2020年民法改正で明文化された「原状回復義務・敷金返還」の法的改正ポイント

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」、民法(通常損耗・経年劣化の減価償却ルール)、および多数の退去費用減額・敷金返還交渉の裁判実務に基づきわかりやすく解説しています。

賃貸物件を退去する際、誰もが直面するのが「原状回復」と「敷金の返還」をめぐるトラブルです。これまで不動産業界の慣習や判例に委ねられていたルールが、2020年4月の民法改正によって初めて条文化され、法律上の明確な基準が示されました。

この法改正により、入居者の義務の範囲がはっきりと整理され、賃借人(借主)の権利保護がより一層強化されています。本記事では、改正されたポイントを分かりやすく解説し、退去時のトラブルを防ぐための知識をお伝えします。

Q 2020年の民法改正で原状回復義務と敷金の扱いはどう変わりましたか?高額請求を防ぐポイントは何ですか?
A 【民法改正による法的ルールの明確化】2020年4月の民法改正により、民法621条で「通常損耗や経年変化は借主の負担対象外であること」が明文化され、民法622条の2で「敷金は退去時に原則全額返還されるもの」と法的性質が定義されました。これにより、壁紙の日焼けやクロスの自然損耗、設備の経年劣化に対する借主の修繕義務は発生しないことが法律上の基準となっています。
【不当請求への対処と減額交渉のポイント】クロスや設備の価値は時間経過とともに減少するため、減価償却(耐用年数)を考慮して計算する必要があります(例:6年で残存価値1円)。貸主から高額な原状回復費用を請求された場合は、国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や民法621条を根拠に不当な全額張替などの支払いを拒否し、冷静に減額交渉を行いましょう。

2020年民法改正の背景と、借主を取り巻く現状

賃貸借契約における「原状回復」や「敷金」は、昔から貸主(オーナー)と借主の間で最もトラブルになりやすい分野でした。「壁紙を全部張り替えられた」「敷金がほとんど戻ってこなかった」という不満を聞いたことがある方も多いでしょう。

従来、これらに関する明確な法律の条文がなく、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や過去の裁判例(判例)をベースに判断されていました。しかし、法的な裏付けが弱かったため、悪質な請求が横行する温床となっていました。

そこで、2020年4月1日施行の改正民法により、これまでの実務上のルールが法律の条文として正式に明文化され、国民に分かりやすい形でルールが統一されることになったのです。

民法621条で明文化された「原状回復義務」の範囲

改正民法で最も重要な変更の一つが、新設された民法621条です。ここでは、借主が負う原状回復義務の範囲について、明確な線引きがなされました。

1. 原状回復義務の対象になるもの(借主負担)

借主の故意や過失、あるいは通常の使用方法を超えた使い方によって生じた損傷(これを「故意・過失等による破損・汚損」と呼びます)は、借主が修復する義務を負います。

  • うっかり飲み物をこぼして放置し、床を腐らせてしまった
  • 家具の搬入時に壁を大きく傷つけてしまった
  • ペットの放し飼いによる柱やクロスのひどい傷・匂い

2. 原状回復義務の対象にならないもの(貸主負担)

一方で、法律上、以下の損耗については借主が修復する義務を負わないことが明確に規定されました。

  • 経年変化:時間が経つことによって自然に劣化するもの(日光による日焼けなど)
  • 通常消耗:普通に生活している中で自然についてしまう汚れや摩耗(家具の設置による床のへこみ、ポスターを貼った画鋲の穴など)

つまり、「借りた状態のまま完璧に戻す」必要はなく、「通常の使用による損耗を除いた状態で返す」というのが法律上の正式なルールとなりました。

民法622条の2で明確化された「敷金の定義と返還義務」

もう一つの大きな改正ポイントが、民法622条の2による「敷金」の法律上の定義の明文化です。これまで曖昧だった敷金の法的性格や返還ルールがハッキリと定められました。

1. 敷金とは何か?(法律上の定義)

改正民法において、敷金とは「いかなる名目であれ、賃料の不払いなどの債務を担保する目的で、借主が貸主に交付する金銭」と定義されました。これにより、敷金が「預かり金」であることが法律上も確定しました。

2. 退去時の「敷金返還義務」のルール

契約が終了して物件を明け渡したとき、貸主は借主に対して、受け取っていた敷金から未払いの賃料などを差し引いた残額を、速やかに返還しなければならないと規定されました。

「退去費用として全額相殺した」と理由も告げずに敷金を返さない行為は、明確な法律違反となります。貸主側には、修繕費用の内訳を説明し、適正な金額を除いた残りを返還する義務があります。

改正民法を踏まえたトラブル防止と、納得いかない請求への対処法

2020年の民法改正により、私たち借主の権利は法律によって強く守られるようになりました。しかし、現実の退去時には、相変わらず「クロス全張替」などの不当な見積もりを提示してくる業者や貸主も存在します。

もし高額な退去費用を請求されたり、敷金が戻ってこなかったりした場合は、以下のステップで対応しましょう。

  • 請求された見積書の各項目を細かくチェックし、ガイドラインや民法621条に反していないか確認する
  • 「経年変化や通常損耗分が含まれているのではないか」と貸主や管理会社に直接指摘する
  • 話し合いで解決しない場合は、一人で抱え込まずに専門機関や弁護士に相談する

法律の知識を正しく持ち、毅然とした態度で臨むことで、不当な支払いを回避し、適正な金額で退去を完了させることが可能です。

原状回復・退去費用の高額請求でお悩みの方へ

国交省ガイドラインに基づき、弁護士が適正金額への減額交渉・返還請求をサポートします。諦めて支払う前に、まずはお気軽にご相談ください。

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弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

相続や遺産分割、借金問題、既婚者との男女トラブルなど、日常の不測の事態に直面した皆様の心理的なご負担を少しでも和らげ、円満な解決を導くためのサポートを徹底して行っています。どんな小さなお悩みでも、まずは当事務所の事務スタッフがLINEのチャットにて丁寧にお話をお伺いいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

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