交通事故の「逸失利益(後遺症による将来の収入減)」を計算する際、最も重要な要素の一つが「労働能力喪失期間(いつまで減収が続くか)」です。
手足を失ったり、関節が曲がらなくなったりした器質的障害の場合、その状態は一生回復しないため、喪失期間は原則として「症状固定時から67歳(定年)までの全期間」として計算されます。
しかし、交通事故で最も認定件数が多い「むちうち(頸椎捻挫・腰椎捻挫)」による痛みや痺れ(神経症状)に関しては、この「67歳まで」という大原則が適用されません。被害者にとって非常に理不尽に思える、むちうち特有の「期間制限の壁」について解説します。
むちうちの喪失期間は「5年」または「10年」が原則
裁判実務において、むちうち等の神経症状に対する労働能力喪失期間は、認定された後遺障害等級に応じて以下のように画一的に制限されるのが確固たる慣行(ルール)となっています。
- 第14級9号(医学的に説明可能な痛み)の場合:原則として「5年間」
- 第12級13号(画像で証明された頑固な痛み)の場合:原則として「10年間」
なぜ、定年まで補償してくれないのでしょうか? その理由は、医学的・経験則的に「むちうちによる痛みや痺れといった神経症状は、時間の経過とともに自然に治癒していくか、あるいは被害者自身がその痛みに慣れ(順応し)、仕事への支障が徐々になくなっていくものだ」と考えられているからです。
そのため、30歳で14級に認定され、「これから37年間も痛みが続くのに!」と訴えても、裁判で認められるのは原則5年分の逸失利益のみとなります。
保険会社は「3年」や「0年」を主張してくる
ただでさえ5年や10年という短い期間に制限されているむちうちの逸失利益ですが、保険会社の担当者は、被害者に対する最初の示談提示において、さらにこの期間を削ってこようとします。
- 「14級なので、当社の基準では逸失利益は3年分です」
- 「痛くても現在の給料は下がっていないので、逸失利益は発生しません(0年・0円です)」
このような提示を鵜呑みにしてサインをしてしまうと、本来もらえるはずの正当な賠償金(裁判基準での5年分・10年分)をみすみす逃してしまうことになります。保険会社が「3年」と言ってきても、弁護士が交渉すれば、ほぼ確実に裁判基準である「5年(または10年)」へと引き上げることが可能です。
例外的に期間を「延長」させるための戦い
原則は5年・10年ですが、これは絶対的な法律ではありません。被害者の職種や症状の特殊性を弁護士が裁判で徹底的に立証することで、この「期間の壁」を突破し、より長い期間(7年、15年、あるいは定年まで)の逸失利益を獲得できるケースも存在します。
期間延長が認められやすいケース
- 身体の動きが直結する肉体労働者の場合 大工、とび職、重い荷物を運ぶドライバー、介護職員など、首や腰の痛みがダイレクトに業務効率を落とし、痛みに「順応」することが困難な職業の場合、通常より長い期間が認められることがあります。
- 症状が極めて重篤・特殊である場合 通常のむちうちとは異なり、神経の損傷が激しく、将来的に手術を要する可能性が高い場合や、症状の改善が医学的に全く見込めないことが医師の詳細な意見書等で証明された場合。
- 年齢が高い(中高年)の場合 人間の回復力・順応力は年齢とともに低下するため、「若者のように5年で治癒・順応するとは考えにくい」として、高齢被害者に対しては長めの期間が認定される裁量が入ることがあります。
むちうちの逸失利益は、労働能力喪失率(5%または14%)と喪失期間(5年または10年)の掛け算で決まるため、期間が数年延びるだけで賠償額は数十万円から百万円以上も跳ね上がります。 保険会社から提示された「3年」という短い期間に納得できない方は、示談をする前に必ず夕陽ヶ丘法律事務所にご相談ください。過去の裁判例を駆使し、あなたの症状と職業に見合った最大限の期間獲得を目指して交渉を行います。