交通事故では、むちうちや骨折に隠れて見落とされがちですが、頭部への強い衝撃(側頭骨骨折や脳挫傷など)や、頸部の激しい鞭打ち運動によって内耳の神経が傷つき、耳に深刻な後遺症(難聴・耳鳴り)が残ることがあります。
「周囲の音が聞こえにくい」「常にキーンというノイズが鳴り響いている」という状態は、会話によるコミュニケーションを著しく阻害し、仕事や日常生活に多大なストレスをもたらします。ここでは、耳に関する代表的な後遺障害の基準と、認定に必要な専門的検査について解説します。
1. 聴力障害(難聴)の等級基準
聴力障害は、どのくらいの大きさの音(デシベル:dB)まで聞き取れるかという「純音聴力レベル」と、言葉をどれくらい正確に聞き分けられるかという「語音明瞭度(%)」の2つの指標を組み合わせて、1級から14級まで細かく等級が定められています。
- 第4級3号:両耳の聴力を全く失ったもの(両耳とも90dB以上の音が聞こえない等)
- 第6級3号:両耳の聴力が耳に近接しなければ大声を解することができない程度(両耳とも80dB以上)になったもの
- 第9級9号:片耳の聴力を全く失ったもの(片耳が90dB以上の音が聞こえない等)
- 第11級5号:片耳の聴力が耳に近接しなければ大声を解することができない程度(片耳が80dB以上)になったもの
- 第14級3号:片耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度(片耳が40dB以上)になったもの
2. 耳鳴り(耳鳴症)の等級基準
聴力の低下を伴わず、あるいは軽微な聴力低下とともに「常に耳鳴りがする」という場合も後遺障害の対象となります。
- 第12級相当:耳鳴りが常時あり、かつ、専用の検査(ピッチマッチ検査およびラウドネスバランス検査)によって、耳鳴りの存在が他覚的・客観的に証明できるもの。
- 第14級相当:耳鳴りが常時あり、上記の検査で証明まではできないものの、事故の状況や症状の経過から、耳鳴りの存在が合理的に説明できるもの。
【注意点】 「たまに耳鳴りがする」「静かな部屋にいる時だけ気になる」といった断続的な耳鳴りは、後遺障害の対象外とされます。認定には「昼夜を問わず常に鳴り続けている(常時性)」ことが要件となります。
難聴・耳鳴りの認定における最大の壁は「詐聴の疑い」
耳の後遺障害申請において、自賠責の審査機関が最も厳しく警戒するのが「詐聴(さちょう:実際は聞こえているのに聞こえないフリをしているのではないか、という疑い)」です。
患者がボタンを押す自己申告の検査(純音聴力検査)だけでは、わざと遅れてボタンを押すことができてしまうため、審査機関は「この検査結果は信用できない」と判断し、非該当にしてしまうケースが後を絶ちません。
この「詐聴の疑い」を完全に晴らし、適正な等級を獲得するためには、以下の検査を徹底することが不可欠です。
必須となる3つの検査
- 純音聴力検査(オージオメータ)を3回以上実施する 日を変えて3回(約1週間の間隔をあけて)実施し、それぞれの検査結果(オージオグラムの波形)に大きなズレがない(一貫している)ことを証明します。
- 語音聴力検査の実施 「ア」「キ」などの言葉を聞き取り、どれだけ正確に復唱できるかのテストです。これも自己申告の矛盾をあぶり出す指標となります。
- ABR検査(聴性脳幹反応検査)の実施【極めて重要】 音に対する脳波の反応を機械で直接測定する検査です。被害者の意思(聞こえないフリ)が一切介入できない完全な他覚的検査であるため、このABR検査で聴力低下のデータが出れば、詐聴の疑いを完全に払拭し、確実な等級認定へとつながります。
事故後すぐに耳鼻咽喉科への受診を
耳の神経へのダメージは、事故直後から速やかに治療(ステロイド剤の投与など)を開始しなければ、そのまま固定化してしまうリスクが高い部位です。 また、事故から1〜2ヶ月経ってから初めて耳鼻科を受診しても、「事故とは無関係の加齢性難聴や、突発性難聴ではないか」と保険会社から一蹴されてしまいます。
交通事故で頭を打ち、少しでも耳の聞こえにくさや耳鳴りを感じたら、その日のうちに耳鼻咽喉科を受診し、カルテに症状を記録してもらうことが鉄則です。 耳の後遺障害申請に必要な専門検査の手配や、保険会社との交渉に不安がある方は、交通事故の医療問題に強い夕陽ヶ丘法律事務所にぜひご相談ください。