借主の連帯保証人に対し原状回復費用・残置物処分代を請求する法的手順

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」、民法(通常損耗・経年劣化の減価償却ルール)、および多数の退去費用減額・敷金返還交渉の裁判実務に基づきわかりやすく解説しています。

賃貸借契約において、借主が退去時の原状回復費用や残置物処分代を支払わずに連絡が取れなくなるトラブルは少なくありません。このような場合、契約上の責任を負うのが連帯保証人です。

本記事では、借主の連帯保証人に対し、原状回復費用や残置物処分代を請求するための法的な手順と注意点について、弁護士が詳しく解説します。

Q 借主が夜逃げして退去費用を払わない場合、連帯保証人に全額請求できますか?
A 【結論】民法改正後の契約であれば「極度額」の範囲内で、原状回復費用や残置物処分代の全額請求が可能です。連帯保証人には「まずは借主に請求してほしい(催告の抗弁)」という権利がないため、借主を飛ばして直接請求できます。
【注意点】2020年4月以降の個人根保証契約では、極度額の記載がないと保証契約自体が無効となります。請求前には必ず契約書を確認し、内容証明郵便などの適切な法的書面で通知を行いましょう。

連帯保証人と保証人の違いと法的責任

賃貸借契約における「連帯保証人」は、通常の「保証人」とは異なり、非常に重い責任を負います。

通常の保証人には「まずは借主に請求してほしい(催告の抗弁)」や「借主に資産があるのだからそちらから執行してほしい(検索の抗弁)」という権利が認められています。しかし、連帯保証人にはこれらの権利が一切ありません。

そのため、貸主(賃貸人)は、借主本人に対して未払いの原状回復費用や残置物処分代の請求を行わずに、いきなり連帯保証人に対して全額の支払いを請求することが可能です。

民法改正後の「極度額(限度額)」に注意

連帯保証人への請求において、もっとも注意しなければならないのが極度額(きょくどがく)の定めです。

2020年4月1日に施行された改正民法により、個人が保証人になる賃貸借契約では、極度額を契約書に記載(または電磁的記録で提供)することが義務付けられました。この極度額が設定されていない場合、保証契約自体が無効になってしまいます。

そのため、請求を行う前に賃貸借契約書を必ず確認し、以下の点チェックしましょう。

  • 個人根保証契約として極度額の金額が明記されているか
  • 請求する原状回復費用や残置物処分代の合計額が、その極度額の範囲内に収まっているか

連帯保証人へ原状回復費用等を請求するステップ

連帯保証人に未払い費用を請求する際は、感情的に連絡するのではなく、法的な根拠に基づいたステップを踏むことが重要です。

1. 内容証明郵便による催告・請求

電話やメールでの督促に応じない場合や、正式な記録を残したい場合は、内容証明郵便を使用します。

内容証明郵便を送ることで、「いつ、どのような理由で、いくらの請求をしたか」を法的な証拠として残すことができます。また、連帯保証人に心理的なプレッシャーを与え、支払いや話合いに応じるよう促す効果も期待できます。

2. 話合い(示談・分割協議)の実施

内容証明郵便の送付後、連帯保証人から連絡があった場合は、金額の妥当性や支払い方法について協議します。

原状回復費用については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいた適正な金額になっているかが争点になることがあります。法的に正当な根拠を持って算出された金額であることを説明し、一括払いが難しい場合は、現実的な分割払いの合意書(公正証書など)を締結することも選択肢の一つです。

3. 法的手続(支払督促・少額訴訟・通常訴訟)の検討

協議が決裂した場合や、連絡が無視される場合は、法的な手段に移行します。

  • 支払督促:簡易裁判所を通じて相手に支払いを命じる手続です。相手から異議申し立てがなければ、強制執行の申立てが可能になります。
  • 少額訴訟:60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる、原則1回の期日で審理が終わるスピーディーな裁判手続です。
  • 通常訴訟:請求額が高額である場合や、事実関係に争いがある場合に通常の裁判を起こします。

判決や和解調書などの債務名義を取得すれば、連帯保証人の預貯金や給与などの財産を差し押さえる強制執行(差し押さえ)が可能になります。

残置物処分代の請求における注意点

借主が室内に私物を残したまま退去した場合、貸主が勝手に処分することは法律上トラブルの原因になります。

残置物の処分に関する費用を連帯保証人に請求するためには、あらかじめ賃貸借契約書に「借主が退去時に残置物を放置した場合、貸主が処分し、その費用は借主(および連帯保証人)が負担する」という旨の条項(残置物所有権放棄条項など)が盛り込まれていることが前提となります。

契約書に明記されていない段階で勝手に処分すると、借主や連帯保証人から損害賠償を請求されるリスクがあるため注意が必要です。

まとめ

借主が音信不通になり、連帯保証人へ原状回復費用や残置物処分代を請求する場合、法的なルールを正しく理解して進める必要があります。特に民法改正後の極度額のルールや、請求の根拠となる費用の妥当性を欠いていると、かえってトラブルが長引きかねません。

泣き寝入りしてしまう前に、適正な法的手続きを進めるためにも、まずは賃貸借トラブルに強い弁護士へご相談ください。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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