テナントの退去時や店舗閉鎖の際、次の入居希望者から内装や設備を買い取ってもらう「居抜き譲渡」は、コスト削減や早期売却の観点から非常に有効な手段です。しかし、この際に発生する「造作譲渡代金(居抜き譲渡料)」の受け取りや、大家(賃貸人)を交えた手続きには特有の注意点があります。
適切な手順を踏まないと、後々の金銭トラブルや契約違反を問われるリスクがあるため注意が必要です。今回は、後任テナントからの造作代金着金確認からビル大家との三者合意に至るまで、スムーズな手続きの進め方を解説します。
【トラブル回避と原状回復義務の注意点】代金を受け取っても大家の承諾がなければ引き継ぎは認められず、トラブルに発展した場合は自費での原状回復義務が残るおそれがあります。必ず事前に賃貸借契約書の確認と、大家・仲介業者を交えた書面での合意手続きを徹底しましょう。
造作譲渡代金の仕組みと受け取りまでの基本ステップ
店舗の退去時に、次のテナント(後任テナント)へ内装や厨房設備、什器などを引き継ぐ代わりに金銭を受け取る契約を「造作譲渡契約」と呼びます。この時に支払われるお金が造作譲渡代金(居抜き譲渡料)です。
造作譲渡は、元テナントにとっては原状回復費用の削減や利益回収になり、後任テナントにとっては初期投資を抑えられるメリットがありますが、物件の所有者である「ビル大家」の存在テを忘れてはなりません。造作物は建物の一部であるため、大家の権利や賃貸借契約のルールを無視して勝手に売買することはできないのです。
そのため、代金を受け取るまでのプロセスは、以下の順序で慎重に進める必要があります。
- 後任テナントとの価格交渉・造作譲渡契約の締結
- 造作譲渡代金の着金確認
- ビル大家(賃貸人)を含めた三者間合意の締結
後任テナントからの造作代金着金確認の重要性
造作譲渡代金の授受において最もトラブルになりやすいのが、お金の支払いのタイミングと物件の引き渡し時期のズレです。
原則として、後任テナントから造作譲渡代金が完全に指定口座に着金したこと(入金確認)を、現テナント側で確実に確認してから造作物の引き渡しや鍵の引き渡しを行うべきです。「後日振り込む」という口約束や、分割払いの途中で物件を引き渡してしまうと、そのまま代金が支払われなくなる未払いトラブルに巻き込まれるリスクが高まります。
万が一、着金前の段階で後任テナントとの間でトラブルが生じた場合、弁護士などの専門家に相談して法的な回収手続きを検討しなければならなくなるため、「着金確認の完了」がすべての前提条件であると心得ておきましょう。
ビル大家との「三者合意」が不可欠な理由
造作譲渡代金が着金し、後任テナントとの交渉がまとまったとしても、それだけでは手続きは完了しません。最終的に最も重要なのが、ビル大家、現テナント、後任テナントの三者間による合意です。
多くの商業テナントの賃貸借契約では、借主が勝手に第三者に造作を譲渡することや、賃借権を譲渡・転貸することを禁止または制限しています。もし大家の承諾を得ずに造作譲渡を強行した場合、賃貸借契約違反を理由に契約解除を言い渡されたり、原状回復工事を強制されたりするおそれがあります。
そのため、以下の内容を盛り込んだ「三者間合意書(または覚書)」を締結することが不可欠です。
- 現テナントの賃貸借契約の合意解約日
- 後任テナントとビル大家との間の新規賃貸借契約の締結
- 現テナントから後任テナントへの造作譲渡に対する大家の承諾
- 譲渡される造作物の範囲の明確化(トラブル防止のため)
この三者合意を交わすことで、大家側も「次のテナントへの引き継ぎと造作の所有権移転」を正式に認めたことになり、後々の「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができます。
トラブルを防ぎスムーズに造作譲渡を完了させるために
居抜き譲渡や造作譲渡は、上手くいけば売主・買主・大家の三者全員にメリットがある方法です。しかし、契約書の文言の不備や、大家への事後報告などが原因で、高額な造作代金が回収できなかったり、不毛な法 トラブルに発展したりするケースも少なくありません。
特に、契約書を個人間で作成する場合や、大家側の理解が得られにくい状況では、法的根拠に基づいた適切な書面作成や交渉が求められます。もし造作譲渡を巡って大家と意見が対立してしまった場合や、後任テナントからの入金に不安がある場合は、トラブルが大きくなる前に弁護士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。
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