賃貸マンションやアパートを退去する際、ペットを飼っていたことでフローリングについた「噛み傷」や「ワックスの剥がれ」を巡り、高額な修繕費用を請求されてトラブルになるケースが後を絶ちません。
「床全体を張り替えなければいけないと言われた」「何十万円もの請求書が届いて途方に暮れている」という相談を、当事務所でも数多く受けています。
しかし、ペットによる床の傷であっても、法律やガイドラインに照らし合わせれば、全額を借主が負担しなくてよいケースが多々あります。今回は、ペットによるフローリングの噛み傷の補修費用の考え方や、減価償却の適用について弁護士が詳しく解説します。
フローリングのペットの噛み傷、退去費用の基本知識
【対処法】泣き寝入りせず、適正な算出根拠の提示を求めましょう。大家側から全額請求された場合は、見積書の内訳確認や部分補修での対応を主張することが有効です。また、経過年数に応じて床の残存価値(価値の減少分)はゼロに近づくため、入居期間が長いほど借主の負担割合は低くなります。不当な高額請求に納得がいかない場合は、消費者センターや専門家への相談も視野に入れましょう。
ペットによる床の削れや噛み傷は、通常の生活で生じる「経年劣化」や「通常損耗」ではなく、借主の責任である「故意・過失またはそれに準ずる損耗(特別損耗)」と判断されることが一般的です。そのため、借主に原状回復義務が生じるケースが多いのは事実です。
しかし、だからといって「大家や管理会社の言い値で全額支払う」必要は一切ありません。法的根拠とガイドラインに基づき、適正な金額を見極める必要があります。
1箇所あたりの「リペア補修」で足りるケースが多い
フローリングの一部に犬や猫が噛んだ跡や、ワックスが剥がれたような傷がある場合、不動産会社や大家は「部屋全体のフローリングの張り替え」を主張してくることがあります。
しかし、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「損耗発生部分の修繕を基本とする」という原則が定められています。
- 傷のついた部分だけをパテや専用の補修材で埋める
- 木目を描いて周りと馴染ませる「リペア技術」で十分修復可能
このようなケースでは、部屋全体の張り替え費用ではなく、数万円程度のリペア補修費用を負担すれば足りることがほとんどです。「部屋全体を替える必要がある」と言われた場合は、部分補修で対応できないか交渉する余地があります。
減価償却と耐用年数の計算を知る
たとえ全面張り替えが必要なほど激しいダメージであったとしても、フローリングには「耐用年数」が存在するため、経年に応じてその価値は下がっていきます。
国税庁の定める耐用年数省令において、建物の付属設備である木製床の耐用年数は「一般的に6年」とされています。
- 入居してからすでに何年も経過している
- 入居前からすでにフローリングが古かった
このような場合、フローリングの残存価値(価値の残りの割合)は非常に低くなっています。例えば、築10年以上の物件であれば、帳簿上のフローリングの価値はすでに「1円(残存価値10%)」またはそれに近い状態になっています。
したがって、仮に全面張り替えの工事を行うとしても、借主が負担すべき金額は、その時点の残存価値に応じた割合に限定されるべきであり、新品同様の全額を請求されるのは不当となります。
ペット可物件における特約の有無に注意
ペットを飼育する際、賃貸借契約書に「ペット特約」が盛り込まれているケースがほとんどです。この特約の内容によっては、退去時の費用負担が通常とは異なる場合があります。
多くのペット特約では、退去時に「ハウスクリーニング代の全額借主負担」や「専用の消臭・消毒費用」などが定められています。しかし、裁判例の傾向としても、「借主に一方的に不利な過度な原状回復義務を負わせる特約」は無効と判断されるケースが少なくありません。
「ペットを飼っていたのだから、床がボロボロでも全部こちらの全額負担で直せと言われた」という場合でも、特約の有効性や、経年劣化・減価償却の計算を行うことで、請求額を大幅に引き下げられる可能性があります。
納得いかない請求をされた場合の対処法
もし、退去時に法外な床の修繕費を請求された場合は、以下のステップで冷静に対処しましょう。
- 見積書の内訳を細かく確認する:「床一式工事」などと大雑把に書かれている場合は、部分補修(リペア)の見積もりも出すよう請求します。
- 入居期間や築年数を確認する:減価償却の計算を行い、現在の残存価値を確認します。
- 証拠写真を残しておく:退去時や入居時に撮影した傷の写真があれば、交渉の強力な武器になります。
- 専門家に相談する:大家や管理会社との交渉が難航している場合は、泣き寝入りする前に、消費者センターや原状回復トラブルに強い弁護士に相談することをおすすめします。
原状回復・退去費用の高額請求でお悩みの方へ
国交省ガイドラインに基づき、弁護士が適正金額への減額交渉・返還請求をサポートします。諦めて支払う前に、まずはお気軽にご相談ください。