自己破産しても消えない「非免責債権(ひめんせきさいけん)」とは?
破産法253条

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 自己破産をすればすべての借金がゼロになりますか?消えない借金(非免責債権)があると聞いたのですが何が含まれますか?
A 【非免責債権とは】自己破産で免責許可決定を受けても、破産法253条の規定により支払義務が残り続ける税金や養育費、故意・重過失による不法行為の損害賠償などを指します。
【対応策と弁護士相談のメリット】どの債務が免責対象外になるかを事前に正確に把握することで、破産後の生活破綻を防げます。非免責債権が含まれる場合は分割交渉や他の債務整理手法との組み合わせについて弁護士へご相談ください。

自己破産の「非免責債権」とは何か

自己破産は、多重債務に苦しむ人が経済的な再出発を図るための裁判所的手続きです。裁判所から「免責許可決定」が確定すると、原則としてすべての借金や借入金の返済義務が免除されます。

しかし、社会的な公正や被害者救済の観点から、すべての債務がゼロになるわけではありません。破産法253条1項各号では、免責許可決定が出ても支払義務が消滅しない「非免責債権(ひめんせきさいけん)」を定めています。

自己破産を検討する際は、どの債務が免責され、どの債務が残り続けるのかを正確に把握しておくことが極めて重要です。

破産法253条に規定される主な非免責債権の一覧

法律上、免責の対象外とされる代表的な債権には、以下のようなものがあります。

  • 租税等の請求権(税金、国民健康保険料、国民年金保険料など)
  • 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
  • 夫婦間の協力義務、婚姻費用分担義務、子の監護義務(養育費)などに関する義務
  • 雇用関係に基づいて生じた使用人の給料や労働者の預り金の返還請求権
  • 破産者が知りながら債権者一覧表に記載しなかった請求権(知人からの借金や個人的な債務の隠蔽など)
  • 罰金、科料、刑事追徴金、過料など

これらの債権は、破産手続きが終わった後も引き続き債権者から請求を受けることになります。

実務上特に注意すべき非免責債権の詳細

非免責債権の中でも、日常生活や再出発の際にトラブルになりやすい代表的な項目について、実務的なポイントを解説します。

1. 税金や社会保険料(租税等の請求権)

住民税、所得税、固定資産税などの税金や、国民健康保険料、国民年金保険料は、破産をしても絶対に免除されません。これらは公的な財源となるためです。 滞納している場合、破産手続き中であっても役所による財産の差押え(滞納処分)が行われるケースがあります。税金滞納がある場合は、破産申立てと並行して、管轄の役所と分割納付の相談を行うなどの個別対応が必要となります。

2. 養育費や婚姻費用

離婚に伴う養育費や、別居中の婚姻費用分担金も非免責債権です。子どもを育てるための費用や生活保持義務に基づくものであるため、社会的保護の必要性が高いためです。 過去に滞納した分はもちろん、破産手続き開始決定後・免責決定後以降に発生する将来分についても、支払義務は継続します。

3. 悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権

ここでいう「悪意」とは、単なる故意とは異なり、「特定の他人に害を加える目的(害意)」をもっていた場合を指します。 例えば、暴行や傷害、詐欺などによって相手に精神的・身体的・経済的苦痛を与えた場合の損害賠償金は、破産によって免責されません。被害者を保護するためです。

4. 債権者一覧表から故意に漏らした債権

破産手続きの際、裁判所に提出する「債権者一覧表」に、意図的に特定の債権者を記載しなかった場合、その債権は非免責債権となります(破産法253条1項6号)。 「親しい友人だから破産に巻き込みたくない」「特定の業者だけに後でこっそり返す」という理由でリストから除外すると、かえって法的トラブルを招く原因になります。借入先はすべて正直に申告しなければなりません。

非免責債権がある場合の対処法と実務上の注意点

自己破産をしても非免責債権が残る場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

  • 税金や社会保険料の猶予・減免制度を活用する: 財政難で支払いが困難な場合、税務署や自治体の窓口に相談することで、徴収の猶予や分納が認められる場合があります。
  • 債権者と個別に話し合う: 養育費などの継続的な支払いが困難なときは、債権者(元配偶者など)と協議し、現実的な分割払いの合意を書面で取り交わすことが求められます。
  • 専門家に正確な債務状況を伝える: どの借金が非免責に該当するかを自己判断せず、専門家にすべての債務を正確に開示し、全体の資金計画を立てることが重要です。

自己破産は借金の負担を劇的に軽減できる有効な法的手続きですが、すべての金銭問題が万能に解決するわけではありません。非免責債権の存在を正しく理解し、破産後の生活設計を見据えた上で手続きを進めることが大切です。

TOP