交通事故の被害に遭い、相手の保険会社の横柄な態度や不当に低い提示額に怒り心頭の被害者の方は、「徹底的に裁判で戦い、最後は裁判官の口から『加害者が悪い、〇〇万円払え』という判決を言い渡してもらって、完全に白黒つけてやる!」という強い思いで弁護士に依頼されます。
もちろん、弁護士はその怒りを受け止め、法廷で相手を徹底的に追及します。 しかし、現実の交通事故裁判の統計を見ると、最後まで戦い抜いて「判決」で終わるケースは約30%に過ぎず、残りの約70%のケースは、裁判の途中で「和解(わかい)」が成立して終了しています。
なぜ、最初にあれほど「白黒つける!」と息巻いていた被害者の方々が、途中で「和解」という妥協(話し合い)の道を選ぶのでしょうか。
裁判官が「和解」を強く勧めてくる理由
裁判が中盤から終盤(証拠の提出が終わり、本人尋問が終わった後)に差し掛かると、裁判官はすべての証拠をもとに「どちらの言い分が正しいか」の心証(結論)を固めます。
ここで裁判官は、いきなり判決文を書くのではなく、被害者と加害者(保険会社)の双方を別室に呼び出し、 「今の段階で私が判決を書くとすれば、大体これくらいの金額(過失割合)になります。どうですか、判決ではなくこの内容で和解(合意)しませんか?」 と和解勧告を行います。
裁判所(裁判官)にとっても、和解には大きなメリットがあります。 判決文を書くという膨大な労力を省けるだけでなく、当事者双方が合意して事件が終了するため、上級審(高等裁判所)へ控訴されることがなく、1つの事件を「完全に終わらせる」ことができるからです。
被害者が「和解」を選ぶ3つの合理的な理由
裁判官から和解案を提示された際、当初は「絶対に判決だ!」と言っていた被害者の方も、弁護士から以下のメリットを説明されると、多くの方が和解での解決を選択します。
1. 早期に、かつ確実にお金が手に入る
判決を待つ場合、そこからさらに1〜2ヶ月の時間がかかります。しかし、和解に合意すればその日に裁判は終わり、おおむね2週間〜1ヶ月以内には確実にご自身の口座に賠償金が振り込まれます。長く苦しい事故の対応から「今日、解放される」という精神的メリットは計り知れません。
2. 「控訴されるリスク(泥沼化)」をゼロにできる
これが最大の理由です。 もし和解を蹴って「判決」をもらった場合、その判決内容に不満を持った保険会社が「控訴(高等裁判所への不服申し立て)」をしてくるリスクがあります。控訴されると、解決はさらに半年〜1年以上も先延ばしになり、被害者の精神的ストレスは限界に達します。 和解は「双方が合意して終わる」ため、絶対に控訴されることはありません。
3. 柔軟な解決(玉虫色の決着)が可能
判決では「過失割合は20%」などと白黒がハッキリ書かれますが、和解の場合は「過失割合は明記しないが、相手が解決金として〇〇万円を支払う」といった、双方のメンツを保つための柔軟な着地点(玉虫色の決着)を作ることができます。
それでも「判決」まで行くレアケースとは?
では、残りの3割の「和解が決裂し、判決まで行くケース」とはどのような場合でしょうか。
- 遅延損害金と弁護士費用をフルで取りに行く場合 裁判で判決が出た場合のみ認められる「遅延損害金(事故日からの利息・年3%)」と「弁護士費用相当額(総額の10%)」。賠償額が数千万円になる重大事故では、これらが上乗せされるだけで数百万円の増額になります。和解案ではこの上乗せ分が削られることが多いため、「時間がかかって控訴されてもいいから、1円でも多く取るために判決を求める」という経済的合理性に基づく決断です。
- 相手の保険会社が頑なに和解を拒否する場合 相手の過失が明白なのに「自分は青信号だった」と虚偽の主張を一切曲げないなど、保険会社側が和解案に応じない場合は、必然的に判決で強制的に白黒をつけるしかありません。
- 被害者の処罰感情(怒り)が極めて強い場合 「お金の問題ではなく、加害者が100%悪いという事実を裁判所の判決文として歴史に残してほしい」という、被害者(ご遺族)の強い信念がある場合です。
「和解か、判決か」。この究極の選択において、弁護士は被害者様の「感情」と「経済的利益」の両方を天秤にかけ、最も納得のいくゴールへ導くための水先案内人となります。示談や裁判で行き詰まりを感じている方は、夕陽ヶ丘法律事務所までご相談ください。