借金時に「偽の年収・勤務先を申告した(詐術)」場合の免責不許可リスク

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、利息制限法、破産法、民事再生法、および多数の債務整理(任意整理・過払い金回収・個人再生・自己破産)の実務実績に基づきわかりやすく解説しています。

Q カードローンの審査に通るため、実際の年収や勤務先を偽って借入れをしてしまいました。自己破産の申し立てにおいて免責不許可になってしまいますか?
A 【免責不許可事由への該当性と裁量免責の可能性】借入れの際に年収や勤務先を偽る行為は、破産法上の免責不許可事由である「詐術(破産法252条1項8号)」に該当します。そのため原則として借金は免責されませんが、隠蔽せず当初から正直に申告し、真摯な反省と生活状況の改善を示すことで、裁判所の裁量による免責(裁量免責)が認められる可能性が十分にあります。
【弁護士の早期介入による対策と生活再建のメリット】破産管財人による徹底的な調査が行われるため、嘘を突き通そうとすると悪質性が高いと判断され免責が遠のきます。弁護士に依頼して速やかに事実を自認し、反省文の提出や家計管理の改善といった適切な対応をとることで、最悪の事態を回避して早期の生活再建を目指すことができます。

自己破産を検討する際、過去の借入れにおける自身の信用状態に不安を覚える人は少なくありません。中でも、審査を通過するために実際の年収を多めに偽ったり、勤務先を架空の会社にしたりして申し込んだ経験がある場合、法的なリスクが生じます。

このような行為は、破産手続きにおいてどのような評価を受け、免責許可にどう影響するのでしょうか。法律上の規定や実務での対応について解説します。

詐術(さじゅつ)とは何か:破産法上の定義

破産法では、借金を帳消しにする(免責を得る)ためのハードルとして、いくつかの免責不許可事由を定めています。その一つが、破産法252条1項8号に規定されている「詐術」です。

具体的には、「信用を欺いて(だまして)財産を得る行為」を指します。具体例としては以下のようなものが挙げられます。

  • カードローンやキャッシングの審査に通るため、実際の年収を大幅に上回る額で申し込んだ
  • 無職であるにもかかわらず、架空の勤務先や過去に勤めていた会社名を記載して借入審査を受けた
  • 他社からの借入件数や借入残高を実際よりも少なく偽って申し込んだ(虚偽の属性情報による借入れ)

これらの行為は、金融機関が「本来であれば融資しないような相手」に対して誤認させ、金を貸し付けさせたものと評価されます。そのため、悪質な詐術とみなされると、原則として借金の免責が許可されなくなります。

管財人による徹底的な調査

自己破産の申し立てを行うと、裁判所によって破産管財人が選任されるケースが多くなります。管財人は、債務者の財産を調査するだけでなく、借入れの経緯(申込み時の状況)に不正がなかったかも厳しくチェックします。

管財人は主に以下の資料や方法を用いて、虚偽申告の有無を暴きます。

  • 過去の給与明細、源泉徴収票、課税証明書と、借入申込時の申告データの突合
  • 金融機関から提出される「極度額契約申込書」や「会員情報」の履歴開示
  • 直近の預金口座の入出金履歴に見合わない入金がないかの確認

もし、申込時の年収と実際の所得に乖離があることが発覚した場合、なぜそのような嘘をついたのか、その動機や経緯について詳細な事情聴取が行われます。

虚偽申告があった場合の「裁量免責」の可能性

破産法上の免責不許可事由に該当する行為があったとしても、直ちに破産者が救済されないわけではありません。日本の破産実務では、裁判所の裁量によって免責を許可する「裁量免責(破産法252条2項)」という制度が広く運用されています。

詐術を行った場合であっても、一発で免責が絶対に認められないというわけではありません。しかし、裁量免責を引き出すためには、以下のような条件やプロセスが不可欠となります。

1. 最初の段階での正直な申告と隠蔽工作の不在

最も重要なのは、申立代理人(弁護士など)に対して、最初から偽りの申告をした過去を隠さず全て打ち明けることです。後になって管財人の調査で発覚した場合、「反省の色が見られない」「悪質な隠蔽工作である」とみなされ、裁量免責の可能性が著しく低下します。

2. 詐術に至った経緯の酌量すべき事情

なぜ年収や勤務先を偽らなければならなかったのか、その背景も考慮されます。例えば、極度の生活困窮から切羽詰まって行ってしまった場合と、最初から踏み倒す目的で計画的に繰り返していた場合では、悪質性が大きく異なります。

3. 真摯な反省と生活再建への取り組み

管財人との面談や審尋において、自身の不誠実な行為を深く反省し、二度と同じ過ちを犯さない旨を誓約することが求められます。また、家計の収支を厳格に管理し、これ以上借入に頼らない生活体制を築いていることを書面や日々の家計簿(家計状況報告書)で示すことが不可欠です。

まとめ

借入れの際に年収や勤務先を偽る行為は、破産手続きにおいて厳しく審査される「詐術」に該当します。この問題がある場合、手続きの負担や管財人による調査はより厳格なものとなります。

しかし、過去の過ちを隠すことなく正直に申し出た上で、誠実に反省と生活再建の姿勢を示すことにより、裁判所の裁量によって免責が認められる道は残されています。不安な点がある場合は、一人で抱え込まずに専門家である弁護士へ正確な事実を伝え、適切な助言とサポートを受けながら手続きを進めることが重要です。

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