外国人が日本で交通事故に遭った場合の基本ルール
日本国内で交通事故の被害に遭った場合、被害者が外国籍(旅行者、留学生、技能実習生、駐在員など)であっても、「事故が発生した地の法律が適用される」という国際私法の原則により、日本の法律(自動車損害賠償保障法や民法)が適用されます。
したがって、日本人の被害者と全く同じように、加害者の自賠責保険や任意保険に対して、治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益などの損害賠償を請求する権利があります。
治療費と健康保険の利用
日本の健康保険に加入している外国人(技能実習生や一定期間以上の在留資格を持つ方)は、交通事故の治療に健康保険を使用することができます。保険会社から「自由診療」での治療を求められた場合でも、被害者自身の負担を減らし、賠償金の枠(自賠責の120万円など)を有効に使うために、健康保険(または労災保険)への切り替えを検討すべきです。
一方で、短期滞在の旅行者など日本の健康保険がない場合は、全額自己負担(自由診療)となるか、旅行保険を利用することになります。この場合も、最終的には加害者側の保険会社に請求します。
外国人の「休業損害」の計算
交通事故による怪我で仕事を休んだ場合の「休業損害」は、日本国内で就労資格を持って働いている場合、原則として事故前の実際の収入(日本の給与)を基準に計算されます。
不法就労者の休業損害
在留資格がない、あるいは就労が認められていない資格(観光ビザなど)で不法に就労していた外国人の場合、休業損害が認められるかどうかが争いになります。 過去の裁判例では、不法就労であっても、事実上得ていた収入の喪失として休業損害を認めたケースがあります。ただし、強制送還の対象となる可能性が高いため、長期間の休業損害の認定は極めて厳しくなります。
最大の争点:「逸失利益」の基礎収入はどの国の水準か?
外国人の交通事故において、賠償額に最も大きな影響を与え、かつ保険会社との間で激しく争われるのが、後遺障害が残った場合や死亡した場合の「逸失利益」の計算です。
逸失利益は「将来得られるはずだった収入の減少分」を補償するものですが、外国人の場合、将来も日本で働き続けるのか、母国に帰国して働くのかによって、基礎となる賃金水準(日本の賃金水準か、母国の賃金水準か)が大きく変わります。
3つのパターンの考え方
裁判実務上は、被害者の在留資格や生活基盤、就労の意欲などを総合的に考慮して、以下の3つのパターンに分けて判断されるのが一般的です。
1. 将来もずっと日本で生活する蓋然性が高い場合
永住権を持っている方や、日本人と結婚して生活基盤が完全に日本にある方などです。 この場合、原則として日本の賃金水準(賃金センサス等)を基準にして逸失利益が全期間にわたって計算されます。
2. 将来は母国に帰国する蓋然性が高い場合
技能実習生や留学生、期間の定まった就労ビザで滞在している方などです。 この場合、「日本に滞在できる予定だった期間(残りのビザ期間など)」は日本の収入を基準とし、「帰国後の期間」については母国の統計上の賃金水準を基準として計算されます。 母国の賃金水準が日本よりも大幅に低い国の場合、保険会社から提示される逸失利益は非常に低額になります。
3. 短期滞在の旅行者の場合
観光ビザなどで一時的に来日していた間に事故に遭った場合は、最初から日本での就労を予定していないため、原則として全期間にわたって母国の賃金水準を基準に逸失利益が計算されます。
保険会社の不当な提示への対抗
加害者側の保険会社は、賠償金の支払いを抑えるために、外国人被害者に対して「帰国が前提である」と決めつけ、最初から母国の低い賃金水準で計算した逸失利益を提示してくることがよくあります。
しかし、現在は就労ビザであったとしても、将来にわたって在留資格を更新し続け、日本で永住する意思と可能性があることを弁護士が客観的な証拠(家族状況、日本での資産、就労実績など)をもって立証することで、日本の賃金水準での賠償を獲得できるケースもあります。
言葉の壁と弁護士サポートの必要性
外国人被害者にとって、複雑な日本の交通事故の示談交渉を日本語で行うことは、極めて高いハードルです。 保険会社の担当者が説明する専門用語や、提示された示談書(免責証書)の意味を正確に理解できないままサインをしてしまい、本来受け取れるはずの適切な賠償金を逃してしまうケースが後を絶ちません。
正当な賠償金を獲得するためには、日本の法制度と交通事故の実務に精通した弁護士に依頼し、代理人として保険会社と交渉してもらうことが不可欠です。外国人の方の交通事故トラブルについても、弁護士にご相談ください。