「経年劣化」と「通常損耗」とは?
家賃に含まれる損耗と借主負担の違い

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」、民法(通常損耗・経年劣化の減価償却ルール)、および多数の退去費用減額・敷金返還交渉の裁判実務に基づきわかりやすく解説しています。

賃貸物件を退去する際、不動産会社から高額な原状回復費用を請求され、驚いた経験はないでしょうか。その請求書には、実は貸主が負担すべき費用が誤って含まれているケースが少なくありません。

トラブルを防ぎ、適正な金額で退去するためには、経年劣化通常損耗についての正しい知識を持つことが不可欠です。本記事では、家賃に含まれる損耗の範囲と、借主が負担しなくてよい法的根拠について詳しく解説します。

「経年劣化」「通常損耗」とは?基本の定義と具体例

Q 賃貸の退去時に不動産会社からクロスや床の張替費用を請求されましたが、経年劣化や通常損耗分まで支払う必要がありますか?
A 【結論】経年劣化や通常損耗の費用を借主が支払う必要は一切ありません。これらは家賃に含まれており、国交省のガイドラインや民法上、貸主の負担と定められています。
【対処法】もし高額な請求を受けた場合は、耐用年数(壁紙は6年で残存価値が1円になる等)を主張して減額交渉を行いましょう。納得できない請求には安易にサインせず、法的根拠を示して毅然と拒絶することが重要です。

賃貸借契約における原状回復義務において、言葉の意味を正確に理解しておくことは非常に重要です。それぞれの違いと具体例を確認しておきましょう。

経年劣化とは

経年劣化とは、居住の有無に関わらず、時間の経過や日光の照射などによって建物や設備が自然に古びていく現象を指します。

  • 日当たりの良い部屋の壁紙が黄色く変色した
  • 外壁のコーティングが剥がれてきた
  • 自然に給湯器の寿命が来て動かなくなった

これらの変化は、住んでいる人の使い方が悪かったわけではないため、借主が責任を負うものではありません。

通常損耗とは

通常損耗とは、借主が通常の生活を送る中で発生する、避けられない損耗のことを指します。

  • 家具(テレビや冷蔵庫など)の設置による床やクロスの凹み
  • ポスターやカレンダーを貼るための画鋲の穴(下地ボードの交換が必要ない程度)
  • カーテンの吊るしによるレールのスレや日焼け

これらも経年劣化と同様に、貸主が次の入居者を迎えるために行う修繕の範囲(通常のリフォーム)に含まれます。

国交省ガイドラインが示す「家賃に含まれる」という考え方

国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、借主が退去時に負担すべき費用について明確な基準を示しています。

賃貸借契約において、毎月支払う「家賃」には、部屋の貸し出しだけでなく、通常の使用によって発生する損耗の補修費用もあらかじめ含まれている(これを「除斥の法理」や「賃料包含説」と呼びます)と解釈されています。

そのため、通常損耗や経年劣化に対して、退去時に別途リフォーム費用や修繕費を請求することは、二重取りにあたる可能性があるため不当とされています。

借主が負担しなければならない「故意・過失による損耗(善管注意義務違反)」とは

では、どのような場合に借主が費用を負担しなければならないのでしょうか。それは、民法上の「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」に違反した場合です。

借主は、契約期間中、自分の所有物のように雑に扱うのではなく、注意を払って部屋を使用する義務があります。この義務に反して生じさせた傷や汚れは「借主負担(特別損耗)」となります。

  • 室内でペットを飼育したことによる柱の深い傷や匂い(特約がない場合や著しい汚損)
  • うっかり窓を開けっぱなしにして雨を吹き込ませ、フローリングを腐食させた
  • 引っ越しの際に家具をぶつけて壁のボードを大きく破損させた
  • 掃除を怠ったことによる水回りのカビやひどい油汚れ

このように、「わざと、あるいは不注意によって価値を下げた」ケースについては、原状回復費用を請求されてもやむを得ません。

高額請求を拒絶するための法的論理と交渉のポイント

退去時に「クロスが汚れたから全面張替費用を払ってください」「畳が日焼けしているから全額負担です」と言われた場合、安易に承諾してはいけません。以下の論理で反論・交渉することが有効です。

  • 通常損耗・経年劣化の原則を主張する 「このクロスの黄ばみ(日焼け)や凹みは、通常の生活や経年劣化によるものです。ガイドラインに基づき家賃に含まれているはずです」と伝えましょう。
  • 耐用年数を考慮してもらう 設備や内装には「耐用年数」があります。たとえばクロスであれば耐用年数は6年とされており、6年以上住んでいれば価値は残存価値1円となります。仮に借主負担の汚れがあったとしても、経過年数を考慮した金額(減価償却後の金額)しか支払う義務はありません。
  • 見積書の内容を細かくチェックする 「全体ハウスクリーニング一式」「一律のクロス全面張替」など、一括表記されている場合は要注意です。局所的な修繕で済むものや、他人の居住による損耗が含まれていないかを確認しましょう。

不当な請求に対して毅然と対応するためにも、日頃から入居時の状態を写真に残しておくことや、ガイドラインの知識武装が最大の防御となります。もし相手が強硬な態度に出る場合は、弁護士などの専門家に相談することも検討してください。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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