「時効の援用権の放棄」とは?
時効成立後に一部返済すると二度と時効使えない

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 借金の時効期間(5年)が過ぎた後に「千円だけでも」と一部返済してしまったり、電話で支払いを約束したりするとどうなりますか?
A 【時効の援用権の放棄】消滅時効期間が経過した後に少額でも返済したり、支払いの約束(債務承認)をしたりすると、法律上「時効の援用権の放棄」とみなされ、二度と時効を主張できなくなり全額を支払う義務が復活します。
【弁護士への相談と対策】督促状が届いても安易に連絡や支払いをせず、直ちに弁護士に相談して時効の援用手続きを代理で行うことで、安全に借金の納税義務を消滅させ、生活再建を図ることができます。

長期間放置されている借金について、突然債権回収会社から督促状が届き、驚いてしまう方は少なくありません。最終返済日から5年以上が経過している場合、消滅時効の要件を満たしている可能性が高いですが、ここで最も警戒しなければならないのが「時効の援用権の放棄」という法的な罠です。

本記事では、時効が成立した後に生じるリスクや、知らず知らずのうちに行ってしまいがちな危険な行為、そして正しい対処法について詳しく解説します。

消滅時効の「援用」と「放棄」の仕組み

借金の消滅時効は、ただ時間が経過しただけでは自動的に完成しません。債務者が債権者に対して「時効の援用(時効の利益を受けるという意思表示)」を内容証明郵便などで通知することによって、初めて借金を消滅させる効力が生じます。

一方で、民法では時効の利益を事前に受けることを放棄することはできないと定められていますが、時効が完成した「後」であれば、その利益を放棄することが可能とされています(民法146条)。これが「時効の援用権の放棄」です。

時効完成後の放棄がもたらす重大な結果

一度時効の援用権を放棄してしまうと、法律上、「時効期間が経過していなかったもの」として扱われます。これにより、本来であれば支払わなくてよかったはずの借金の全額および遅延損害金について、支払う義務が確定してしまいます。

時効成立後に「一部返済」すると危険な理由

債権回収会社から届いた督促状を見て、「とりあえず誠意を見せるために千円だけでも振り込んでおこう」「分割払いの合意書にサインして少額を入金した」という行動をとる方がいます。

しかし、実務上、消滅時効の期間が経過した後に借金の一部を返済する行為は、「債務の承認(借金の存在を認めること)」に該当すると同時に、「時効の利益を放棄した」という強い意思表示として評価されます。

実務上よくある危険なケース

  • 「全額は払えないが、今月は5,000円だけ振り込みます」と申し出て入金した
  • 債権回収会社からの電話で「少し待ってくれれば払います」と答えてしまった
  • 示談書や和解書にサインし、少額の分割返済を開始した

これらの行為を行った後に、「やっぱり5年以上前の借金だったから時効を援用する」と主張しようとしても、法的にその主張は認められなくなります

「債務の承認」と時効中断(更新)の法的違い

時効制度には、時効の進行をリセットする仕組みとして「時効の更新(旧・時効の中断)」があります。これは時効期間の進行中に債務の承認などがあった場合に適用されます。

これに対し、時効がすでに「完成した後」に行う一部返済や支払いの約束は、時効の更新ではなく「時効の援用権の放棄」または「信義則上の禁反言(一度自分で払うと言っておきながら後から時効を主張するのは矛盾しており許されない)」という論理に基づき、時効の主張が封じられることになります。結果として、どちらの法的構成であっても、債務者は時効による恩恵を受けられなくなります。

古い督促状が届いたときの正しい対処法

長期間返済していない借金の催告書や督促状が届いたときは、焦って相手に連絡を取ったり、一部でも入金したりすることは絶対に避けるべきです。冷静に対処するためのポイントを以下に整理します。

  • 絶対に連絡や入金をしない: 相手に電話をかけたり、少額でも返済したりすると、意図せず債務の承認や時効の放棄になってしまう危険があります。
  • 最終返済日を確認する: 手元にある資料や記憶を頼りに、最後に返済した日や裁判を起こされた時期を正確に確認します。
  • 専門家に法の判断を仰ぐ: 5年以上の経過が見込まれる場合は、時効の援用手続きを確実に行うため、法律の専門家である弁護士や司法書士に状況を整理してもらうことが安全です。

まとめ

消滅時効が完成している借金であっても、その後に「これくらいなら」と少額を返済したり、支払いの約束をしたりすることは、二度と時効を使えなくする致命的な引き金となります。

身に覚えのない古い借金の督促が届いたときは、ご自身の判断で動く前に、まずは落ち着いて法的要件を確認し、安全な手続きを選択することが何よりも重要です。

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