交通事故の示談交渉が暗礁に乗り上げ、「もう裁判(訴訟)で白黒つけるしかない」となった場合。 被害者の方が最も不安に感じるのは、「裁判を起こすと、弁護士費用以外にも莫大なお金(裁判費用)がかかって、結局赤字(費用倒れ)になるのではないか?」ということでしょう。
裁判所を利用するためには、当然ながら手数料がかかります。 しかし、テレビで見るような「裁判費用で破産する」といった大袈裟なものではありません。交通事故裁判を始めるために必要な「実費(じっぴ)」の仕組みについて解説します。
裁判所に納める3つの「実費」
弁護士に払う報酬(着手金や成功報酬)とは別に、裁判を起こす(訴状を提出する)際に必ず裁判所に納めなければならない実費は、主に以下の3つです。
1. 収入印紙代(申立手数料)
これが裁判費用のメインとなります。裁判所を利用するための手数料であり、訴状に印紙を貼って納めます。 印紙代の金額は定額ではなく、「相手にいくら請求するか(訴額)」に応じて法律で細かく決められています(請求額が高いほど、印紙代も高くなります)。
【印紙代の目安】
- 請求額が 100万円 の場合:1万円
- 請求額が 300万円 の場合:2万円
- 請求額が 500万円 の場合:3万円
- 請求額が 1,000万円 の場合:5万円
- 請求額が 3,000万円 の場合:11万円
- 請求額が 5,000万円 の場合:17万円
死亡事故や重度後遺障害で1億円を請求する場合でも、印紙代は32万円です。「請求額の何割も持っていかれる」わけではありません。
2. 郵便切手代(予納郵券)
裁判所が、被告(加害者)に訴状を送ったり、弁護士に書類を送ったりするための郵便代です。あらかじめ指定された組み合わせの切手(数千円分)を裁判所に預けます。余った分は裁判終了後に返還されます。
3. その他(鑑定費用など)
過失割合や後遺障害の有無を巡って、医師や工学専門家の「鑑定」が必要になった場合、その鑑定費用(数十万円かかることもあります)が実費として必要になる特殊なケースもあります。
もし裁判で「負けた」場合、費用はどうなる?
裁判における費用の大原則として、「訴訟費用(印紙代や切手代などの実費)は、敗訴した側が負担する」というルールがあります(民事訴訟法61条)。
被害者が裁判を起こして「全面勝訴」した場合、被害者が立て替えていた印紙代等の実費は、加害者側に請求することができます(※弁護士費用とは別です)。 逆に、被害者が裁判で「完全敗訴(請求棄却)」となった場合、被害者は自分の実費だけでなく、相手(加害者)が裁判所に払った実費も負担しなければなりません。
ただし、交通事故裁判で「完全敗訴(1円も取れない)」になるケースは極めて稀です。多くの場合、請求額の一部が認められる「一部勝訴」となるため、裁判所が「訴訟費用は各自の負担とする(または10分の1を被告の負担とする)」などと割合を決めます。実務上は、自分が立て替えた印紙代は自己負担となるケースがほとんどです。
弁護士費用特約があれば「実費」も全額カバーされる
ここで最大の威力を発揮するのが、やはり「弁護士費用特約」です。
ご自身やご家族の保険に弁護士費用特約がついていれば、弁護士の着手金や報酬だけでなく、裁判所に納める印紙代、切手代、さらには高額な鑑定費用に至るまで、最大300万円の枠内で保険会社が全額負担してくれます。
つまり、特約さえあれば、被害者は「裁判費用で赤字になる(費用倒れになる)」リスクを1ミリも心配することなく、強気に裁判を起こして徹底抗戦することが可能になるのです。
特約がない場合の「費用対効果」の判断
特約がなく、自費で裁判を起こす場合、弁護士費用(着手金+成功報酬)と実費(印紙代等)の合計額が、裁判によって増額する賠償金の見込み額を上回ってしまうと「費用倒れ(赤字)」になります。 特に、ケガの軽い物損事故や、争点がないのに単に金額を少し上げたいだけの事案では、裁判を起こすメリットはありません。
夕陽ヶ丘法律事務所では、裁判を起こす前に必ず「勝訴の見込み」と「かかる費用のシミュレーション(費用対効果)」を厳密に行います。「弁護士だけが儲かって、依頼者が損をする」ような裁判は決してお勧めいたしません。裁判をするべきか、示談で終わらせるべきか、プロの客観的な判断をお求めの方はぜひご相談ください。