交通事故の被害者が亡くなり、葬儀を執り行ったり勤務先に報告したりすると、親戚や知人、会社関係者などから多くの「香典」や「弔慰金(見舞金)」がご遺族に寄せられます。
これらの金銭は、遺族の深い悲しみを慰め、今後の生活を少しでも支援しようという周囲の「厚意」の表れです。 しかし、加害者の保険会社の中には、賠償金を少しでも安く抑えるために、「ご遺族はすでに香典や見舞金として〇〇万円の利益を得ているのだから、その分は我々が払うべき慰謝料や賠償金から差し引く(損益相殺する)のがルールだ」と主張してくる担当者がいます。
この保険会社の主張は、法的に正しいのでしょうか?
香典は絶対に「損益相殺されない」
まず結論から言うと、お葬式等で参列者から受け取った「香典」が損益相殺(賠償金からの減額)の対象になることは絶対にありません。
これは、昭和43年の最高裁判所判決によって確立された揺るぎないルールです。 香典は、亡くなった方への哀悼の意と、残された遺族への慰藉(なぐさめ)を目的とした「社会的儀礼に基づく贈与」であり、決して「加害者が払うべき損害賠償金の肩代わり」として渡されたものではないからです。
したがって、香典でいくら大金を受け取っていたとしても、加害者に対する賠償請求額が減らされることは1円もありません。
※注意:香典と「香典返し」の関係
香典が損益相殺されない(利益として計算されない)ことの裏返しとして、いただいた香典に対するお返しの品である「香典返し」の費用は、交通事故の損害として加害者に請求することはできません。 法的には「香典と香典返しは、互いに相殺されてゼロになる」という関係で扱われます。
会社からの「弔慰金・見舞金」も原則は控除されない
被害者が勤務していた会社や、所属していた労働組合などからご遺族に支払われる「弔慰金」や「見舞金」についても、原則として損益相殺の対象にはなりません。
これらも香典と同様に、会社から遺族に対する恩恵的・慰撫的な性質を持つお金であり、加害者の賠償義務を軽くするためのものではないからです。
控除されてしまう(損益相殺される)例外ケース
ただし、会社からの支払金であっても、以下のようなケースでは例外的に損益相殺の対象(賠償金からの減額)となる可能性があります。
- 社会通念を著しく逸脱するような巨額の弔慰金 例えば、数千万円から1億円近いような異常に高額な弔慰金が支払われた場合、「単なる見舞金ではなく、実質的な損害補填である」とみなされ、一部が控除される可能性があります。
- 会社の規定で「損害賠償の代わり」と明記されている場合 会社の就業規則や弔慰金規定の中に、「この弔慰金は、会社が負担すべき損害賠償金(使用者責任等)の一部に充当する」といった明確な記載がある場合は、賠償金の前払いと同じ性質を持ち、損益相殺の対象となります。
- 加害者自身(または加害者の会社)からの見舞金 加害者本人がお通夜に持参した見舞金(香典)や、加害者の勤務先から支払われた見舞金については、金額が大きければ「損害賠償金の一部(内払い)」と認定され、最終的な示談金から差し引かれることになります。
不当な減額主張には弁護士が盾になります
大切なご家族を失った悲しみの中で、周囲から寄せられた温かい「厚意」のお金まで、保険会社から「賠償金から差し引きます」と冷たく言い放たれることは、ご遺族にとって二重の苦痛となります。
保険会社は、遺族が法的な知識を持っていないことをいいことに、本来控除してはならない見舞金や特別支給金(労災)までどさくさに紛れて示談書の控除欄に滑り込ませてくることがあります。 このような不当な減額を許さないためにも、示談書にサインをする前に必ず夕陽ヶ丘法律事務所にご相談ください。損益相殺の妥当性を弁護士が厳格にチェックし、ご遺族が受け取るべき最大限の賠償額を確保いたします。