受付の「事務員」や「アルバイト」が電話口で言った「はい、お願いします」の法的リスク
「無料だと聞いて話を聞いていただけなのに、いつの間にか高額な求人広告の契約を結ばされた」「受付のアルバイトが電話口で『はい、お願いします』と言ったから契約は成立していると言われた」
悪質な無料求人商法や求人広告詐欺の業者からは、このような理不尽な主張がなされることが少なくありません。現場の従業員が発した軽い返事を根拠に、強引に支払いを迫られたご担当者様や経営者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、会社を代表する権限のない従業員が電話口で言った「はい、お願いします」という返事だけでは、原則として有効な契約は成立しません。本記事では、その法的根拠と、悪質業者からの電話督促に対する具体的な対処法を解説します。
電話口での「承諾」が契約として無効になりやすい理由
契約は、当事者間の法的な意思表示が合致することによって成立します。しかし、会社の窓口となった従業員の発言が、そのまま会社全体の意思決定として認められるわけではありません。
1. 代理権や代表権のない者の発言は無効
株式会社や一般法人において、会社を代表して契約を締結する権限(代表権)を持つのは、原則として代表取締役などの一部の役員に限られます。
窓口業務を担当している一般の事務員やアルバイトには、高額な広告契約を会社の名において締結する代理権は与えられていません。権限のない者が行った意思表示は法律上「無権代理」と呼ばれ、会社が追認しない限り、会社に対してその効力を生じさせないのが原則です。
2. 「承諾」の認識が欠如していた場合
電話勧誘の現場では、業者が早口で専門用語を並べ立てたり、「無料枠の確認です」「アンケートにお答えください」などと巧みに油断させたりして、都合のよい部分だけを録音しようとします。
このような状況で、受付の従業員が文脈を正確に理解しないまま「はい」「お願いします」と返答したとしても、それは法的拘束力のある契約締結の意思表示とは認められません。真意に裏付けられていない曖昧な返答は、法律上の「承諾」にあたらないのです。
「録音データがある」と言われたときの正しい対処法
悪質な求人広告事業者の多くは、電話口での「はい」という音声を切り取って「録音データがあるから裁判でも勝てる」「詐欺だと言うなら訴える」などと脅し文句に使います。しかし、これらは心理的なプレッシャーをかけて支払わせるための常套手段にすぎません。
事業者間トラブルにおいて、業者の主張に屈しないためのポイントは以下の通りです。
- 個人での口頭回答をきっぱりと否定する 「電話に出たのは権限のない事務員(アルバイト)であり、契約締結の権限も意思も一切なかった」と毅然と伝えます。
- 録音の開示と書面による契約内容の確認を求める 業者から「録音がある」と言われた場合は、「どのような説明を受けて、誰がどのような権限で合意したのか、客観的な通話全記録を書面で開示してください」と要求します。都合の悪い部分を隠している悪質業者は、これだけでトーンダウンすることが少なくありません。
- 安易な支払いや「一部示談」に応じない 「半額にするから今回はこれで手打ちにしよう」と言われても、支払いに応じてしまうと「契約の存在を認めた(追認した)」とみなされ、後から返金を求めることが極めて困難になります。
事業者間トラブルは専門家である弁護士へご相談を
無料求人商法や悪質な求人広告のトラブルは、「事業者間取引だからクーリングオフが使えない」と思い込まされ、泣き寝入りしてしまうケースが後を絶ちません。しかし、不実告知や威迫・困惑といった消費者契約法に準ずる違法な勧誘手法が用いられている場合、契約の取消しや無効を主張できる余地は十分にあります。
権限のない従業員の言葉を盾にした不当な請求や、連日のしつこい電話督促にお悩みの場合は、個人で対応し続けず、事業者間トラブルに精通した弁護士へ早めにご相談ください。代理人として業者の窓口に立つことで、悪質な取り立てを即座にストップさせ、法的根拠に基づいた適切な解決へと導きます。