「会社に来て直接社長に頭を下げろ」という謝罪強要(強要罪・刑法第223条)の排除

公開日: 2026-10-15

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、労働基準法、民法(第627条・628条等)、労働契約法および最高裁判例法理に基づき、労働者の退職の自由と権利保護の観点から中立的・客観的に法的三段論法を用いて解説しています。

Q「会社に来て直接社長に頭を下げろ」と退職時に要求された場合、応じる義務はあるのか?
A【結論と法的根拠】退職にあたり、元従業員が会社へ赴いて直接謝罪する法的義務は一切存在しない。民法第627条に基づく退職権の行使において、謝罪や出社による対面協議は要件とされておらず、こうした要求の強要は刑法第223条(強要罪)や民法上の不法行為に該当する違法行為である。
【実務上の対抗・解決手順】本人への直接連絡を抑止し窓口を一本化するため、弁護士名義による「受任通知」等を送達し、以降のやり取りをすべて代理人経由に限定・完結させる。

退職時の謝罪強要が持つ法的な違法性と刑事罰

労働者が退職の意向を示した際、一部の使用者や経営者が「無責任に辞めるとは何事だ」「会社に来て直接社長に頭を下げ、誠意を見せろ」などと要求する事例が後を絶ちません。しかし、労働法務および刑法の観点から、このような要求は明確に否定されます。

民法第627条第1項により、期間の定めのない労働契約においては、労働者は解約の申し入れを行うことで、原則として2週間経過後に契約を終了させることができます。この退職の権利行使は労働者の正当な権利であり、使用者の承諾や、会社への出頭・対面での謝罪などは成立要件に含まれていません。

刑法第223条(強要罪)の成立要件

「会社に来なければ懲戒解雇にする」「損害賠償請求の裁判を起こす」「親に連絡して今回の件を言い付ける」などと告知して、義務のない謝罪や出社を強いる行為は、刑法第223条(強要罪)に該当する可能性があります。

強要罪の構成要件は以下の通りです。

  • 人に対し、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を加えたこと
  • 義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したこと

退職時の謝罪や会社への出頭は法律上の「義務なきこと」に該当するため、それを心理的圧迫や不利益の告知によって強制する行為は、刑事責任を問われる違法な実力行使となります。

民事上の不法行為責任と損害賠償請求

刑法上の犯罪構成要件に該当するだけでなく、民事上も使用者側の過度な威圧や謝罪の強要は、民法第709条(不法行為)に基づく損害賠償請求の対象となります。

労働者は、労働契約関係の終了に伴い、使用者に対して精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求する権利を有します。特に、執拗な連絡や威嚇的な言動、人格を否定するような説教の強要は、労働者の安全配慮義務(労働契約法第5条)に付随する「職場環境配慮義務」に違反するものと評価されます。

業務の引き継ぎと謝罪の混同に対する法的整理

使用者側が「引き継ぎが不十分であるから直接説明しにこい」と主張するケースが見られますが、業務の引き継ぎ方法についても、対面での謝罪や直接の面会が不可欠であるわけではありません。

書面、電子メール、クラウド上のマニュアル共有など、実務上合理的な代替手段が存在する場合、使用者がそれらを拒絶して対面での謝罪を強要することは、業務の円滑化ではなく、心理的支配や嫌がらせ(パワハラ)を目的とした権利の濫用とみなされます。

代理人による連絡遮断と法的手続きの実践手順

使用者からの謝罪要求や執拗な連絡に対して、労働者本人が単独で対応し続けることは、二次的な精神的被害(うつ病の発症等)を招くリスクが高いため推奨されません。法的に安全かつ確実な解決を図るためには、以下のステップに則った代理人介入が有効です。

1. 弁護士等による受任通知の送達

弁護士を代理人として選任し、使用者に対して「受任通知」を内容証明郵便で送達します。これにより、労働基準法や民法に基づく適法な退職手続きの通知と同時に、今後のすべての窓口を代理人に一本化することが可能です。

2. 直接連絡の禁止(連絡遮断の告知)

受任通知および「連絡遮断通知書」には、以下の法的な要求を明確に記載します。

  • 本人(労働者)への直接の電話、メール、SNS、自宅訪問等の接触の全面禁止
  • 今後の連絡はすべて代理人弁護士の事務所宛に行うことの指示
  • 違反した場合は、刑法第223条(強要罪)および民法第709条(不法行為)に基づく法的措置(刑事告訴および損害賠償請求)に移行する旨の警告

3. 退職手続きおよび私物の返還・給与精算の代理交渉

会社への出社や社長への直接の謝罪を一切行わずとも、退職届の受理、貸与物の返還(保険証、制服、PC等)、最終給与の支払い、離職票の発行などの諸手続きは、すべて代理人との書面上のやり取りを通じて完了させることができます。

労働者が不当な謝罪強要から身を守るためには、感情的な応酬を避け、客観的な法的根拠を盾にした代理人による遮断措置を講じることが最も確実な解決策となります。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、交通事故の賠償問題をはじめ、事業者様を狙う求人広告詐欺の被害救済やオフィス・テナント等の原状回復トラブルなど、不測の事態に直面した皆様の精神的・経済的なご負担を少しでも和らげ、正当な権利の実現と円満な解決へと導くためのサポートを徹底して行っています。

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