などと告げるケースが見受けられます。しかし、労働者には憲法上の職業選択の自由(22条)があり、退職は民法上認められた権利です。この権利行使を妨害する目的で行われる転職先への接触・妨害行為は、法的に重大な問題となります。
労働基準法や民法の観点からも、退職後の労働者の動向に干渉する権利を使用者は有していません。むしろ、退職者への報復として転職先に連絡を入れる行為は、明白な違法行為として処罰や損害賠償の対象となります。
刑法上の責任:偽計業務妨害罪と信用毀損罪
使用者が転職先に対して虚偽の事実や、労働者の社会的評価を低下させるような風説を流布した場合、刑法第233条の偽計業務妨害罪または信用毀損罪が成立します。
偽計業務妨害罪は、威力を用いず、人の「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて」人の業務を妨害した場合に成立し、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。前職の会社が転職先企業に対し、合理的な理由なく退職者の悪評を告げたり、採用を取り消させるような工作を行ったりする行為は、まさにこの「偽計」による業務妨害に該当します。
民事上の責任:不法行為に基づく損害賠償請求
刑事罰だけでなく、民事上の違法性も極めて高いと言えます。民法第709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。
退職者が転職先での雇用契約を不当に破棄させられたり、精神的苦痛を受けたりした場合、使用者は不法行為責任を負うことになります。労働者は会社に対し、精神的損害に対する慰謝料や、就業機会の喪失によって生じた経済的損害の賠償を請求することが法的に可能です。
使用者による嫌がらせの動機と退職妨害の構造
労働法務の実務において、会社がここまで執拗な嫌がらせを行う背景には、人手不足や感情的な反発、あるいは見せしめによる他の従業員の引き止め目的が存在します。
しかし、民法第627条第1項により、期間の定めのない労働契約においては、解約(退職)の申し入れから2週間が経過すれば、会社の同意の有無にかかわらず労働契約は終了します。法的な退職プロセスが適法に進行している以上、会社側が私怨に基づいて退職者の次のキャリアを害する権利は一切存在しないのです。
個人間の交渉が招くリスク
このような脅迫を受けた際、労働者が個人で「やめてください」と抗議しに行くと、かえって会社側を逆上させ、脅迫の実行やさらなる嫌がらせを誘発するリスクが高まります。また、口頭でのやり取りでは証拠が残りにくいというデメリットもあります。
したがって、感情的な言い合いを避けて客観的な証拠を確保し、法的な専門機関を通じて毅然とした対応をとることが不可欠です。
会社から脅迫された場合の具体的な実務対処法
会社から「転職先に連絡する」と脅された場合、労働者は冷静かつ計画的に以下のステップで防衛措置を講じる必要があります。
1. 脅迫発言の客観的証拠の確保
まずは、会社側の違法な脅迫行為を証明するための証拠を確保します。
- 発言内容を録音する(スマートフォンやボイスレコーダー、通話録音アプリを使用)。
- 「転職先に連絡する」といった旨が記載されたメール、チャットツール(LINEやSlack等)の画面をスクリーンショットで保存する。
- やり取りの日時、発言者、状況を詳細に記したメモを作成する。
これらの証拠は、後日の警察への被害相談や、弁護士を通じた法的手続において極めて強力な武器となります。
2. 弁護士を通じた即時警告書面(内容証明郵便)の送付
会社からの接触や脅迫を根本から断ち切るためには、弁護士法人が代理人として介入し、警告書を内容証明郵便で送付することが最も実効性の高い手段です。
弁護士名義で「偽計業務妨害罪および不法行為に基づく損害賠償請求を行う旨」を文書で正式に通知することにより、法的な責任追及を恐れた会社側は、それ以上の連絡や妨害行為を直ちに停止せざるを得なくなります。
3. 本人への直接連絡の遮断と会社窓口の一本化
弁護士が代理人に就任すると、労働者本人は会社や経営者、上司と直接連絡を取る必要が一切なくなります。
- 会社や上司からの電話、メール、メッセージには一切応答しない。
- 会社側からの連絡はすべて弁護士の事務所宛てに転送するよう設定する。
- 万が一、転職先に直接連絡が入った場合でも、弁護士が介入している旨を伝え、法的措置の準備を進めることで被害の拡大を防ぐ。
このように、法的な根拠に基づいた盾を構築することで、会社側の不当な脅迫や嫌がらせを完全に封じ込め、安全かつ円滑に新しいキャリアへ移行することが可能となります。

