見込額300万円の退職金(1/8算定で37.5万)を自由財産枠で残した例

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 自己破産をすると退職金は全額没収されてしまうのですか?見込額300万円の退職金を失わずに手元に残す方法はありますか?
A 【退職金の評価と自由財産枠の活用】自己破産において退職金は原則として財産とみなされますが、一般的に見込額の8分の1が評価額となり、今回は37.5万円となります。この評価額と手元現金を合わせて99万円の自由財産枠内に収めることで、退職金を失わずに手元に残すことが可能です。
【弁護士への相談と生活再建のメリット】裁判所や破産管財人に対する適切な申立てや自由財産拡張の交渉には専門的な法的手続きが必要です。弁護士に早期に相談し適切に対処することで、財産を守りながら安全かつ確実な経済的再出発を実現することができます。

自己破産における退職金の扱いと評価方法

自己破産の手続きを行う際、加入している退職金制度や勤続年数に応じた「退職金見込額」は、原則として財産(破産財団)の一部として扱われます。もし今すぐに会社を退職したとしたら支給されるであろう退職金は、将来の収入源であると同時に、債権者全体に公平に配当されるべき財産の一種とみなされるためです。

しかし、退職金は将来の生活基盤や老後の生活資金に直結する極めて重要な財産です。そのため、裁判所の運用や破産法においては、退職金全額が直ちに没収されるわけではありません。一般的に、退職金見込額の8分の1相当額が、破産財団を構成する価額(評価額)として算定されるのが実務の標準的な基準となっています。

今回取り上げる事例では、退職金の見込額が300万円であったため、その8分の1である37.5万円が具体的な財産評価額となります。

自由財産の範囲と99万円の枠組み

破産者が最低限の生活を維持し、経済的な再出発を図るために保有が認められる財産を「自由財産」と呼びます。破産法第34条第3項等により、現金については99万円までの範囲で自由財産として手元に残すことが認められています。

また、裁判所の運用によっては、破産管財人が選任される事件(管財事件)において、預貯金や保険解約返戻金、自動車、そして今回のような退職金評価額などの特定の財産も含めて、合計99万円以内であれば自由財産の拡張が認められるケースが多く存在します。

自由財産拡張の考え方

  • 現金や預貯金だけでなく、評価額のある財産をすべて合算して計算します。
  • 裁判所および破産管財人の裁量により、生活再建に必要な範囲で柔軟に拡張が認められます。
  • 東京地裁をはじめとする多くの裁判所管内において、総額99万円を基準とした自由財産拡張の申し立てが広く活用されています。

退職金37.5万円と手元現金を99万円枠内で保全した事例

ここでは、見込額300万円の退職金を持つ債務者が、どのようにして財産を手元に残したのか、具体的な実務上の流れを解説します。

1. 退職金見込額の証明と評価の確定

まずは勤務先から「退職金見込証明書」を取得するか、それが取得できない場合は会社の退職金規程に基づいた算定書を作成し、裁判所に提出します。今回のケースでは、見込額が300万円であることが客観的に証明されました。これを8分の1で算定し、37.5万円が今回の破産手続きにおける退職金の評価額として確定しました。

2. 他の保有財産との合算と99万円枠の検証

次に、退職金評価額の37.5万円に加え、申立人が保有している手元現金や預貯金残高、その他の財産をリストアップします。仮に手元現金が50万円あった場合、37.5万円と合わせると87.5万円となります。

この合計額が99万円の枠内に収まっているため、申立人は「自由財産拡張の申し立て」を行い、これらすべての財産を破産財団から除外してもらうよう求めました。

3. 裁判所の許可と財産の死守

裁判所および破産管財人は、申立人の生活状況や今後の収入見込み、再建計画などを総合的に審査します。この事例では、合計額が99万円の法定枠内に収まっており、債権者への配当に回すほどの過剰な財産ではないと判断されたため、無事に自由財産の拡張が許可されました。

結果として、見込額300万円の退職金に基づく評価額37.5万円は一切処分されることなく、手元の現金等と合わせて完全に保全されることとなりました。

退職金を巡る実務上の注意点と対策

自己破産において退職金を適切に守り、スムーズに手続きを進めるためには、いくつかの重要な注意点があります。

退職間近のケースや既に受給している場合の注意

すでに定年退職間近である場合や、退職金がすでに口座に振り込まれている場合は、上記の「8分の1算定」が適用されないことがあります。すでに受給している現金は「見込額」ではなく「現物(現金・預貯金)」として扱われるため、評価額が高くなるリスクや、財産隠しと疑われるリスクが生じます。

財産の移動や直前の引き出しの危険性

退職金や預貯金を、破産申し立ての直前に親族へ口座送金したり、急に引き出して使途不明金を作ったりする行為は絶対に避けるべきです。これは偏頗弁済(特定の債権者への返済)や財産隠匿とみなされ、免訴不許可事由に該当するリスクや、管財事件での調査が厳格化する原因となります。

正確な資料収集と適切な申し立て

自由財産拡張の認可を得るためには、保有しているすべての財産を正確に申告し、法律の規定に基づいた適切な申し立て書類を作成することが不可欠です。裁判所や破産管財人に対して透明性のある説明を行うことで、生活再建に必要な財産を確実的手元に残す道が開かれます。

TOP