賃貸物件を退去する際、「敷金から一定額を差し引く(敷金償却・敷引)」という特約によって、「敷金が全額戻ってこないばかりか、さらに追加の実費を請求された」というトラブルが後を絶ちません。
このような請求は本当に法的に有効なのでしょうか。今回は、敷金償却特約の法的効力と、償却された上にさらに実費を請求される「二重取り」を防ぐためのポイントについて解説します。
【不当請求への対処法】貸主側から追加請求された場合は、安易に支払いに応じてはいけません。まずは契約書の特約内容を確認し、「償却費用の範囲内で修繕される合意になっていないか」「経年劣化や耐用年数を無視した不当な請求になっていないか」を書面や証拠をもとに精査し、過剰請求の減額交渉を行いましょう。必要に応じて専門家や弁護士への相談も有効です。
敷金償却(敷引)特約とは何か?その法的有効性
関西圏などの賃貸市場で見られる「敷金償却」や「敷引」とは、退去時に一定の金額(または一定割合)を、実際の損耗の有無にかかわらず無条件で返還しないとする特約のことです。
最高裁判所の判例により、敷金償却特約自体は、以下の条件を満たしていれば原則として有効とされています。
- 契約書に明確に金額や条件が記載されていること
- 賃料の額や物件の性質に照らし、著しく高額で公序良俗に反する(消費者契約法第10条に違反する)と認められないこと
つまり、「敷金から1ヶ月分が差し引かれること」自体は、契約時に合意していれば違法とは言えないケースが多いのです。
償却があるのに実費追加請求される「二重取り」の違法性
問題は、敷金から一定額を「償却(没収)」されたにもかかわらず、貸主側から「クロスの張替費用として別途〇〇万円支払ってください」と実費の追加請求をされるケースです。
これはいわゆる費用の「二重取り」にあたり、法的な観点から大きな問題があります。
敷金償却の性質と実費の範囲
そもそも敷金償却は、通常のハウスクリーニング費用や、将来発生するであろう軽微な原状回復費用の「前払い(あるいは担保)」としての性質を持っています。
そのため、契約書において敷金償却がどのような名目で設定されているかによって、追加請求の可否が変わります。
- 敷金償却によって通常のクリーニング費用や経年劣化の修繕費が含まれている場合、それ以上の実費を請求することは二重取りとなり無効です。
- 特約の文言や趣旨を精査し、どのような費用が償却分に含まれているかを確認する必要があります。
貸主からの追加請求を防ぐ・覆すための防衛策
もし、敷金償却をされた上に高額な追加請求を受けてしまった場合は、以下のポイントを確認して毅然と対応しましょう。
- 契約書の特約条文を隅々まで確認する 「退去時には敷金〇ヶ月分を償却する。なお、これを超える修繕費用は借主の負担とする」といった文言が巧妙に書かれている場合があります。この文言があるからといって直ちに追加請求が有効になるわけではありませんが、まずは正確な記載内容の把握が不可欠です。
- 国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を盾にする ガイドラインでは、経年劣化や通常損耗の修繕費用は貸主(オーナー)の負担とされています。特約がある場合でも、それが借主に一方的に不利で消費者契約法に違反するような過大なものであるときは、その効力は否定されます。
- 納得がいかない場合は安易に支払いに応じない 「敷金が戻らないだけでなく、さらに請求されたから仕方なく払う」と応じてしまうと、後から取り戻すのが難しくなります。請求書の明細を細かくチェックし、不当な上乗せがないか確認しましょう。
敷金償却特約を巡るトラブルは、専門的な法律知識や過去の判例に基づいた判断が求められます。「特約があるから追加請求も払うしかない」と諦めてしまう前に、一度弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
原状回復・退去費用の高額請求でお悩みの方へ
国交省ガイドラインに基づき、弁護士が適正金額への減額交渉・返還請求をサポートします。諦めて支払う前に、まずはお気軽にご相談ください。