ひき逃げや当て逃げ事故に遭った場合の政府保障事業の活用と被害者救済

【本記事の監修者】
弁護士 井上 正人(大阪弁護士会所属 / 登録番号:第43449号 / 弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表弁護士)
※本記事は、弁護士による交通事故示談交渉・後遺障害等級認定の実務経験に基づき、最新の法令および裁判所基準(弁護士基準)に沿ってわかりやすく解説しています。

交通事故の加害者が現場から逃走し、誰が犯人か分からない「ひき逃げ事故」。 被害者は突然のケガで苦しむだけでなく、「治療費や慰謝料を一体誰に請求すればいいのか」という深い絶望と不安に直面します。

加害者が判明しない場合、相手の自賠責保険や任意保険に請求することができません。しかし、このような被害者を救済するために、国(国土交通省)が用意している「政府保障事業」という制度が存在します。

Q ひき逃げや当て逃げに遭って加害者が分からない場合、治療費や慰謝料はどこに請求すればいいですか?
A 【法律上の結論と補償の仕組み】加害者が不明なひき逃げ事故に遭った場合、国が加害者に代わって最低限の補償を行う政府保障事業を利用することで、自賠責保険の基準(傷害は最高120万円まで、死亡は最高3000万円まで)に準じた治療費や休業損害、慰謝料などの請求が可能です。ただし、車の修理代などの物損は補償対象外となり、健康保険の優先使用や他からの受給額の差し引きなど厳格なルールが存在します。
【損をしないための対策と弁護士活用のメリット】政府保障事業への請求手続きは必要書類が多く、健康保険との併用や損害額の控除計算など専門的な判断が不可欠です。また、自身の加入する自動車保険の無保険車傷害保険や人身傷害補償特約が使える場合もあり、どちらを優先すべきかで受給額が変わります。泣き寝入りを防ぎ適正な補償を確実に受け取るためにも、事故直後に交通事故に強い弁護士へご相談ください。

政府保障事業とは何か?

政府保障事業とは、ひき逃げ(加害者不明)や無保険車による事故などで、自賠責保険からも補償を受けられない被害者に対し、国が加害者に代わって損害をてん補する制度です。

補償される金額の範囲

政府保障事業から支払われるてん補金(損害賠償金)は、「自賠責保険と全く同じ基準と限度額」で計算されます。

  • 傷害(ケガ): 最高120万円

  • 後遺障害: 75万円(14級)〜最高4,000万円(1級)

  • 死亡: 最高3,000万円

治療費、休業損害、慰謝料などがこの枠内で支払われます。ただし、自賠責保険と同様に「物損(車の修理代など)」は対象外ですので注意してください。

政府保障事業の注意点とデメリット

政府保障事業は最後のセーフティネットですが、通常の保険請求とは異なる厳しいルールがあります。

  1. 健康保険や労災保険の優先使用が義務

    政府保障事業を請求する場合、病院の治療費は全額実費ではなく、必ず健康保険や労災保険を使って自己負担額を減らす義務があります。

  2. 損害額からの厳格な控除(差し引き)

    被害者が自分の健康保険から給付を受けた分や、自身の生命保険や傷害保険から保険金を受け取った場合、その金額は政府保障事業の支払額から厳格に差し引かれます(自賠責保険よりも控除が厳しいです)。

  3. 仮渡金(前払い)の制度がない

    自賠責保険には、当面の治療費のために前払いを受ける「仮渡金」の制度がありますが、政府保障事業にはありません。すべての治療が終わり、損害額が確定してから一括で支払われるため、それまでの治療費は被害者が立て替える必要があります。

まずは「自分自身の自動車保険」を確認する

政府保障事業は立て替え負担などが厳しいため、ひき逃げに遭った場合、何よりも優先して確認すべきは「自分自身(または家族)が契約している自動車保険」の補償内容です。

人身傷害保険を使う

自分が加入している保険に「人身傷害保険」が付帯していれば、加害者が不明であっても、ご自身の保険から治療費や実損額が速やかに支払われます。通常、これを使うのが最も早くて手厚い救済方法です。(人身傷害保険を使用しても等級は下がりません)。

無保険車傷害特約を使う

ひき逃げで後遺障害が残ったり死亡したりした場合は、ご自身の保険の「無保険車傷害特約」が適用され、自賠責基準(政府保障事業)の上限を超える部分について、ご自身の保険会社から十分な保険金が支払われます。

ひき逃げに遭ったら絶対にすべきこと

  1. 直ちに警察に通報する

    政府保障事業を利用するためには、警察が発行する「交通事故証明書(加害者欄が不明または空欄のもの)」が絶対に必要です。

  2. 周囲の証拠を確保する

    ドライブレコーダーの映像保存や、目撃者の確保を行ってください。のちに警察の捜査で加害者が特定されれば、通常の損害賠償請求に切り替えることができます。

ひき逃げ事故の手続きは、自身の保険の活用や政府保障事業への請求など、通常より複雑になります。泣き寝入りする前に、交通事故に強い弁護士に相談し、活用できる制度をすべて洗い出してもらうことが解決への第一歩です。

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FAQよくある質問

Q. 当て逃げされて車がボコボコになりました。政府保障事業で修理代は出ますか?

A. いいえ、出ません。政府保障事業は自賠責保険と同じく「人身損害(ケガや死亡)」のみが対象であるため、物損(車の修理代)は補償されません。当て逃げの物損については、ご自身が加入している自動車保険の「車両保険(エコノミー除く)」を使うことになります。

Q. 相手が盗難車で事故を起こして逃げました。この場合も政府保障事業は使えますか?

A. はい、盗難車等によって引き起こされ、車の本来の所有者に責任を問えない(自賠責保険が使えない)ケースにおいても、政府保障事業による救済の対象となります。

弁護士 井上正人

この記事の監修

弁護士 井上 正人
(いのうえ まさと)

大阪弁護士会所属(登録番号:43449)
弁護士法人夕陽ヶ丘法律事務所 代表

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