不動産オーナー側が残置物・家賃滞納借主を適法に強制退去させる一般実務

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」、民法(通常損耗・経年劣化の減価償却ルール)、および多数の退去費用減額・敷金返還交渉の裁判実務に基づきわかりやすく解説しています。

賃貸経営を行う上で、家賃滞納や部屋のゴミ放置といったトラブルは、オーナー様にとって非常に頭の痛い問題です。「一刻も早く部屋を明け渡してほしい」と思うのは当然ですが、どんなに悪質な借主であっても、勝手に鍵を交換したり、私物を処分したりする「自力救済」は法律で禁止されています

本記事では、不動産オーナー様がトラブルを抱えた借主を適法に強制退去させるための、一般的な実務の流れについて弁護士が詳しく解説します。

Q 家賃滞納やゴミ放置をする借主をオーナーが勝手に追い出すことはできますか?
A 【自力救済の禁止と適法な法的手続き】
どんなに悪質な滞納者やゴミ屋敷化させた借主であっても、オーナーが勝手に鍵を交換したり、室内の荷物を処分したりする行為(自力救済)は法律で固く禁止されています。実行すると逆に借主から訴えられ、損害賠償金の支払いを命じられるリスクがあります。
【適法に退去させるための4つのステップ】
借主を適法に退去させるためには、まず内容証明郵便等による催告と契約解除を行った上で、裁判所に「明渡訴訟」を提起し、勝訴判決を得る必要があります。最終的に執行官による「強制執行(動産執行・引渡執行)」の正規の手続きを経ることで、初めて合法的な部屋の明渡しが実現します。

家賃滞納・残置物トラブルにおける「自力救済」のリスク

借主が何ヶ月も家賃を滞納し、連絡がつかない場合や、室内に大量のゴミを残したまま行方不明になった場合、オーナー様としてはすぐにでも部屋を片付けて次の入居者を募集したいと考えがちです。

しかし、以下のような行為はすべて違法な「自力救済」とみなされます。

  • 勝手に合鍵を使って室内に立ち入る
  • 玄関の鍵を勝手に交換して借主を締め出す
  • 室内の残置物(家財道具やゴミ)を勝手に外へ運び出す・処分する

これらを実行してしまうと、借主から不法侵入や器物損壊罪で訴えられたり、損害賠償請求訴訟でオーナー側が敗訴して多額の慰謝料の支払いを命じられるケースがあります。感情的になって実力行使に出ることは絶対に避けなければなりません。

適法に退去させるための4つのステップ

借主を適法に退去させるためには、法律に基づいた正しい手順を踏む必要があります。一般的な実務は以下の4つのステップで進行します。

1. 催告と賃貸借契約の解除

まずは、滞納している家賃の支払いを求める「催告」を行います。電話や書面、内容証明郵便などを活用して督促します。 それでも支払いがなく、信頼関係が破壊されたと認められる状況(一般的には3ヶ月以上の滞納が一つの目安となります)になったら、賃貸借契約の解除通知を送付します。

2. 占有移転禁止の仮処分(必要に応じて)

裁判を起こしている最中に、借主が第三者に部屋の占有を移してしまうと、判決が出ても別の人間が住んでいて強制執行ができなくなるという事態が起こります。これを防ぐため、必要に応じて裁判所に「占有移転禁止の仮処分」を申し立てます。

3. 建物明渡請求訴訟の提起

借主が任意に退去しない場合、管轄の裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起します。 裁判では、賃貸借契約が適法に解除された事実や、家賃の滞納事実などを証拠に基づいて主張・立証します。借主が出頭せず争点がない場合は、比較的スムーズに勝訴判決を得ることができます。

4. 強制執行(引渡執行・動産執行)の申し立て

勝訴判決(または和解調書など)を得ても、借主が居座り続ける場合は、裁判所の執行官に対して「強制執行」を申し立てます。 執行官が現地に出向き、定められた期限までに退去するよう催告(断行の予告)を行います。期限までに退去しない場合、執行官の手によって強制的に部屋から追い出され(引渡執行)、室内に残された家財道具やゴミなどの残置物は差し押さえ・売却、または処分(動産執行)されます。

ゴミ放置や残置物への実務上の注意点

家賃滞納や夜逃げを伴うケースでは、室内に大量のゴミや私物が残されていることが少なくありません。

強制執行の「動産執行」のプロセスを経ずにオーナーが勝手に処分すると前述の通り違法となりますが、裁判所の執行官の立ち会いのもとで適法に手続きを進めれば、残置物を一時保管した後に法律の定めに従って処分することが可能です。

また、近年の実務においては、あらかじめ賃貸借契約書の中に「一定期間連絡が取れず、家賃滞納が続いた場合の残置物処分に関する合意条項(公正証書の活用など)」を盛り込んでおく対策も有効です。ただし、これについても法的な有効性や限界があるため、事前の契約書作成段階から専門家のアドバイスを受けておくことが望ましいと言えます。

トラブル長期化を防ぐために弁護士への相談を

家賃滞納やゴミ放置トラブルをオーナー様ご自身だけで解決しようとすると、時間も精神的な負担も膨大なものになります。また、間違った方法をとってしまい、逆に借主から訴えられてしまうという二次被害のリスクもはらんでいます。

裁判手続きや執行手続をスムーズに進め、一日も早く賃貸経営の健全化を図るためには、不動産トラブルに強い弁護士への早期の相談・依頼が最も確実な解決策となります。

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弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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