賃貸物件の退去時、高額な原状回復費用を巡るトラブルは後を絶ちません。話し合いの末になんとか金額に納得し、支払いや精算を済ませたとしても、後になって貸主から「実は別の場所も修繕が必要だったとして追加の費用を請求された」という相談が寄せられることがあります。
このような後からの追加請求やトラブルの「蒸し返し」を防ぐために絶大な効力を発揮するのが、合意書に盛り込む「清算条項」です。
【注意点・対処法】口頭の約束や領収書だけでは、後から「別のキズが見つかった」と追加請求されるリスクが残ります。原状回復費用を支払う際は、必ず書面または電子契約で清算条項入りの合意書を作成・締結し、自身の身を守りましょう。
清算条項とは何か?原状回復トラブルにおける法的位置づけ
清算条項とは、契約当事者間において、特定の法律関係に関する債権債務関係がすべて消滅したことを確認する条項のことです。原状回復の文脈では、一般的に「本物件の賃貸借契約に関して、本合意書に定めるもののほか、お互いに何らの債権債務が存在しないことを確認する」といった文言で表現されます。
法律的には、民法上の「和解(民法第695条)」に近い効力を持ちます。当事者間で「この金額を支払うことで、この件は完全に解決した(お互いにこれ以上の請求はしない)」と合意することになるため、一度清算条項付きの合意書を交わしてしまうと、原則として後から「やっぱり足りなかった」「別のキズが見つかった」として追加請求することはできなくなります。
借主側にとっては、「追加請求の不安に怯えなくてよくなる」という大きなメリットがあり、貸主側にとっても「いつまでもトラブルを引きずらずに済む」というメリットがあるため、双方にとって重要な条項です。
合意書に清算条項を入れないとどうなる?よくあるリスク
口頭での約束や、単に「領収書」のやり取りだけで済ませてしまうと、後々深刻なトラブルに発展するリスクが高まります。
- 貸主から「あの時は気づかなかったが、別の箇所の修繕費が不足している」と追加請求が来る
- 敷金の精算が終わったはずなのに、数ヶ月後に突然差額の支払いを求められる
- 話し合いで解決したはずの事項について、別の担当者から改めて連絡が来る
このような「蒸し返し」を防ぐ法律的な盾となるのが清算条項です。口頭の約束や「支払いを証明するレシート」だけでは、追加の損害賠償請求権の行使を法的に遮断することが難しいため、必ず書面としての合意書を作成する必要があります。
清算条項の具体的な文例と作成時の注意点
実際に合意書を作成する際、清算条項は以下のような表現で盛り込まれるのが一般的です。
【清算条項の文例】 「賃借人および賃貸人は、本物件の賃貸借契約の終了に伴う原状回復費用および敷金返還に関し、本合意書に定めるもののほか、今後一切、お互いに金銭的請求(損害賠償請求を含む)を行わないことを相互に確認する。」
この文言を記載するにあたっては、以下の点に注意しなければなりません。
1. 曖昧な表現を避ける
「大体これで終わりということで」などと曖昧な表現にすると、清算の範囲が不明確になり、後から「あの請求はこの合意に含まれていない」と主張される余地を与えてしまいます。「一切の金銭的請求を行わない」という明確な表現が不可欠です。
2. 特記事項がある場合は明記する
もし後日精算する予定の費用(例えば未確定の電気・ガス料金など)がある場合は、清算条項の例外としてあらかじめ合意書内に明記しておく必要があります。「〇〇に関する費用を除き、今後一切…」とすることで、後日の認識のズレを防げます。
トラブルを未然に防ぐために専門家への相談も検討を
退去費用の高額請求や、納得がいかないまま支払いを迫られているような場面では、その場しのぎで支払いを済ませるのではなく、清算条項を正しく定めた合意書を締結することが、今後の平穏を守るために極めて有効です。
しかし、貸主側から提示された合意書の内容が自分に不利になっていないか、正当な金額なのかを個人で見極めるのは容易ではありません。「法的に適切な内容の合意書を作成したい」「不当な高額請求を減額した上で、清算条項を盛り込んで解決したい」とお悩みの方は、不動産トラブルに強い弁護士に一度ご相談ください。
原状回復・退去費用の高額請求でお悩みの方へ
国交省ガイドラインに基づき、弁護士が適正金額への減額交渉・返還請求をサポートします。諦めて支払う前に、まずはお気軽にご相談ください。