「可処分所得の2年分」が300万円と試算され小規模個人再生で160万円へ抑えた例

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q 給与所得者再生で可処分所得が300万円と高額になる場合でも、小規模個人再生を選ぶことで借金を160万円まで減額できるというのは本当ですか?
A 【借金圧縮の仕組み】給与所得者再生の基準である「可処分所得の2年分(300万円)」よりも、借金総額に基づく最低弁済額(160万円)の方が低い場合、債権者の不同意リスクをクリアして小規模個人再生を選択できれば、返済総額を160万円まで大幅に抑えて認可を得ることが可能です。
【弁護士に依頼するメリット】どちらの手続きがご自身の収入状況や債権者構成に最適かを見極め、裁判所への適切な申し立てや不同意リスクの回避を行うためには、借金問題に精通した弁護士への早期の無料相談が不可欠です。

個人再生は、裁判所の手続きを通じて借金の総額を大幅に減額し、原則として3年間(特別な事情がある場合は最長5年間)で分割返済していく法的整理の手段です。この個人再生には、主に小規模個人再生給与所得者再生という2つの手続きが用意されています。

それぞれの特徴を正しく理解し、ご自身の収入や債権者の状況に合わせて適切な手続きを選択することが、返済負担を最小限に抑えるための重要なポイントとなります。ここでは、可処分所得の試算額と最低弁済額の兼ね合いから、小規模個人再生を活用して大幅な減額に成功した事例をベースに、実務上の判断基準を解説します。

個人再生における2つの手続きの仕組み

個人再生を検討する際、法律上どちらの要件も満たしている場合は、どの基準に基づいて返済額(弁済額)が決まるかを正確に把握する必要があります。

  • 小規模個人再生:主に自営業者やフリーランス、または収入の変動がある給与所得者などを対象とした手続きです。債権者からの過半数の反対(不同意)がないことが認可の要件となります。
  • 給与所得者再生:サラリーマンなど、収入が定期かつ継続的である人を対象とした手続きです。債権者の意見聴取は行われますが、不同意による否決要件がない代わりに、「可処分所得の2年分以上の金額」を弁済しなければならないという独自のルールがあります。

法律では、給与所得者再生を申し立てる場合だけでなく、小規模個人再生であっても「清算価値保障原則」や「最低弁済額の基準」をクリアする必要があります。しかし、給与所得者再生の場合はさらに可処分所得の2年分という枠が適用されるため、人によっては返済額が跳ね上がるケースが存在します。

「可処分所得の2年分」がネックになるケース

給与所得者再生における「可処分所得」とは、年間の収入から税金や社会保険料、さらに政令で定められた生活維持費(政令要件に基づく必要経費)を差し引いた残りの金額を指します。

例えば、収入が比較的安定しており、なおかつ単身赴任などの特別な控除事情がない場合、この可処分所得が毎月一定額以上あると計算されます。その「2年分」が300万円という試算になった場合、給与所得者再生を選択してしまうと、たとえ借金総額から算出した本来の最低弁済額がもっと低くても、原則として300万円を支払わなければならなくなります。

借金の総額が約800万円だった場合、通常の最低弁済基準(この場合は5分の1ルールにより160万円)であれば160万円にまで圧縮できるはずが、給与所得者再生の要件によって300万円の返済を強いられることになってしまいます。毎月の返済計画において、160万円と300万円の差額は非常に大きな負担の差となります。

小規模個人再生を選択して160万円へ抑えた実務判断

上述のような状況において、なぜ小規模個人再生を選択し、160万円まで圧縮することができたのでしょうか。ここには、破産法制および民事再生法における綿密な実務上の判断基準が存在します。

1. 債権者の不同意リスクの正確な見極め

小規模個人再生が利用される際最大のハードルとなるのが、「債権者の頭数の過半数、かつ、その債権額の総額の2分の1以上を持つ債権者が不同意の意見を述べた場合、再生計画が認可されない」という規定です。

しかし、近年の実務においては、消費者金融や銀行などの大手金融機関、および保証会社の大半は、裁判所の定めた再生計画案に対して頭数や債権額の基準内で反対しない限り、機械的に不同意を回すことは少なくなっています。あらかじめ借入先の傾向や債権額の構成を精査し、不同意を投じる可能性のある債権者が存在しない、あるいは影響力がないと判断できれば、小規模個人再生を選択することが可能です。

2. 最低弁済額基準の適用

小規模個人再生では、給与所得者再生で適用される「可処分所得の2年分」という計算を行わなくて済みます。そのため、法律で定められた通常の基準(債権総額に応じた最低弁済額)が適用されます。

  • 借金総額が100万円未満:全額
  • 借金総額が100万円以上500万円未満:100万円
  • 借金総額が500万円以上1500万円未満:5分の1の金額
  • 借金総額が1500万円以上3000万円未満:300万円
  • 借金総額が3000万円以上5000万円未満:10分の1の金額

今回の例では、借金総額が約800万円であったため、5分の1の基準が適用され、最低弁済額は160万円となります。小規模個人再生の認可を得ることができれば、給与所得者再生で試算された300万円ではなく、160万円の総返済額で3年間の分割払いが認められることになります。

個人再生手続きにおける注意点と専門的判断

このように、手続きの選択一つで返済総額が大きく変わるのが個人再生の複雑なところです。どちらの手続きを選択するかは、単に希望だけで決められるものではありません。

  • 収入の安定性の証明:給与所得者であっても、小規模個人再生の要件を満たせばそちらを選択できるケースが多いですが、収入の波が激しすぎる場合は「将来において継続的かつ反復して収入を得る見込みがある」という要件の証明が厳しく審査されます。
  • 清算価値の確認:現金、預貯金、保険の解約返戻金、自動車、不動産などの保有資産の価値(清算価値)の合計が、最低弁済額(160万円)を上回っている場合は、その資産価値以上の金額を返済に充てる必要がある点にも注意が必要です。

借金問題の解決に向けて個人再生を検討する際は、自身の収入状況や資産状況だけでなく、各債権者の性質まで踏まえた総合的な戦略が求められます。法的な要件を正しく満たし、最も経済的メリットが大きい選択肢を見極めることが、生活再建への確実な第一歩となります。

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