婚姻費用・養育費不払いでの給与差押えに対し自己破産しても解除できない注意

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 養育費や婚姻費用の未払いで給与が差押えられているのですが、自己破産をすればこの差押えは自動的に解除されますか?
A 【自己破産をしても養育費や婚姻費用の給与差押えは自動的には解除されません】養育費や婚姻費用は破産法上の「非免責債権」に該当し、裁判所で免責許可決定を受けても支払義務は免除されません。そのため、これを原因とする給与差押えは破産手続き中であっても原則としてそのまま継続されます。
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自己破産と差押えの基本的な関係

借金が膨らみ、自力での返済が困難になった際に行われる法的手続きが自己破産です。破産手続きの大きな目的の一つは、裁判所から「免責許可決定」を受けることによって、原則としてすべての借金の返済義務を法的に免除(免責)してもらうことにあります。

通常、破産手続きの開始が決定されると、債権者による給与や財産への強制執行(差押え)は効力を失うか、続行が禁止されるのが一般的です。しかし、すべての債務がこの恩恵を受けられるわけではありません。破産法において、社会的な保護の必要性が特に高い特定の債務については、免責が認められない「非免責債権」として規定されています。

非免責債権としての婚姻費用と養育費

破産法第253条第1項各号には、免責許可決定の効力が及ばない「非免責債権」が列挙されています。その中には、税金や罰金などの公租公課のほか、扶養義務に関する債権も含まれています。

具体的には、離婚前における夫婦間の生活費である「婚姻費用」や、離婚後の子どもに対する「養育費」がこれに該当します。これらは、権利者およびその子供の生活の維持に直結する極めて重要な金銭であるため、債務者が自己破産をしたとしても、その支払義務が免除されることはありません。

給与差押えが解除されない理由

通常の消費者ローンやクレジットカードの借金であれば、破産申し立て後に強制執行の停止や失効の申し立てを行うことで、給与からの天引きを止めることができます。

しかし、養育費や婚姻費用の不払いを原因とする給与差押えの場合、元となる債権自体が非免責債権であるため、破産手続きを開始しただけでは差押えを強制的に解除することはできません。執行裁判所や債権者に対して破産手続開始決定書を持ち込んだとしても、非免責債権に対する強制執行はそのまま続行が認められるケースがほとんどです。

実務上の注意点と影響

自己破産の手続きを進めている最中であっても、養育費等の不払いに起因する給与差押えは継続して実行されます。これにより、以下のような実務上の問題や注意点が生じます。

  • 手取り収入の減少が続く: 破産手続中であっても、給与の一部(法律で定められた範囲内、通常は4分の1など)が差し押さえられ続けます。生活再建のための資金計画に影響を与える可能性があります。
  • 他の債権者との平等の問題: 破産手続きは債権者間で公平に財産を分配する仕組みですが、非免責債権に基づく差押えは別除権的な優先性を維持するため、結果として養育費等の権利者が優先的に回収を続けることになります。
  • 和解や任意交渉の必要性: 差押えを止めるためには、単に破産を申し立てるだけでなく、債権者(元配偶者など)と直接連絡を取り、今後の支払い方法について個別に話し合いや和解を行う必要がある場合が少なくありません。

まとめ

自己破産は多くの債務負担を合法的に解消するための有効な手段ですが、すべての問題が万能に解決するわけではありません。

  • 婚姻費用や養育費は破産法上の非免責債権である。
  • 非免責債権に基づく給与差押えは、破産手続きを行っても自動的には解除されない。
  • 生活再建を見据える上では、非免責債権の存在と強制執行の継続リスクをあらかじめ想定した資金計画が不可欠となる。

法的制度を利用する際は、それぞれの債権の性質や手続きの限界を正確に把握しておくことが重要です。

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