査定額35万円の車を「自由財産拡張」を申し立てて手元に残した実例モデル

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 自己破産すると査定額35万円の車は必ず処分されてしまいますか?通勤や子どもの送迎に車が必要な場合は手元に残せますか?
A 【自己破産と自動車処分の原則および自由財産拡張による救済要件】自己破産では査定額が20万円を超える車は原則として処分の対象となりますが、通勤や通院、子どもの送迎などに不可欠であり、公共交通機関などの代替手段がない場合は、「自由財産拡張」の申し立てを行うことで、査定額が35万円であっても裁判所の許可を得て手元に残せる可能性があります。
【弁護士による適切な申し立てと生活再建のメリット】自由財産拡張の認められる範囲や必要書類の準備は裁判所や管財人の判断によって異なるため、車をどうしても残したい場合は、破産手続きに精通した弁護士へ早期に相談し、生活必需性や代替不可能性を的確に主張・立証してもらうことが重要です。

自己破産の手続きを進めるにあたり、多くの方が気にかける財産の一つが自動車です。特に公共交通機関が発達していない地域や、日々の通勤、家族の送迎に車が欠かせない生活を送っている人にとって、マイカーを失うことは生活再建への大きな障壁となります。

破産法では、破産者が原則として手元に残せる財産(自由財産)の基準を定めていますが、現金等については99万円までとされている一方で、自動車などの個別資産については、査定額が20万円を超える場合に原則として管財人が換価処分(売却して債権者に配当)することになっています。

しかし、法律には自由財産の拡張という救済制度が用意されています。この制度を活用することで、査定額が20万円を超える自動車であっても、裁判所の許可を得て手元に残せるケースがあります。

今回は、査定額35万円のマイカーについて自由財産拡張の申し立てを行い、実際に車を手元に残すことができた実例モデルをもとに、その法的要件や実務上のポイントを詳しく解説します。

自己破産における自動車の扱いと自由財産の基本

自己破産を申し立てると、債務者が所有する一定以上の価値がある財産は、破産管財人の管理下に入ります。

  • 現金や預貯金:原則として99万円まで手元に残せる。
  • 自動車:査定額(市場価値)が20万円を超える場合、原則として処分の対象となる。
  • 保険解約返戻金:1契約あたり、または合計で20万円を超える場合、処分の対象となる。

車検証上の名義が自分であり、ローンが完済されている場合、車の「査定額」が財産価値の基準となります。査定額が35万円であれば、原則論としては「20万円を超えているため処分して換価する」ということになります。

ここで問題となるのが、生活必需品としての必要性です。破産手続きの目的は債務の公平な清算だけでなく、破産者の経済的な生活の立て直し(再スタート)を支援する点にもあります。そのため、車がないと生活や仕事が著しく成り立たない事情がある場合、例外的な措置が検討されます。

自由財産拡張とはどのような制度か

破産法第34条第4項には、裁判所は破産者の申立てにより、あるいは職権で、破産者の生活の状況、手続開始時における破産者が保有する金銭、その他の財産の状況、破産者が収入を得る見込みなどを考慮し、破産財団に属する財産の全部または一部を自由財産とする決定をすることができる旨が規定されています。

これが「自由財産拡張」の制度です。

つまり、本来であれば処分されるべき35万円の車であっても、その車を手元に残すことが破産者のその後の生活再建や最低限の生活維持に不可欠であると裁判所や破産管財人に認められれば、例外的に自由財産の範囲を広げてもらえるのです。

査定額35万円の車を手元に残した実例モデル

実際に、査定額35万円の自動車について自由財産拡張が認められた事例の概要を見ていきましょう。

【事例の概要】

  • 申立人:地方都市在住の会社員(給与所得者)
  • 借入原因:生活費の補填および医療費の負担による多重債務
  • 所有財産:普通自動車1台(初年度登録から約7年経過、査定額約35万円、ローン完済済み)
  • 生活状況:最寄りのバス停まで徒歩で30分以上かかる地域に居住。公共交通機関の本数が非常に少なく、電車の駅までも車で20分程度の距離がある。

【車が不可欠である事情の立証】

この事例において、自動車を手元に残すために重要視されたのは、「代替手段の不存在」「通勤・生活維持への不可欠性」です。
  1. 通勤の必要性:勤務先への交通手段が車以外に存在せず、車を失うと即座に失職するリスクが極めて高かったこと。給与収入が途絶えると、自己破産後の生活再建(家賃の支払い等)が不可能になる点。
  2. 家族の送迎・通院:同居する子どもの保育園への送迎や、通院に必要な足として他に手段がないこと。
  3. 経済的価値の低さ:査定額が35万円であり、処分してもそこから執行費用や管財人報酬を差し引くと、債権者への実際の配当原資がわずかしか残らないこと。

【解決に至るプロセス】

破産申立ての段階で、あらかじめ自動車の査定書(買取業者による査定)を添付し、自由財産拡張の上申書(理由書)を提出しました。

上申書では、詳細な通勤経路の地図、公共交通機関の時刻表、勤務先からの証明書などを添えて、車がないと生活の維持が著しく困難になることを客観的に示しました。

選任された破産管財人も、この事情を妥当と判断しました。査定額の35万円そのものが高額ではないこと、車を手放すことで申立人の収入基盤が失われるデメリットの方が大きいことが考慮され、最終的に裁判所によって自由財産の拡張が許可されました。

これにより、車を処分されることなく、そのまま手元に残した状態で自己破産の手続きを進めることができました。

自由財産拡張を成功させるための実務上のポイント

自動車の自由財産拡張の申し立ては、すべてのケースで無条件に認められるわけではありません。東京地裁などの都市部や地方裁判所によって運用基準に若干の違いはありますが、一般的に以下の要素が審査されます。

  • 客観的な必要性の証明:単に「車があった方が便利だから」という理由では認められません。通勤、通院、介護、公共交通機関が極めて不便な地域であることなどを、証拠をもって説明する必要があります。
  • 財産価値のバランス:査定額が20万円を少し超える程度(例えば25万円〜40万円程度)であれば拡張が認められやすい傾向にありますが、高級車やスポーツカーなど、資産価値が100万円を超えるような車の場合は、自由財産拡張のハードルは極めて高くなります。その場合は、自由財産分の差額(査定額から必要最低限の枠を引いた額)を現金で管財人に納付する「価額弁済(買戻し)」という手法が検討されることが一般的です。
  • ローンが残っている場合の注意:ローンが残っている(所有権留保がついている)車の場合、ローン会社がすぐに引き揚げてしまうため、そもそも自由財産拡張の対象とすることが難しいケースがあります。原則としてローンが完済されていることが前提となります。

まとめ

査定額35万円の自動車であっても、生活や通勤に不可欠である明確な理由があり、それを適切に裁判所や破産管財人に主張・立証できれば、自由財産拡張の申し立てによって手元に残せる可能性があります。

自己破産を検討する際、「車を手放さなければならない」という思い込みから手続きをためらってしまう人は少なくありません。しかし、個々の生活環境に応じた救済措置が法律上用意されています。マイカーを手元に残しながら生活再建を目指したい場合は、専門的な法知識に基づいた正確な状況整理と申立ての準備を行うことが重要です。

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