東京地裁令和元年9月9日判決(公序良俗違反・請求棄却)の要点
【実務上の対抗・解決手順】申込書に署名・押印し、解約期限を過ぎてから請求書が届いた事案でも、本判決の法理により契約無効を主張することが有力な法的対抗手段となります。弁護士から受任通知を送付して窓口を一本化し、支払拒絶を通知することで不当請求の排除を目指すことが可能です。
判例の基本情報
| 項目 | 詳細データ |
|---|---|
| 裁判所・担当部 | 東京地方裁判所 民事第34部(田中邦治裁判官) |
| 判決年月日 | 令和元年(2019年)9月9日判決 |
| 事件番号 | 平成31年(ワ)第4528号 |
| 事件名 | 求人情報サービス利用代金請求事件 |
| 判決主文 | 原告の請求を棄却する(訴訟費用は原告の負担とする) |
| 主な争点・適用法条 | 民法第90条(公序良俗違反による無効) |
| 文献番号・出典 | Westlaw Japan『2019WLJPCA09098005』 |
1. 事案の概要(認定事実)
- 当事者および勧誘の経緯: 水産物全般・乾物の加工および販売等を営む株式会社(被告)に対し、平成30年11月26日、求人情報サービスを提供する広告代理業者(原告)から電話勧誘があり、被告は同日、利用の申込みを行いました。
- 利用規約の定め: 規約には「申込日の翌日から3週間無料で求人広告を掲載する」「3週間の無料掲載期間中に解約申入れのFAXが原告に到達しない限り、自動的に12か月間の有料掲載期間に移行し、請求書到達日の翌日から8日以内に広告料42万円(税別・税込45万3,600円)を支払う」「中途解約しても返金しない」旨が記載されていました。
- 無料期間最終日午後の「挨拶状」と直後の請求: 業者は、無料掲載期間の最終日である平成30年12月17日の午後12時19分に被告へ到達した郵便物(「ご挨拶」と題する書面)で無料期間が終了間近である旨を通知し、その翌日である12月18日にすぐさま45万3,600円の請求書を発送しました。被告が抗議したものの、業者は「マニュアル及び規約に基づいている」として解約に応じず、平成31年2月22日に東京地方裁判所へ提訴した事案です。
2. 裁判所の判断(判旨のポイント)
東京地方裁判所は、以下の4つの観点から取引の実態を厳しく審理し、本件契約は公序良俗に反し無効(民法第90条)であると結論づけて業者の請求を全面的に棄却しました。
- 電話勧誘時の有料移行説明の否定: 業者は「電話で規約内容を説明した」と主張して交渉記録を提出しましたが、裁判所は「交渉記録には規約の内容が不動文字で印刷されているにすぎず、担当者が電話で説明した事実を認定することはできない」として、3週間以内に解約しなければ1年分の高額料金が発生することの説明はなかったと認定しました。
- 最終日午後に届く「挨拶状」は体裁作りに過ぎない: 3週間の無料期間を1日でも過ぎれば直ちに1年分の広告料が発生する仕組みであるにもかかわらず、事前に有料移行の意思確認を行う仕組みがありませんでした。業者が注意喚起と主張する「挨拶状」についても、被告に到達したのが無料掲載期間最終日の午後(12時19分)であったことから、裁判所は「真に注意喚起の趣旨で挨拶状を送付しているとは認められず、単に注意喚起をした体裁を整えようとしているにすぎない」と断じました。
- 裁判所の求釈明に対する「求人実績の不立証」と実体欠如: 業者が東京地方裁判所に同様の代金請求訴訟を多数提起していることは裁判所に顕著な事実であり、裁判所は業者に対し、繰り返し「業務内容や本件サービスによる求人の実績」について明らかにするよう求釈明を行いました。しかし業者は何ら主張・立証を行わなかったため、裁判所は「本件サービスには求人広告としての実体はないものと評価せざるを得ない」と認定しました。
- 結論(解約漏れ顧客からの料金徴収のみを目的とする公序良俗違反): 以上を総合し、業者は「専ら無料掲載期間内に解約しなかった顧客(解約手続を失念した者や、規約を読んでおらず解約手続が必要と認識していなかった者を含む)に、1年分の広告料を支払わせることのみを目的として本件契約を締結している」と認定し、公序良俗に反し無効であると判示しました。
3. 実務への示唆と対抗策
- 「規約を読んでサインしたか」「解約を忘れたか」を問わず契約無効: 本判決の極めて重要な点は、判旨の中で「規約を読んで解約手続が必要と認識していたが手続を失念した顧客」であっても、このような課金目的のスキーム自体が公序良俗に反し無効であると明言している点です。
- 「不動文字の交渉記録」や「終了間際の通知郵便」は業者の武器にならない: 業者が「説明チェックリストがある」「挨拶状を送った」と主張しても、裁判所は実質的な説明や意思確認があったかを厳格に判断します。
- 弁護士による受任通知と窓口一本化: 業者から強硬な督促を受けている場合でも、弁護士が代理人として受任通知を送付し、相手方に到着次第、窓口を弁護士へ一本化することで、直接連絡の停止を求めるとともに本判決の法理に基づく支払拒絶を行うことが可能です。

