婚姻中に蓄えた「配偶者名義の預金・資産」が自分の清算価値に含まれるか

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 個人再生をすると、専業主婦の妻や夫の名義にある預金や資産も自分の財産として清算価値に含まれてしまうのですか?
A 【法的な結論と判断基準】配偶者の純粋な特有財産や独立した財産は清算価値に含まれませんが、実質的に債務者の収入から形成された「名義預金」や隠し口座とみなされる資産は、財産隠しと判断されて清算価値に算入されるリスクがあります。
【弁護士への相談と対策のメリット】夫婦間の財産の切り分けや名義預金の扱いは裁判所の厳格な審査対象となるため、財産隠しと誤認されないよう弁護士の法的サポートを受けながら適正に財産目録を作成し、再生計画の認可と生活再建を目指すことが重要です。

個人再生の手続きを進めるにあたり、最も厳格に審査されるのが清算価値保障原則です。これは、自己破産をした場合に債権者に配当されるであろう財産の総額(清算価値)以上の金額を、再生計画に基づいて原則として3年間で分割弁済しなければならないというルールです。

この清算価値を計算する際、悩ましい問題となるのが「配偶者名義の財産」の扱い方です。夫婦間で所有する資産が、法的にどちらの財産と評価されるかによって、返済総額が大きく変動する可能性があります。

配偶者の特有財産と共有財産の基本原則

夫婦であっても、法的にはそれぞれ独立した財産所有権を持っています(夫婦別産制)。

民法上、婚姻前から各自が所有していた財産や、婚姻中であっても相続や遺贈によって各自が取得した財産は特有財産と呼ばれ、これは名義人の単独所有財産となります。したがって、配偶者が独身時代から持っていた預貯金や、親から相続した不動産などは、債務者の清算価値には一切含まれません。

これに対し、婚姻後に夫婦の協力によって築き上げた財産は実質的共有財産と推定されます。たとえば、夫が働き、妻が専業主婦として家事や育児に専念していた場合であっても、婚姻中に得た給与収入は夫婦の協力の成果とみなされるため、その収入から購入した自宅や自動車などは、名義がどちらであっても夫婦の共有財産としての性格を帯びてきます。

「名義預金」と清算価値への算入リスク

個人再生の実務において非常に問題視されるのが、いわゆる名義預金の存在です。

名義預金とは、口座の名義人は配偶者や子供であるものの、実際の資金拠出者であり、通帳や印鑑を管理して自由に動かしていたのが債務者本人であるような預貯金のことを指します。

よくある具体例として、以下のようなケースが挙げられます。

  • 夫の給与口座から毎月一定額を引き出し、専業主婦の妻の名義で作った口座に長年貯金していたケース
  • 配偶者や子供の名前で口座を開設したものの、暗証番号の管理や通帳の保管をすべて債務者自身が行っていたケース
  • 実質的に自分の小遣いやへそくりとして使っていた資金の蓄え

裁判所や個人再生委員の調査において、このような配偶者名義の口座であっても、実質的な支配権や原資が債務者にあると判断された場合、それは債務者の隠し財産(名義預金)として認定されます。結果として、その預金残高全額、あるいは債務者の寄与分に相当する金額が、清算価値に加算されることになります。

裁判所や再生委員による厳格な調査実務

個人再生の申し立てを行う際、裁判所や選任された個人再生委員は、申立人だけでなく、場合によっては生計同一である配偶者の資産状況についても資料の提出を求めてきます。

具体的には、過去数年分の通帳のコピーや、保険の解約返戻金証明書、自動車の査定書などの提出が求められます。特に専業主婦やパートタイマーである配偶者の口座に多額の残高がある場合や、不自然な大金の移動履歴がある場合は、その原資がどこから来たものか厳しく追求されます。

「妻が自分のパート代からコツコツ貯めたものだ」と主張しても、妻に収入がなかったり、夫の給与口座から直結して資金が移動していたりする客観的な証拠がある場合、その主張は通らなくなります。裁判所は形式的な名義ではなく、実質的な経済的実態を重視して判断するためです。

財産隠しとみなされないための注意点

清算価値の計算から逃れるために、意図的に財産を配偶者名義に移転させる行為は厳に慎むべきです。

申立直前に預金を配偶者の口座に移したり、高額な資産を名義変更したりすることは、財産隠し(偏頗弁済や詐害行為に準ずる行為)とみなされるおそれがあります。このような行為が発覚した場合、再生計画案が認可されないだけでなく、最悪の場合は申し立てが棄却されるリスクもあります。

個人再生を円滑に成功させるためには、自分の名義の財産だけでなく、配偶者名義となっている資産の原資や形成経緯についても、あらかじめ正確に把握しておく必要があります。少しでも不明な点や、清算価値の算定に影響しそうな資産がある場合は、申立前に法務の専門家へ詳細な状況を伝え、正確な財産評価を受けることが重要です。

TOP