交通事故で後遺障害が認定され、将来の収入減に対する補償である「逸失利益」を計算する際、保険会社から提示された計算書に「ライプニッツ係数」という見慣れない言葉が必ず記載されています。
逸失利益の計算式は以下の通りです。
- 基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数(労働能力喪失期間に対応するもの)
この「ライプニッツ係数」は、被害者が受け取るべき金額を「あらかじめ割り引く(減らす)」ための数字です。なぜ被害者のお金が減らされなければならないのか、その法的な理由を解説します。
中間利息控除(ちゅうかんりそくこうじょ)という考え方
逸失利益は、「もし後遺症がなければ、これから定年(一般的に67歳)までの間、毎年稼いでいたはずの収入」に対する補償です。
例えば、むちうち等で今後10年間、毎年50万円ずつ減収が発生すると仮定します。単純に足し算をすれば「50万円 × 10年 = 500万円」になります。 しかし、交通事故の示談では、この10年分の500万円を「今すぐ、一括で」受け取ることになります。
もし被害者が、この一括で受け取った500万円を安全な金融機関に預けて資産運用(複利運用)したとします。すると、10年後には利息がついて500万円以上の金額になってしまいます。 法律(損害賠償の実務)では、「本来、10年後に受け取るはずだったお金を今一括でもらうことで、被害者が利息分の『不当な利益(二重取り)』を得てはいけない」という考え方をします。
そこで、「あらかじめ増えるであろう利息(中間利息)分を計算して、元本から差し引いておく」という処理を行います。これを「中間利息控除」と呼び、その複雑な複利計算をあらかじめ数値化した一覧表が「ライプニッツ係数」なのです。
計算シミュレーションの比較
毎年50万円の損失が10年間続く場合(法定利率3%のライプニッツ係数「8.5302」を使用):
- 単純計算:50万円 × 10年 = 500万円
- 正しい計算:50万円 × 8.5302 = 4,265,100円
このように、中間利息分(約73万円)が控除された金額が、正当な逸失利益として支払われます。
令和2年4月の民法改正による「被害者へのメリット」
この中間利息を計算するベースとなる利息(法定利率)は、長年にわたり民法で「年5%」と定められていました。 しかし、銀行にお金を預けても利息がほとんどつかない現代の超低金利時代において、「年5%の利息で確実に増えるはずだ」と仮定して賠償金を大きく差し引くのは被害者にとって酷すぎます。
そこで、2020年(令和2年)4月1日に施行された改正民法により、法定利率は年5%から「年3%」へと引き下げられました(※今後は市場金利に合わせて3年ごとに変動するルールになっています)。
差し引かれる利息の割合(パーセンテージ)が減ったため、改正後に発生した交通事故の被害者は、改正前よりも手元に残る逸失利益の金額が大幅にアップするようになりました。
係数の選び方でのトラブルに注意
ライプニッツ係数は、「何年間働く予定だったか(労働能力喪失期間)」という年数に対応した数値を選びます。
ここで保険会社とのトラブルになりやすいのが、「期間の年数」を短く設定しようとしてくる点です。 「むちうちの痛みは数年で消えるから、喪失期間は10年ではなく『3年(ライプニッツ係数 2.8286)』で計算すべきだ」と主張されると、受け取れる逸失利益は極端に少なくなってしまいます。
ライプニッツ係数そのものは数学的な定数で争いの余地はありませんが、「その係数を適用するための『期間(年数)』を何年に設定するか」は、弁護士の立証能力によって大きく変わります。適正な期間に基づく逸失利益を獲得するためには、夕陽ヶ丘法律事務所の弁護士にご相談ください。