「アルバイトの従業員が電話を受け、勝手に『はい』と返事をしてしまった。これだけで高額な求人広告の契約が成立してしまうのだろうか……」と、不安を抱えていらっしゃる経営者や採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
悪質な無料求人商法や求人広告詐欺の手口では、電話口のやり取りを言葉巧みに誘導し、後から「契約が成立した」と主張して高額な請求書を送りつけてくるケースが後を絶ちません。しかし、法的観点から見れば、このような無権代理による口頭の承諾には十分に対抗する手段があります。
アルバイトの返事だけで契約は成立するのか
結論から申し上げますと、アルバイトや一般の従業員が電話口で勝手に「はい」と答えただけでは、会社を拘束する正式な契約は成立しません。民法上の代理権や代表権がない従業員の承諾は、原則として無効であるためです。
代理権のない従業員の承諾が無効な理由
民法上、契約を有効に成立させるためには、会社を代表する権限(代表権)またはその正当な代理人としての授権を受けた者による意思表示が必要となります。
アルバイトやパート、あるいは一般的な平社員には、会社の資産や資金を費やすような高額な広告契約を締結する代理権は与えられていません。
そのため、業者の巧妙な誘導尋問によって電話口で「はい」や「分かりました」と答えてしまったとしても、それは会社としての正式な意思表示(承諾)とは認められないのです。
業者側が主張する「表見代理」の罠
悪質な業者は、「従業員が電話に出たのだから、会社として承諾したとみなされる(表見代理だ)」と主張してくることがあります。しかし、これにも法的根拠はありません。
- 表見代理が成立するには、会社側がその従業員に対して「代理権を与えた」と誤認させるような状況を意図的につくり出していた場合に限られます。
- 単に電話に出たアルバイトが勝手に返答したという事実だけでは、会社側に責任は一切生じません。
このように、業者側の「契約が成立している」という主張は法的に成り立たないケースがほとんどです。
契約不成立を主張するための具体的な対応策
もし、従業員の軽率な返事を理由に高額な請求を受けてしまった場合は、慌てて支払いに応じるのではなく、正しい手順で契約の不成立を主張することが重要です。
録音データの開示を求める
悪質な業者は「電話で本人が承諾した」という音声の切り取りを証拠として突きつけてくることがあります。
- 業者に対して、電話の全容がわかる通話録音データの開示を要求してください。
- 業者が開示を拒む場合や、誘導尋問によって無理やり「はい」と言わせた事実が確認できる場合は、契約の無効を裏付ける強力な証拠となります。
書面やメールで「合意なし」を通知する
電話口でのやり取りだけで書面による契約書を交わしていない場合、あるいは不当な勧誘によるものであれば、書面や記録に残るメールを用いて「契約の合意は一切存在しない」旨を明確に通知します。
この際、相手のペースに乗って安易に「解除」という言葉を使うと「契約の存在を認めた」と曲解される恐れがあるため、あくまで「契約自体が成立していない(無効である)」というスタンスを貫くことが肝心です。
トラブルが解決しない場合の専門家への相談
悪質な求人広告業者や無料求人商法の事業者は、法的根拠のない督促を執拗に繰り返してくる傾向があります。自社だけで対応していると、担当者が精神的に追い詰められてしまう危険性もあります。
- 電話督促が鳴り止まない場合や、内容証明郵便などが届いた場合は、放置せずに弁護士などの法律の専門家に相談することをおすすめします。
- 弁護士名義で受任通知や抗議文を送付することで、悪質業者はそれ以上の請求を諦めるケースが非常に多いです。
「従業員が勝手に返事をしてしまったから支払うしかない」と諦める必要は一切ありません。不当な請求に対しては毅然とした態度で臨み、会社の利益を守りましょう。