詐欺業者の請求に一部を支払ってしまった経営者様へ
求人広告詐欺や無料求人商法の被害に遭い、電話の督促に耐えかねて「着手金」や「一部の金額」を振り込んでしまう経営者様は後を絶ちません。一度お金を払ってしまうと、「もう契約を覆せないのではないか」「残りの全額も払わなければならないのか」と絶望される方が多くいらっしゃいます。
しかし、法律上、一部を支払ったからといって直ちにすべての権利が失われるわけではありません。本記事では、支払ってしまった行為の民法上の位置づけと、追認とみなされないための対策について法律の専門家の視点から詳しく解説します。
支払ってしまった一部の金銭は民法上どう扱われるか
悪質な事業者から執拗な電話やメールによる督促を受け、「まずは話し合いのために」「これ以上会社に迷惑をかけないために」と、請求額の一部を支払ってしまうケースは非常に多いです。この支払いは、民法上ではどのような意味を持つのでしょうか。
一部支払いが「契約の追認」とみなされるリスク
民法では、取り消しができる行為(詐欺や錯誤によって締結させられた契約など)について、その後に異議なく履行(支払いや請求の受領など)を行った場合、追認(契約を有効と確定させること)とみなされるリスクがあります。
もし、業者の主張をすべて飲み込んで「残金も支払います」という態度で一部を支払ったと判断されてしまうと、後から「実は詐欺だった」「錯誤があった」として契約の取消しを主張することが難しくなるおそれがあります。
錯誤や詐欺を理由とする取消しの可能性
一方で、誤認(錯誤)させられたり、嘘の説明(詐欺)によって契約を結ばされたりした場合、民法上は契約を取り消す権利が残っています。
焦って一部を入金してしまった場合でも、その入金が「脅されてやむを得なく行ったもの」あるいは「内容を確認するための一時的な措置」である場合、直ちに追認の意思があったとは評価されません。法律構成を正しく行うことで、既払金の返還請求や残額の支払拒絶の道は残されています。
「追認」とみなされないための重要ポイント
「一部を支払ってしまったが、これ以上の支払いは拒否したい」「むしろ返してほしい」という場合、今後の対応が極めて重要になります。特に重要なのが、支払いの性質を明確にする留保付きの支払いという考え方です。
留保付き支払い(抗議の意思表示)の重要性
もし今後、同様のトラブルでお金を支払わざるを得ない状況が生じた場合(あるいは既に支払ってしまった場合でも)、その支払いが「契約を有効と認めて自主的に支払ったわけではない」という証拠を残すことが不可欠です。
- 支払いの際に「本件請求の正当性を認めたわけではない」という旨を書面やメールで明確に伝える
- 領収書や振込明細の備考欄、または送金時のメールに「係争中につき、異議を留めての一時金」と記載する
- 弁護士名義で、今回の支払いが追認にあたらないことを記した通知書を相手方に送付する
こうした対応を行うことで、法律上の法定追認事由に該当することを回避し、後日の法的主張の有効性を維持することができます。
焦って「残りの支払い合意書」にサインしない
一部を支払った直後、悪質な事業者は「残金についても分割で支払う」という内容の合意書や念書にサインをさせようとします。これに署名・捺印してしまうと、それこそが契約の追認や新たな合意の証拠となってしまい、後からの争いが極めて困難になります。
どんなにプレッシャーをかけられても、その場で追加の合意書にサインをしたり、「全額払います」と口頭で約束したりすることは絶対に避けてください。
事業者間トラブル・求人広告詐欺は弁護士にご相談を
求人広告詐欺や悪質な無料求人商法において、一部の金額を支払ってしまったという既成事実を作られると、相手の態度はさらに強硬になります。しかし、そこで諦める必要はありません。
民法の「錯誤」「詐欺取消」「追認の成否」に関する法的主張は専門的な知識を要します。自社だけで対応しようとすると、相手の巧妙な言質取りに合い、さらに不利な状況に追い込まれる危険性があります。
一部の金額を支払ってしまった場合や、執拗な電話督促にお困りの経営者様は、一人で悩まずに、事業者間トラブルや詐欺被害に強い弁護士へ早めにご相談ください。適切な法的アプローチによって、被害の拡大を防ぎ、解決への道筋を切り開くことができます。