保有する「退職金(支給見込額)」の何割が清算価値にカウントされるか?

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 個人再生をすると、将来もらえる退職金や退職金見込額はどのくらい借金の返済額(清算価値)に影響しますか?
A 【退職金の評価額の目安】個人再生における退職金の清算価値は、今すぐ自己都合退職した場合の支給見込額を基準に算出され、すぐに退職予定がない場合は「支給見込額の8分の1(12.5パーセント)」、退職間近などの場合は「4分の1(25パーセント)」が財産として計上されます。
【弁護士に依頼するメリット】退職金の正確な算出や評価額の証明には会社の退職金規定などの資料が必要となり、清算価値保障原則に基づいた適正な再生計画の作成が不可欠です。弁護士に相談することで、財産を適切に守りながら借金を大幅に圧縮し、無理のない返済計画で生活を再建するための最適なサポートを受けることができます。

個人再生手続きを進める際、避けて通れない重要な概念が清算価値保障原則です。これは、債務者が保有する財産の総額(清算価値)以上の金額を、原則として再生計画に基づいて弁済しなければならないというルールです。

不動産や預貯金、自動車などの分かりやすい財産だけでなく、将来受け取るはずの「退職金」も財産(将来の債権の性質を持つもの)として評価され、清算価値に算入される場合があります。将来の収入源である退職金がどのように扱われるのか、その具体的な算出方法と実務上の取り扱いについて解説します。

個人再生における退職金の基本的な考え方

会社員や公務員として勤務している場合、退職金規定に基づいて将来退職金を受け取る権利(期待権)を有しています。破産手続きや個人再生手続きにおいては、この退職金も財産価値として評価の対象となります。

しかし、退職金はすぐ手元にある現金とは異なり、実際に受給できるのは定年退職時など遠い将来であることがほとんどです。そのため、退職金の全額がそのまま清算価値としてカウントされるわけではありません。

実務上は、「今、この会社を自己都合で退職したとしたら、いくらの退職金が支給されるか」という金額(退職金支給見込額)を算出し、その一定割合を財産として評価します。

退職予定の有無による算定割合の違い

退職金の支給見込額に対して、どの程度の割合を清算価値にカウントするかは、主に「退職がどれほど差し迫っているか」という状況によって異なります。裁判所の運用によって細かな違いはありますが、一般的には以下のように分類されます。

  • 直近で退職の予定がない場合:支給見込額の「8分の1(12.5パーセント)」
  • すでに退職が確実視されている、または自己都合退職間近の場合:支給見込額の「4分の1(25パーセント)」

それぞれの状況について、実務的な詳細を見ていきます。

1. 当分退職の予定がない場合(原則:8分の1)

多くのサラリーマンや一般企業の従業員のように、定年までまだ何年も期間があり、具体的な退職予定がないケースがこれに該当します。

この場合、今すぐ退職金が現金化できるわけではなく、受給までに長い期間と雇用リスク(会社の経営状態の変化や懲戒解雇の可能性など)を伴うため、評価額は大きく減額されます。一般的に、退職金支給見込額の8分の1の金額を清算価値として計上します。

例えば、現時点で自己都合退職した場合の退職金見込額が400万円であると仮定します。この場合、400万円の8分の1である「50万円」が、個人再生の清算価値に算入されることになります。

2. 退職が間近な場合や自己都合退職の予定がある場合(例外:4分の1)

すでに定年退職の時期が数ヶ月後に迫っている場合や、個人再生の手続き中または直近に自ら退職する予定がある場合は、評価割合が高くなります。

このケースでは、将来のリスクが低く、比較的確実かつ早期にまとまった金銭を手に入れることが予想されるため、退職金支給見込額の4分の1が清算価値として算定されます。先ほどの例と同様に、支給見込額が400万円であれば、「100万円」が清算価値となります。

退職金証明書等の取得方法と証明の重要性

個人再生の申し立てを行う際には、裁判所に対して自身の財産状況を正確に報告する義務があります。退職金についても、主観的な予測ではなく、客観的な証拠に基づいて価額を証明しなければなりません。

そのため、勤務先の総務部や人事部、あるいは社外の退職金共済組織などに対して、「退職金支給見込額証明書」の発行を依頼することが一般的です。

  1. 勤務先の退職金規程を確認し、自己都合退職時の算定方法を把握する。
  2. 総務・人事部門に依頼して「現在退職した場合の支給見込額証明書」を作成してもらう。
  3. 退職金規程の抜粋(計算式が記載されているページ等)と合わせて裁判所に提出する。

会社によっては、借金の整理のための手続きであることを知られたくないという理由で、退職金見込額証明書の取得をためらうケースも見受けられます。しかし、住宅ローン特則を利用する場合や、他の財産との兼ね合いで正確な清算価値を算出するためには不可欠な書類となります。会社に対しては「財産目録の添付書類として公的・法的に必要なもの」としてスムーズに取得できるよう手配することが大切です。

退職金担保ローンや借入がある場合の注意点

退職金を対象とした社内融資や、退職金担保貸付を利用している場合、評価額の計算に影響を与えることがあります。

基本的には、退職金支給見込額から、その退職金を担保にした借入金の残高を控除した残額に対して、先ほどの割合(8分の1や4分の1など)を乗じる形をとることが多いです。ただし、借入金の性質や担保設定の状況によっては厳密な法律上の判断が必要となるため、個別の債務状況に応じた正確な引き算のルールを確認することが求められます。

まとめ

個人再生における退職金の扱いは、一見すると複雑に思えますが、基本的には「現在の支給見込額を算出し、退職予定の有無に応じて8分の1または4分の1を掛けて清算価値を出す」というルールに基づいています。

保有する退職金の評価額がどの程度になるかによって、再生計画で支払うべき最低弁済額が変動するため、申し立て前の段階で正確な見込額を把握しておくことが、スムーズな借金整理の成功につながります。

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